第3話 呪符

Side:フロー

 今日もゴザを敷いて、竹とんぼ売り。


「へへっ頂き」


 くそっ、盗人だ。

 竹とんぼを10ぐらい鷲づかみにされて逃げられた。

 くそっ、逃げ込んだ路地に踏み込む。

 4歳児の足では追いつけないと思う。

 ただ、悔しかったのだ。


 頭にすっぽりと布の袋を被せられた。

 そして脇に抱えられ、どこかに運ばれそうになった。


「誰か!」


 助けが入ったのか。

 乱闘する音が聞こえる。

 そして、俺は放り出された。


 布を取られたら、アノードの笑顔があった。

 だが、アノードは血を流している。


「アノード、刺されたのか? 大変だ!」

「慌てるな。【マナよ、傷を癒せ】。これで元通りだ」


 魔法万能だな。

 それにしてもアノードの親切は度を過ぎている。


「何で助けてくれたの?」

「前にも言っただろう。論理の徒だから」

「それだとパンの時の説明が付かない。論理で言えばそうなる」

「一本取られたな。弟がいたんだ。4歳年下の。その弟が亡くなった歳が4歳だ。君の姿が亡くなった弟と被るんだよ」

「そんなことが。子供が死ぬなんて悲しい」

「もう過去の話だ。子供が死ぬことはよくある」

「この服も弟さんの?」

「嫌だったか?」

「ううん、大事な物じゃなかったの」

「いくら大事にしても弟は戻って来ない。着て貰えるなら幸せだよ」


 そうなんだ。


「ここって治安が悪い?」

「いや、竹とんぼの製法を狙われたのだろう。もっと儲かる物を知っていると思われたのかもな」

「アノードはもしかして俺を観察してた?」

「ああ、色々と辻褄が合わない人物だからな」

「正直に言うよ。転生したんだ。生まれ変わったんだ」


 アノードが泣き出した。


「すまない。死んだ弟のカソードが生まれ変わってどこかで生きていて、会えると分かったら嬉しかったんだ」

「出会えるといいね」

「ああ」


 露店は危ないので、アノードの家で文字の勉強だ。

 アノードはというと赤いインクで赤い紙に文字を書いている。

 あれじゃ書いた内容が分からないだろう。

 何を書いているのかな。


「これかい。呪符だよ。呪文を書いておくと詠唱せずに使える。使い捨てだけどね。それと同じマナだと詠唱した時の半分の威力しか出ない」


 ふーん、無詠唱というわけだな。

 便利なのか不便なのか。

 使う場面によって違うのかな。

 詠唱する暇がない場合は呪符を使った方が早いのは分かる。


 アノードは呪符の隅に火球と白いインクで書いて、完成させたようだ。


「呪符も、長い呪文を書くと効率が良くなるの」

「まあね。だから、良い呪符は書き込まれた呪文が長い。長い呪文にしても効率を75%ぐらいまで上げるのが限界かな。注意事項として書く時に魔法発動のイメージがないといけない」


 これなら文字を習えば手伝える。

 良い内職になるかも。


 早く文字を覚えないと。

 あれっ、最初に言ってたよなどんな呪文でもイメージに合っていれば良いって。


「呪文て外国語でもいけるの。文字とか発音が違う場合とかあるでしょ」

「それでも発動する」


 良いことを聞いた。


「紙とインクを少し頂戴」

「どんなことをするのか楽しみだ」


 紙にカタカナとひらがなと漢字でマナ1の火と書いた。

 呪符を手に取って魔力を送る。

 ロウソクぐらいの炎が灯り、呪符がボロボロになった。

 日本語でも行けるんだな。

 さすが神が作ったであろうシステム。


「これでお手伝いができるよ」

「文字を覚えたのか? いいや転生前の文字か」

「そう転生前の文字」


 こうなると英語とかでも試したくなる。

 英語で点火と書いたら、無事に火が灯った。

 うんうん、システムはこうじゃなくては。

 柔軟性のないシステムなんて糞だ。


 じゃあ。


extern void ignition(int mana);

void main(void)

{

 ignition(1);

}


 こんなのはどうだ。

 試してみると1メートルほどの炎が出た。

 うそーん、何で?

 危うく火事になるところだった。


「凄い、炎だったね。何を書いたの?」

「プログラム。C言語って呼ばれているやつ」


「プログラムの魔法への親和性がずば抜けているということかな」

「世界システムが理解し易い言語ってことなのかな」


「ふむ、革命が起こせるね。どうしたい?」


 呪符の紙が赤でインクが赤で良かった。

 これならプログラムがばれない。

 この技術を悪用されたら、どれだけ被害が出るか。

 封印すべきなのだろうな。


「アノードは何で学者に?」

「弟の死に対して思ったことは死者の数を減らしたいだった。医者を最初に考えたが、それだとモンスターの被害を減らせない。冒険者だと病気や怪我に手も足も出ない。それで真理を得ることができれば死者の数が減らせると思ったのだ。だから学者だ」

「真理には危ない知識もあるんじゃない」

「ああ、真理を使う時は最善の注意を払っている。簡単に言えば人が幸せになるようにしか使わない」


 そうか。

 封印するんじゃなくて人が幸せになる方向へ使えば良いんだ。


extern void ignition(int size_cm);

void main(void)

{

 ignition(1);

}


 これで良いな。

 試してみた。

 驚くほど魔力が減らない。

 たぶん、消費は0.0001マナぐらいかな。


 火点けのマッチ代わりとすれば、良い製品だな。

 こういう便利になる物を作ろう。


 次は。


extern void water(int contents_ml);

void main(void)

{

 water(200);

}


 コップ1杯分の水。

 うん、便利だ。

 旅のお供に最適だ。


 よし、色々と作るぞ。

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