第2話 困窮

Side:フロー

 笹船ですぐに稼げなくなった

 構造が簡単だからね。

 魔法を覚えるまで食い繋ぐことはできないらしい。

 孤児院にでも入るべきか。


「俺みたいな子供を引き取ってくれる場所ってどこ?」

「孤児院?」


 通行人に聞いて孤児院の言葉を覚えた。


「そう孤児院」


 場所は一回の説明では分からなかったが、孤児院という名前が分かれば聞くのは容易い。

 難なく辿り着けた。

 ドアを叩く。


「ごめんなさいね。うちは定員が一杯なの。予算に限りがあるから」


 どうやら駄目らしい。

 仕方ない。

 もう少し語集が多ければ説得もできたかも知れないが、4歳児じゃな。


 エクストラハードだから、こういう展開も仕方ない。

 他力本願は不味いみたいだ。

 大工道具でもあれば、竹で竹とんぼでも作るのに。


 4歳児じゃ出来ないことの方が多い。

 そんな折。

 また、あの学者に出会った。

 ふむ、この人なら、話を聞いてくれるかも。


「あの」

「なんだい」

「物の仕組みを買いませんか」

「物の仕組み?」

「火はどうやって燃えているかとか。星はどう太陽の周りを回っているかだとかだけど」

「ふはははっ、こいつは傑作だ。幼児にこの世の法則を教わるか。お前、何者だ?」

「名前はない。でも俺は俺だ。それ以上でもそれ以下でもない」

「ふむ、知性の欠片がある会話だ。気に入った私はアノード。お前、名前を決めろ」

「名前か。フローにする」

「自分で名前を決めたか。しかも聞いたことのない言葉だ。面白い。物の仕組みを買ってやる。まず火がどうして燃えるのか」

「ええと」


 酸化してるって説明するには。


「燃える物と、空気の中の物が、結び付くと燃えるんだ。その時に温度が重要。ゆっくりだと錆びていく感じだ」

「火と錆が一緒の現象だというのか。面白い。燃焼物は分かる。空気の中の物ってなんだ」

「名前を知らないんだ。人間が生きていくのに必要な空気」

「名前は酸素にしよう」

「その酸素は、色々な物と結びつくんだ。酸化っていう」

「酸化か。新しい言葉だ。いいぞもっとだ」

「酸化は色々な物で存在する。油だって酸化する」

「ほう。これはもっと色々と聞きたいな」

「ぐぅ」

「腹が減って今にも倒れそうだな。私の家に来るが良い」


 着くとすぐに暖かい食事を出された。

 親切が心に染みる。

 俺だったら浮浪児の幼児がこんなことを言っても、何もしない。


 食事しながら、とにかく喋りまくった。

 そして、寝落ちした。

 4歳児だからね。


 起きたらソファーの上だった。

 おまけに服がちゃんとした物になっている。

 靴も用意されている。

 虫刺されに薬さえ塗ってある。

 本当に親切だな。


「弟子に、いいや、食客にしてやる。私より真理に詳しい者を弟子とは呼べないからな」

「俺なんかまだまだだ。魔法のことも知らないし、言葉だって怪しい」

「それは年月が解決するだろう。真理と魔法がどう結びつくのかやってみよう。【マナ10で燃焼物と酸素を召喚、そして点火、激しく化合せよ】」


 青色の炎が出た。


「マナ10で燃焼物と酸素を召喚、そして点火、激しく化合せよ。あれっ、出来ないぞ」

「魔力を言葉に乗せてないからだろう」


 魔力操作をしてなかったらしい。

 体の中を探ると確かに何かある。

 それを発声の時に絞り出すイメージで。


「【マナ10で燃焼物と酸素を召喚、そして点火、激しく化合せよ】。やったできた」


 白い炎が出たがすぐに消えた。


「白い炎と青い炎の違いは何だ」

「燃える温度」

「凄いな。真理とはこうも奥深い」

「魔法が消えたのは何で?」

「たぶん、魔力切れだ。レベルが低いと魔力も低いからな。恐らくレベルが1なのだろう」


「呪文は何でも良いの?」

「そうだな。イメージと合っていれば問題ない。呪文は詳しく唱えるほど、魔力効率が良い」


 長くなると魔力は少なくて済むけど、詠唱が大変なのか。

 呪文は何でも良いってAIに文章を打ち込んでいるみたいだな。

 世界のシステムが生き物なのかAIみたいなのかどちらかだろう。


 腹が減ったので、また食事を摂る。

 話しているうちにまた目蓋が重くなってきた。

 早く大きくなりたいよ。

 寝落ちしまくりだな。

 やはり、ソファーの上で、起きたら夜だった。


 アノードは寝ているらしい。

 食客だけど、衣食住以外を期待したら駄目なような気がする。

 大工道具を家の中から探した。

 そして、竹を切りに行った。


 切り倒すのも大変だったが、一本を引きずって運ぼうとしたら、重くて駄目だ。

 分割して運ぶ。

 何とか、アノードの家まで持ってこれた。

 竹を2ミリぐらいに割る。

 竹トンボを作るのだ。

 正式な作り方は1センチぐらいの厚さに割って、プロペラみたいな形に削る。


 でもそんなの手間だ。

 なので厚さ2ミリぐらい。

 そして削るのではなく、ロウソクで炙って、曲げる。

 これでも十分に飛ぶ。

 キリで中央に穴を開け竹の小枝を付ける。

 完成だ。


 手でこするようにすると、竹トンボがふわりと浮いた。


「何だこれは?」


 朝になって、起きて来たアノードが驚きの声を上げた。


「タケトンボ」


 俺は羽ばたく真似をした。


「竹とんぼか」

「うんそう」


「どんな原理で浮く?」

「浮力だよ。ベルヌーイの定理でこうなる。鳥の翼もこれだよ」


 また話しているうちに寝落ちした。

 そして、できていた朝飯を食う。


 アノードが露店の許可を取ってくれた。

 竹とんぼを売る。

 まあまあの稼ぎになった。

 たぶんすぐに真似されるだろうけど。

 それに何度も竹を盗むのは良くない。

 何か俺だけが作れる物があったらいいのに。

 帰ったら、ご飯が用意されていた。


「アノードは何でそんなに親切なの?」

「それは、お前が論理の徒だからだ」

「それは何となく分かる。名前のフローは流れっていう意味で、プログラムだと、ロジックを指す」

「プログラムとロジックは知らない単語だな」

「うん、そんなのが在ったら驚きだよ。説明は難しいけど、プログラムは全て、理屈と手順で出来ている」

「それがフローの専門分野か」

「まあね」


 論理の徒だから助けてくれたんじゃないような気がする。

 だって露店のパンの時に助けてくれたのは、俺が知識を披露する前だ。


 転生のことは言ってもたぶん信じない。

 だけど、知識は明かしても良いように思う。

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