第2章 物量で理不尽を吹っ飛ばす

第5話 村が壊滅

Side:ガリ

 僕は村人。

 まだ年齢が片手の指全部と指1本で数えられるほどだけど。


 背丈ほどの大きさの食料貯蔵庫から出る。

 家の中が滅茶苦茶だ。

 無事な物など何もない。

 お気に入りの騎士人形も奪い去られた。

 お皿の一枚すらない。


 血痕を見て、ああと悟る。

 部屋に入ると、父さんだった物と母さんだった物がある。

 肉が全て食われていて、物としか言えない自分が悲しい。

 これを見てたら駄目だ。

 家から出るとどの家も同じありさまだった。


 馬の歩く音が聞こえてきた。

 僕は、その音に駆け寄った。

 行商人の小父さんだ。


「坊主何があった?」

「分からない。隠れていろって言われて、貯蔵庫に隠れた。音がしなくなったので出たらこうだった」

「可哀想にな。きっとゴブリンだろう。やつらたまに大発生するからな。そういう場合は上位種も出るから、村人じゃどうにもならない」

「そう」


 涙さえ出て来ない。


「坊主、村に残るか、小父さんと一緒に街に行くか選べ」


 この壊れた村にはいたくない。


「街に行く」

「そうか。その方が生き残る目があるかもな」


 荷馬車の荷台に乗ってぼーっとしてた。

 悲しいのか、悔しいのか、色々な感情がごちゃ混ぜで、しかもそれが表面に出ない。

 喚くことも、泣くことも、虚しい。

 心に穴が空いたようだ。


 何か食べても味がしない。


「おい、死にそうな顔をしているな。坊主、名前は」

「ええと、あれっ、なんだっけ」

「可哀想に、名前を忘れるほどショックだったんだな」

「歳はこんだけ」


 片手を開いて、もう一方手で指を1本添えた。


「6歳か」

「うん」


「いいか、街に着いたら生き残るために足掻け。出ないと死ぬぞ。小父さんが面倒をみることはできない。悪いな、生活があるんだ」

「いいよ。別の家の子になりたくないから。僕の父さんと母さんは死んだあの人だけだ」

「まあ、養子にしてくれと言われても大概は駄目だからな。孤児は多いから。おっ、ゴブリンか。不味いな。追いかけられて街まで連れてったら縛り首だ。坊主、口を閉じてろ飛ばすぞ」


 荷台から後ろを見ると、緑色の肌の醜いモンスターがうじゃうじゃいた。

 あいつらが、父さんと母さんを。

 憎い。

 ゴブリンと言っていた奴らを睨みつける。

 いつかこの住んでいた村を奪い返す。

 その時になったらコテンパンにしてやる。


 そのためには生きないと。

 味のしない食事を我慢して食べる。


「顔つきが、ちょっとましになった」

「ゴブリンをやっつける。いつか必ず」

「そうだな。浮浪児の就職先と言ったら冒険者だ。登録できる歳まで生き残れたらな。今の坊主なら生き残れる気がする」

「うん、冒険者になって、ゴブリンを狩る」


 何日か野営して、街に着いた。

 ゴブリンはなんとか振り切ったようだ。


「街に入る足税は払ってやる。小父さんからの餞別だ」

「ありがと」

「じゃあ行くぞ」


 小父さんの馬車が遠ざかって行くのを見送る。

 そして歩き始めた。

 人がたくさんいる。

 村と比べ物にならない。

 なんか怖い。

 人のいない道に入ると僕ぐらいな子供が地べたに座り込んでいた。


「こんちは」

「おう。お前も浮浪児か?」

「親のいない子を言うのであれば」

「じゃあ仲間だな。俺は太っちょ」

「名前は分からないんだ」

「じゃあお前はガリな」

「それより太っちょは太ってないのになんで」

「ちょっと前までは太ってたんだよ」

「そう」


「この時間だと角の定食屋から残飯が出るぞ。急げ」

「うん」


 初めて残飯を食べた。

 味は悪くない。

 色々な料理がごちゃ混ぜだけど。


「いいか。俺達のグループのテリトリーを必死に覚えろよ。そしてテリトリーはなんとしても守るんだ」

「うん」


 他のメンバーを紹介された。

 コインはげに、鈍足、赤ら顔、眠そう。


 メンバーでかたまって行動する。

 テリトリーを回って残飯を食う。

 ある日、テリトリーに他の浮浪児がいた。

 女の子だ。


「あいつはやばいんだ」

「ええと」


 どうやばいんだ。


「そうそう。盗みをやっているが1回も捕まったことがない。喧嘩でも大人に対して負けない」

「俺、この間、チンピラ冒険者を叩きのめしているのを見たぜ」

「片手ぐらいの年齢なのに」


 冒険者より強いってことはゴブリンの何倍も強いのか。


「まあな。とにかくやばい。マイラだ。こいつとは喧嘩はするなよ。俺達でも助けられない」

「普段は良い奴だ。食料を分けてくれるしな」

「だな。逆らわないことだ」


 マイラは良い奴だが、やばい。

 覚えた。


 戦闘禁止区域も覚えた。

 ここはどこのグループのテリトリーでもない。

 飲食店がない区域だからだ。

 空き地が多い。


 ねぐらには良いらしい。

 ただ、盗難には気を付けろと言われた。

 金目の物は何でも盗まれる。

 最悪は服までも。


 浮浪児の生活に慣れてきた時に、赤ら顔が熱を出した。

 いつもの何割増しも顔が赤い。


 薬なんて物は手に入らない。

 村にいる時に教わっておけば良かった。

 そうしたら、効く薬草が生えているかも知れない。

 できるのは、布を濡らしておでこに載せるだけだ。


「はぁはぁ。俺はもう駄目だ。死んだら花を供えてくれ。誰かに覚えておいてほしい」

「忘れるものか」

「そうだ。頑張れ。病気なんかに負けるな」


 ああ、神様はなんで僕の身近な人を連れて行ってしまうんだろう。

 僕は呪われていいるのかな。

 頼む、赤ら顔を助けて。

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