タンス漁り
「本当に出してもらっていいのですか?」
部屋から出てきた聖女は不思議そうに聞いてくる。
「もちろん完全に開放、とはいかないけどな」
「いえ、あれだけのことをしたのです。それは当然でしょう……」
なんだろう。聖女の聞き分けが良すぎて逆に怖い。
「ところで他の皆さんは……?」
「さすがにあいつらはアルムガルドの王族とか貴族だからな。俺じゃ対応しきれんからリンガイア国王に預けてある」
「私も聖女……ですよ?」
「元、だからな。今はただの平民だ」
「そう……ですか」
聖女は特に悲しそうな顔をするわけでもなくただ無表情で頷く。
「それで私はこれから何をしたらよろしいのですか?」
「特に何も」
「はいっ?」
「別に何かさせようというつもりはない。それに一度自分を見つめ返す機会も必要だろう?」
「あ、ありがとうございま……」
「リナと一緒にこの街でも見て回るといい。一応お前の見張りに付ける兵士に金は渡しておくから欲しいものでもあれば買うといい」
「リナ?」
「あぁ、あの追っかけだ」
「追っかけじゃないですよ? よろしくお願いします。聖女様」
あの時会いに来てくれた少女がにっこりと笑みを浮かべてくる。
その少女を見て、聖女ミリアはおおよその事情を把握する。
おそらくは自分とこの少女を相互監視させることによってトラブルを起こさせないつもりなのだろう。
でも、これは温情だ。
あれだけのことをしでかした自分は本来処刑されてもおかしくない。
特に敵国で聖女として崇められていた存在を倒したとなると名声はうなぎ上りだっただろう。
それなのにそのことを是とせずにこうして生かしてくれている。
聖女に限らずこの第三王子……、いえ、リンガイア王国の貴族であるガルド伯爵は不用意な殺生は行っていない。
嫌われと呼ばれていたはずなのに……。
あの時からすでに私の目は曇っていたのでしょう。
実際に噂なんかに騙されなかった人たちがこれほど彼を慕っている。
領地も気が付くとかなり広大で、リンガイア王国はすでに他の国に匹敵する国力を有している。
これから衰退していくであろうアルムガルドと大違いであった。
だからこそ今一度、初心に戻ってしっかりと考えたい。
神託を受けた聖女として。
本来自分がすべきことは何だったのか。
一体どこで道を踏み外したのか。
この子は私とは逆に聖女であることを、他人に自愛を抱くことを強要されている。
うまい具合に中和できれば良い結果をもたらしてくれるかもしれない。
◇◇◇◇◇◇
リナと二人、領主の館から出ていこうとするミリア。
ただ、その前に……。
「ちょっと、何をされてるのですか?」
「えっと、良いアイテムが落ちてないかを調べてるんですけど……?」
「人のものを漁るなんて泥棒ですよ!? そんなことしたらダメですよ!?」
今まで息をするようにやってきたことだったが、リナに言われて納得してしまう。
「そ、そうですよね。ど、どうして私は今までそんなことを……?」
「きっと悪い悪魔に囁かれてたんですよ」
どちらかといえばやるように唆せたのは第二王子だったはず。
でも、ちょっと言われたくらいでこんなことをするようになるなんて……。
頭を抱え名残惜しく感じながらも館を後にするのだった。
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【新作を始めました!】
タイトル
『転生勇者は破滅回避のために黒幕として君臨する』
URL
『https://kakuyomu.jp/works/16818093079155755838』
【全面改稿中】
タイトル
『女性限定なのにスカウトされた僕、なぜか美少女VTuberとなる』
URL
『https://kakuyomu.jp/works/1177354054935631644』
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これからも頑張って続けていきますので、よろしければ
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