双子山のきつねとたぬき
ポゥは俺の顔を見た瞬間に頭を下げてくる。
「あの……、今回はありがとうございます。おかげさまで狸人族の集落を守ることができました」
「助かったのならよかったな」
「そ、それでこちらがお礼になります……」
ポゥが差し出してきたのはキノコや色々な山の幸であった。
「これ、もらっていいのか?」
「は、はいっ……」
すごく緊張した面持ちで頷くポゥ。
「これは助かるな。料理の種類が増える」
「そ、それともう一つ、テオドール様にお願いしたいことがあるのですが……」
「今度は別の奴に襲われたのか?」
「い、いえ、私たち狸人族もテオドール様の領民にしてほしいのです。ただ私たちは森林の中でしか生きられないために、領民とは言えあの森林で……あれっ?」
ポゥの視線は小山の方を向く。
その目はキラキラと輝いているように見える。
「あのあの、その禍々しい魔力を放ってる山ってテオドール様が見つけられたのですか?」
「俺が見つけたというか、その……」
何故かぐいぐいと詰め寄られるので、俺の方が引いてしまう。
「わっちがもらった山でありんす!」
狐人族のコリンが堂々と腰に手を当てて言ってくる。
「こんな山があるならもっと早く長老を説得するべきでした……」
既に所有者がいるとわかり、ポゥはガックリと肩をついていた。
「えっと、そんなにこの山がいいなら同じものをもう一つ作ろうか?」
「……っ!? そんなことができるのですか!?」
「俺が、というよりはリッカの力を借りるんだけどな」
リッカは一度頷いて見せる。
「そ、それじゃあお願いしてもいいですか? お、お礼は……」
「いや、何もいらないぞ。むしろここは王国の動向を見るための重要拠点になるからな。二種族で監視してくれるのならありがたい」
「ま、任せてください。こう見えても偵察や隠密は得意なんです!」
グッと手を握りしめるが、その姿は可愛らしいそれでとてもじゃないが、素早そうに見えない。
それで隠密ができるのかと不安に思うが、敵襲を報告してくれるだけでもありがたいので、それでよしとしておく。
◇◇◇◇◇◇
「……これでいい?」
リッカは先ほどと全く同じ山を隣に作ってくれる。
ただ、穴を埋める必要がなかったからか、こちらの山の方が少しだけ背が高くなっていた。でも……。
「禍々しい気配は少し弱くなってますね……」
「ダメだったか?」
「いえ、十分すぎるほどです。早速みんなを呼んできて新しい集落を作りたいと思います」
ポゥは頭を下げて一礼したあと、すぐさま走り去っていった。
「わっちにはテオドール様の
「あ、あれ?」
「もう、意地悪言わんといて欲しいでありんす。長くて太くて逞しいあれでありんす」
唇を舐め、妙に艶々しい言い方をしてくる。
ただ、コリンが自分からこう言ってくるときは大体人を揶揄おうとしてるときなのだ。
だからおそらくあれというのは……。
「材木くらいいくらでも持っていってくれていいぞ。リッカの魔法で一気に増やせることもわかったからな」
あたりをつけて答えるとバレてしまったことに恥ずかしさを覚えたのか、リッカは顔を赤く染めていた。
「わ、わっちも集落を作る準備をしてくるでありんす」
恥ずかしさからか、コリンはそそくさと木材置き場へ向かっていくのだった。
◇◇◇◇◇◇
数日後、集落が完成したから、とポゥやコリンに呼ばれた俺は完成した二人の集落を見に行くことにした。
まずはポゥたち、狸人族の集落へ。
俺たちが入った瞬間に中で住む狸人族の面々に緊張が走っていた。
人族がそこまで苦手なのだろうか、と思ったがそういうわけでもなく、単に人見知りな種族というだけらしい。
出来上がったじゅうきょはシンプルな木の枠組みと藁を屋根瓦に敷いただけというシンプルなものだった。
さすがに集落全員の家となると数日で作り上げられるのはこの程度だろう。
むしろ最近はおかしいものを多数見ていたたまに妙に和んでしまう。
「よ、よ、ようこそ、狸人族の集落へ。り、り、領主様におかれましては……」
「そんなにかしこまった挨拶はいらないぞ。落ち着いてくれ」
「は、はいっ」
狸人族の長は深呼吸をする。
ただ唖然として目は泳いでいるし、息は荒い。額から流れ出る汗を何度も拭っていた。
「そ。それよりも先日は助けていただきありがとうございます。おかげで我ら狸人族は全員無事で、更にこのように新しい住まいまでご用意していただき、まことに感謝してもし足りません。それでもしよろしければこちらを納めていただければ、と思いまして」
置かれたのは山になった金塊であった。
それにしては妙に軽そうに持ってきていたが。
「これは?」
「葉っぱにございます」
「葉っぱ?」
何かの隠語なのだろうか?
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