大帝国の行く末
山が出来るとすぐに寄ってくる種族があった。
「こ、こんなところに住みやすそうな山がありんすね。わっちらが住んでもよいでありんすか?」
聞いてきたのは狐人族のコリンであった。
どうやらこの出来上がった山に住みたいようだった。
「いいのか? 結界の範囲外だし、色々と危険な場所になるぞ?」
「危険な場所になるのは困るでありんすが、これほど住みやすそうな場所を伸ばすのもなしでありんす」
「……わかったよ。結界は広げられないがしっかりとした城壁を作って襲われないようにだけしておく」
「助かるでありんす!」
嬉しそうに抱きついてくるコリン。
ただ間を割って入るようにリフィルが立ち塞がったおかげで俺が抱きつかれることはなかった。
「ぐぬぬっ、厄介な女でありんすね」
「テオドール様は渡しませんよ」
「わっちのほうが魅力的だから仕方ないでありんすね」
視線をぶつけ合う二人。
そんな二人を呆然と眺める俺。
何で争っているのかさっぱりであるが、退けない戦いらしい。
さすがにそこに俺が加わるのもおかしいし、当面の危険はなさそうである。
当面は二人の話し合いを眺めていようと思う。
「……たぬき」
「えっ?」
リッカが何かを見つけたらしく俺の服を引っ張ってくる。
そこにいたのは狸人族のポゥとガンツたちであった。
◇◆◇◆◇◆
大帝国の国内ではかなり慌ただしく騒動が起きていた。
それもそのはずでこの国は第一王子ルーベルトが自分の好みの女性を奴隷にするために興した国である。
そのトップに君臨していた大皇帝もルーベルトのこと。
そんな彼が知らず知らずのうちに小山の下に生き埋めになってしまったなど、誰も知る由もない。
しかし、そんな状況で当人との魔力パスが切れ、隷属化が消えたとなっては大暴動が起こっても仕方ないことだった。
「うちの夫はあいつにおもちゃのように弄ばれて殺されたのよ!」
「私ももうじき彼と結婚する予定だったのに突然襲われたの」
「あの王子、許せないわ!」
隷属化が解けた女性たちの恨みは当然のことながら第一王子ルーベルトへと向かう。
しかし、当の本人は山の下。
残された少数の部下たちが元奴隷たちや帝国貴族たちの相手に追われていた。
そんな中にユミルやカインの姿もあった。
彼らがアルムガルド王国の裏を支配し、リンガイア王国にて奴隷の販売、魔族たちとの縁も繋いでいた理由はひとえに大帝国のためであった。
当然ながらアルムガルドが秘密裏に奴隷販売をしているとなれば周辺国はアルムガルドに抗議するだろう。
その対応によりアルムガルドの力を削いでいく。
いい具合に聖女たちが暴走をしてくれたおかげで予想よりも早く力を削ぐことに成功したのだが、それは思わぬところで軋轢を生んでいた。
まずは帝国。
弱ったアルムガルドを支配しようと開戦の用意をしていた。
今のアルムガルドが攻め入られては当然ながら勝ち目はない。
ただ、その開戦準備は秘密裏に行われていたのが功を奏したのだ。
帝国最大の戦力である賢者を排除し、兵たちも訓練で半数以上が出ているタイミングによる強襲。
アルムガルド側の防衛は完璧に近かっただろうが、まさかすでに裏で大帝国の暗殺部隊が潜入しているとは考えていなかったようだ。
それも大量に……。
更にその彼らが相応の力をもっており、一部では帝国最強と言われた賢者に匹敵するなど想像もしていなかったのだろう。
結果的に帝国は壊滅。
魔族たちも壊滅に近い状況。
アルムガルドも内から崩壊中。
残すところはアラハ王国とナノワ皇国くらいである。
そちらも徐々に裏工作を仕掛けていたのだが、そのタイミングでまさかのリンガイア王国である。
かの国は魔族と共に相打ちになった、と思われていたのだが、実際はリンガイアが魔族を滅ぼしたうえで吸収。更には近くの大森林の勢力まで吸収し急成長をしていた。
このままではまずいと思ったユミルやカインはルーベルトの指示の下、リンガイアの偵察と調査を始めていた。
いつものごとく禁止されている奴隷を売りつけて親しくなるところから始めていく。
ところがいつもなら上手くいくはずがリンガイア王国ではまるで上手くいかず、逆に自分たちが捕まって奴隷にした賢者を失う羽目になってしまった。
当然ながらそんな力をもつリンガイアを放置しては更に強大な力を持ち、いずれは大帝国の敵となるかもしれない、と襲い掛かったまでは良かったのだが……。
「大帝国軍は壊滅、ルーベルト様は行方不明に?」
しかも押し寄せる元奴隷たち。
隷属化がそうポンポンと解けるはずがない。
それを考えるとルーベルトの身に何かあったと考えるのが妥当なのだが……。
「さ、さすがにこの人数の対処を俺たちだけでできるはずないだろ……」
基本相手を支配することにしていたルーベルト。
そのせいもあり、あっさり大帝国は瓦解して、貴族たちがそれぞれ王を名乗り、多数の小国が生まれる乱世へと変わっていくのだった。
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