平和な日常へ

 大穴のところに魔道具ばくだんが降り注ぎ、いつもの如くリュリュが降ってきた。



「あっ、テオドール様。こんなところで何してるの?」

「それはこっちの台詞だ。さっきまでここは戦場だったんだぞ? さすがに危ないだろ」

「戦場?」



 リュリュが周りを見る。

 当然ながらそこには何もないので首を傾げる。



「ここって何もなかった? もっと木が生えていた気がするけど……」

「気のせいじゃないか?」

「そっか。まぁ、私もたまに爆発させちゃってたし、こんなものかな?」

「……爆発?」

「あ、あははっ……、何でもないよ。成功には失敗がつきものだもんね」

「むしろこの爆発が成功じゃないのか?」

「そ、そんなことないよ。こ、今度こそ成功させるんだからね!」



 指を差してこの場から去って行くリュリュ。


 彼女と話したからだろうか?

 もう嫌な気配は感じなくなっていた。



「……今の攻撃、すごい」



 リッカが感嘆の声を上げている。



「真似しないでくれよ」

「……」



 何か言ってほしい。

 黙られているとまるで真似をしようとしている風に見える。



「……魔王の魔法は真似できないから」

「あぁ、あれは魔王固有の魔法だからな」

「……何で知ってる?」



 つい口を滑らせてしまい、そのことをリッカにツッコまれる。

 魔法について彼女以上に詳しい人間はいない。

 その彼女が知らないことを俺が言ってしまったものだから当然だろう。



「えっと、そう魔王が言っていたから?」

「……そう」



 リッカが納得してくれたようだ。



「……でも他の属性なら真似できる」



 リッカは魔力を溜め、上空に強大な風の固まりを作り出していた。



「ちょっと待て。あんまり地形を変化させても直すのが大変……」

「……究極風魔法デスストーム



 止めるのが遅れ、大穴が空いている荒野に竜巻が吹き荒れる。



「……うん、できた」

「できた、じゃない! 今は人がいないから良いけど、領民達が出歩いていたらどうするんだ!」

「……大丈夫。ちゃんと周囲の気配は探ってる。さっき二人ほどいたけど今は誰もいない」



 二人? 一人はリュリュだろうけどもう一人いたのか?

 いや、魔王のことか。


 それなら確かに二人だが、微妙にタイミングがズレていた気もするのだが?


 まぁ、しっかり気配を探ってから魔法を使っているのならまだ良いか。



「……ちゃんとこのあと土地を元に戻すのも手伝う」

「あ、あぁ、それは助かる」

「……魔法で直してもいい?」

「それは構わないぞ」

「……んっ」



 なぜか物欲しそうな目で見られる。

 たださすがにそれだけじゃ全く意味がわからない。

 すると更にリッカは言葉を続ける。



「……支援」

「あぁ、確かに合った方がいいか」

「……んっ」



 なぜかリッカは支援魔法を望んでいたようだ。

 もしかして魔王が受けていたのを見て自分もされてみたいと思ったのだろうか?


 リッカ自身、支援魔法を使えるのだからその効果も知っているはず。

 ただ、支援魔法はあくまでも支援であるために他人には使えても自分自身には使えない。

 もちろん魔道具に使ってそれを自分で使う、ということはできるだろうがそんな使い方をしているのは俺くらいだろう。


 実際に効果がわからない以上、どのくらいの恩恵があるか試してみたい。

 リッカのその気持ちはよくわかる。



「これでいいか?」

「……んっ」



 リッカに対して支援魔法を使うと彼女は一度頷き、詠唱を始めていた。



究極複合魔法アースリバイブ



 詠唱と共に現れたのは土だけではなく緑生い茂る木々や草花である。




「……土に回復を混ぜてみた。支援もあったからすごい効果」



 どうやらリッカが試したのは土と回復の複合魔法のようだった。

 俺が以前畑に使った回復魔法とは違い、土も併せている上に支援魔法も使っている。


 直接土地に影響していることを見ると付与魔法も使ったのだろうか?


 その威力は魔王の攻撃にも十二分に匹敵するように思われた。

 ただ……。



「……困った」

「何かあったのか?」

「……これ、止まらない」

「えっ!?」



 ちょっと開いた穴が塞がる程度でよかったのだが、ゆっくり土が盛り上がっていき、なぜかそこには小さいながらも山が出来上がっていた。



「……穴は埋めたよ」

「いやいや、さすがにこれは……」



 問題があるかと思ったが、別に死の大地よりは自然が多い小さな山の方がまだ使い道がありそうだ。


 でも、究極クラスの魔法に支援魔法を使うと地形が変わるレベルのことが起きるのか。

 一応それだけは覚えておいた方が良さそうだ。

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