隷属

 カインたちを早速王都へと送るとすぐさま俺たちはリンガイア国王に呼ばれることとなった。


 俺とリフィル、あとは状況を説明するためにバーンズが謁見の間へと通されていた。

 俺たちは通いなれたもので、普段と何ら変わらなかったが、さすがにこういった場所へ来たことがないバーンズは緊張からか、完全に表情が固まってしまっていた。


 頭を下げたまま一向に上げる気配がない。



「表を上げるといい」



 リンガイア国王が言うとようやくバーンズが顔を上げる。

 ただ、表情は引きつったままで体が細かく震えていた。



「そんなに緊張しなくてもいいぞ」

「それはそうだが、お前が言うことじゃないだろ。ガルド伯爵」

「……今更だろ? 俺は最初からずっとこの態度だったぞ?」

「まぁ、お前には返しきれない恩があるからな。リフィルのこともあるし親族みたいなものだ。でも、公の場ではさすがにちゃんとしてくれる……よな?」

「考えておく」



 リンガイア国王は思わず頭を抱えていた。



「それよりも今回連れてきた奴らだが……」

「アルムガルドからは『好きにするといい』と返事をもらっている。平民であることを考えると死罪とするのが通常ではあるが……」



 リンガイア国王は俺の顔色を窺っている。



「そうしなかった理由は何かあるのだろう? 当面は牢にて捕えておくことにする」

「ありがとうございます」

「それよりも肝心なのはもう一人だ」

「……一人?」

「どこで帝国の賢者を捕まえてきたんだ?」



 どうやらあの少女のことを言っているようだ。



「どこでもなにもあいつらが連れてきたぞ?」

「……滅んだ後に奴隷化でもしたのか? お前なら奴隷化を解くことができるんじゃないのか?」

「さすがに試したことはないな」



 でも状態異常とかになるのなら回復魔法で治すことができるかもしれない。

 そうなると領地の発展にも……。



「もし治せたら俺の領地へ来てもらってもいいか?」

「それは構わないぞ。元々お前が連れてきたのだからな」

「わかった。少し確認してくる。牢にいるんだな?」

「いや、さすがに相手が相手だからな。部屋を一室与えている。入り口には兵をつかせているけどな」



 結局バーンズがまともに話すことなく、国王との謁見を終えると俺たちはその足で賢者がいるという部屋へと向かうのだった。




 ◇◇◇◇◇◇




 部屋の中で虚空を見ている少女。

 すでに目を覚ましているようだが、意識が朦朧としているようで部屋に入った俺たちに気づいた様子はない。


 それなら、と俺は鑑定を試していた。




【名前】

 リッカ・マリウス

【年齢】

 15

【性別】

 女

【状態】

 隷属

【能力】

 レベル:43

 HP:44/44

 MP:172/172

 力:7

 守:6

 速:12

 魔:50

【スキル】

『火魔法:4』『水魔法:5』『風魔法:5』『土魔法:5』『光魔法:3』『回復魔法:3』『支援魔法:3』『高速詠唱:4』『多重詠唱:4』




 これだけ見ると明らかなチートキャラだった。

 闇以外のほぼ全属性が使え、更に魔力もMPも高い。


 さすがにこれほどの能力を持っているので仲間にはならないのだろう。

 でも、年齢は見た目通りらしい。


 どうやってこの年でこんなレベルにまで成長したのかは聞かない方がいいだろうな。



「隷属……、一応状態異常か」



 効果は混乱に似たものだけど、異常行動はせずにひたすら対象の相手を攻撃してくる厄介な状態異常である。

 現実だと奴隷化するときに使うんだな……。



「治せないこともないか……」



 治療には全状態異常回復フルキュアを使う必要がある。

 そう考えると奴隷化している人間を解放するのは大変なんだろう。


 そもそも隷属の状態異常はメインキャラ達は使うことのできない魔物専用のスキルであった。


 もしかすると奴隷商のだれかが魔物を連れているのか?

 とにかく気にするだけ無駄か。



「今からお前を治療するぞ。いいか?」



 意識があるかわからないが念のために確認をする。

 すると少女がうなづいたように見えたので、俺はそのまま魔法を使う。



全状態異常回復フルキュア



 まばゆいばかりの光が少女を包み込む。

 そして、しばらくして光が消えると少女の状態異常は治っていた。



「どうだ? 体の調子は」

「……?」



 少女は首をかしげていた。



 ――あれっ? 前に話した時と反応がまったく同じなんだが?



 もしかして操られていたとかではなくて、あの対応は素だったのだろうか?



「俺の言ってることはわかるか? わかるなら頷いてくれ」



 少女が一度頷いて見せる。



「一応隷属化は治したが、体は動かせるか?」



 少女は再び頷いていた。



「よし、それなら話はできるな。どうして俺たちの領地を襲ったんだ?」



 まず肝心なことを聞いてみる。



「……魔族」



 やっぱり魔族か……。



「……倒さないと」

「どうして魔族を倒すんだ? 帝国が滅んだことと何か関係あるのか?」



 すると少女は顔を伏せる。



「……教える」



 そういうと少女は帝国が襲われた時の話をしてくれる。

 ただ口でいうのではなくて、直接脳裏に映像を見せるという形で……。

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