対面

「俺様、何かしたか?」

「いや、おそらくは別の要因だろうな」



 ここまで魔族に拒絶反応を起こすなんて、おそらく帝国は……。

 もう一度魔王と話し合う必要がありそうだ。



「お前の父親をここに呼べるか?」

「ま、待て。そ、そんなことできるわけ……。いや、それはいいな。呼び出してやる」



 少し考えたグリムだったが、不敵な笑みを浮かべてすぐさま魔力で生み出した蝙蝠のようなものを飛ばしていた。



「それでこいつらはどうするんだ?」

「……どうするかな」



 本来であれば貴族に害をなそうとした平民の行く末は決まっている。

 ただその判断を下してしまっていいのか、少し迷ってしまう。



 ――曲がりなりにもこいつらはメインキャラなんだよな。



 もしこいつらが死んでしまっては原作がおかしくなることも……。

 すでにとんでもなく変わってしまっている気もするが。


 その判断を下してしまっていいものか、と少し悩んでしまう。



「一応他国の方ですもんね。それでしたらお父様に話してみるのはいかがでしょうか?」



 それが確実かもしれないな。

 何もしないというわけにもいかないし、俺の勝手な判断で原作が崩壊しても困る。

 国としての当然の対応をして、その結果どうなるか、を判断してもらうのが一番いいだろう。



「わかった。国王に報告してくれるか?」

「肉一つで手を打つのにゃ」



 さすがにここ最近働きづめだったからか、クロが肉を要求してくる。



「好きなだけ持って行ってくれ」

「さすがテオ様にゃ。それじゃあ行ってくるにゃ」



 あっという間に姿を消すクロ。




 ◇◇◇◇◇◇




 急遽作り出した牢屋に三人を放り込んだ後、俺はバーンズを連れて孤児たちが暮らしている仮設住居へとやってきた。



「本当にここにあいつらが?」

「そうですよ。お兄様は考えなさすぎですよ!」



 アミルに怒られて肩を落とすバーンズ。



「しかしだな……」

「私たちをワイバーンから助けてくれたり、ここに住まわせてくれてるテオドール様がそんなことするはずないって少し考えたらわかるじゃないですか!」

「そ、それもそうだが……」

「俺は気にしてないからそのくらいにしてやってくれないか?」

「むぅ……、テオドール様がそういうならこのくらいにしておきますね」



 アミルが頬を膨らませながらも納得してくれる。

 そして、ようやく孤児たちが住む仮設住宅にたどり着くとバーンズは目に涙をため、走って彼らの下へと向かっていく。



「お前たち、よく無事だったな」

「テオドール様が僕たちを助けてくれたんだよ」

「すっごくたくさんお金を払ってくれたの」

「僕たちの家もくれたんだよ」



 それぞれが嬉しそうに話しかける。

 ただ、勘違いがあるようなのでそこだけ訂正しておく。



「ここはあくまでも仮設の家だからな。あとからちゃんとしっかりした家を作ってやる」

「えっ、いいの?」

「ここよりすごいところ?」

「今も前より良い家なのに?」

「そ、そこまでしてくれなくてもいいんだぞ?」



 バーンズが慌てて言ってくる。



「これは皆にしてることだからな。ただ整備が追い付かずに仮設住宅を作ってるだけだ」

「で、でも……」

「まぁ、そこまで言うならお前もこの領地のために働いてくれ。慢性的に人手不足なんだ。特にここは魔族に対しては結界が張ってあるから侵攻させないが、他の種族は簡単に入れるからどうしても今回みたいに脆い部分があるんだ」



 そこまで話してふと思う。

 そういえばさっきグリムは『ここ』に魔王を呼ぶと言っていなかったか?

 さすがの魔王でも結界を直撃したらただでは済まないのじゃないだろうか?


 一瞬だけ考えたもののさすがにそんなことしてこないよな。と納得することにした。



「わかった。今回の侘びもある。お前のために力を尽くさせてくれ」



 バーンズが手を差し出してくる。

 おそらくここで仲間に加わるBGMが流れるのだろう。


 魔法は使えないものの身動きの素早いシーフ系の職業。


 メインキャラであることを考えるといずれこの領地一の戦力となってもおかしくない。


 まぁ仲間になりたての能力はしれているのだが。


 差し出された手を掴もうとするとアミルがバーンズの手を払いのけて、俺の手をあえて掴んできた。



「よろしくお願いします、テオドール様」

「あ、あぁ、よろしく?」



 すでに色々と働いてくれているのだが、本人が嬉しそうにしてくれているのだからいいだろう。




 ◇◆◇◆◇◆




「……カインとユミルが捕まったか」

「奴らは良いコマだったんだがな」

「商人と没落した貴族の子息。どちらも平民だからおそらく末路は……」

「気にするな。所詮はガキだ。また適当に良いコマを見繕えばいいだろう?」



 王都にあるとある貴族の館の地下。

 内緒話にいそしむ数人の男たちがいた。


 その誰もが豪華な服装を着ており、それなりの地位にいるものだということがわかる。



「馬鹿な国王は金以外は突撃しか知らん。聖女も盲目的。王子たちも本能の赴くまま動いている。我々のたくらみに気づいているものなどおるまい」

「第三王子だけは予想外の動きをしておったようだが、周囲に流した評判のおかげで国を出て行ったからな」

「ただ今回あの二人を捕まえたのもその嫌われ王子とのことですよ?」

「いずれボロが出ると思っておったのだが……。そろそろ帝国と同じように叩いた方が良さそうか?」

「また魔族・・で、ですね」



 暗闇の中、笑い声だけが響き渡る。



「しかし、嫌われがいるあの国は結界で守られている。普通の魔族だと手も足も出ないぞ?」

「結界も所詮はただの『聖魔法』。魔族には手も足も出なくても魔王ならばどうにでもなる」

「しかし、あの人嫌いな魔王が言うことを聞きますか?」

「大丈夫だ。魔王と同等の力を持っているあのお方ならば――」

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