捕獲

 意識を失ったユミルとカインは一旦拘束しておくこととなった。

 それとは別に側に倒れていた少女。

 俺の付与が施された魔道具ばくだんを防げるほどの力を持った魔法使い。


 それなのに原作では一切見覚えがない。


 一体どういうことなのだろうか?


 一応彼女も拘束だけしておくが、力のある魔法使い相手だと簡単な拘束は全く意味がない。

 無詠唱の魔法を使われたらロープの拘束なんてあっさり焼き切る事ができる。


 殺気を出していたのも彼女であるために何かの事情があるのかもしれない。


 あとは……今回は奇跡的に活躍をしてくれたが、リュリュである。



「また倉庫で爆発させたのか!? これで一体何度目だ!」

「ち、違うよ? 倉庫の中で爆発させたわけじゃないよ?」

「ならどうしてたくさんの魔道具が吹き飛ばされたんだ?」

「それはもちろん私が運んでた途中で爆発させたからだよ!」



 自信たっぷりに言うがぜんぜん褒められたことではない。

 むしろたまたま襲ってきた相手のところに魔道具ばくだんが降り注いだから良かったものの、一歩間違えたらなんの関係もない領民たちが怪我を負った可能性すらあるのだ。



「もっと悪いだろ!? 毎回言ってるだろ! 爆弾の扱いは注意しろって」

「爆弾じゃないもん。ちゃんと魔道具だもん」

「魔道具は爆発しないぞ」

「た、たまたまだよ。運悪く不良品に当たってしまったんだよ。運が悪いとそういうこともあるからね」

「今のところ百パーセントの確立で爆発してるけどな」

「テオ様は運が悪いんだよ。きっと」

「ちなみに今の爆発は一切俺が関わってないんだけどな」



 勝手に爆発して、空から魔道具を降らせて、それらも爆発した。

 俺の運の悪さは一切関係なかった。



「と、とにかく今はあの子の治療を優先しないと行けないんじゃないかな?」



 リュリュに言われて、バーンズがまだ生死を彷徨っていることを思い出す。



「そ、そうだった。中級回復魔法ハイヒール



 慌てて回復魔法を使うと一瞬のうちにバーンズの傷は治っていた。



「うぐっ……、た、助かったぞ……」

「まだだな。完治するためにこれを飲むと良い」



 俺は回復ポーションをバーンズに渡す。



「いや、さすがにここまでして貰うわけには……」

「良いから飲んでおけ」



 無理やり手渡すと強制的にそれを口へと持って行かせる。



「ぶほっ……」

「あっ、吐くなよ!? ちゃんと飲め」

「お、おい、いくらなんでもこれは味が……」

「良薬は苦い物だ。苦ければ苦いほどよく効いてるんだ」

「た、ただ苦いだけじゃないのか。ぐはっ……」



 再びバーンズが意識を手放していたのでしっかり最後まで飲ませておく。



「テオドール様……」

「しっかり治してもらうためだからな……」



 まるで俺が追い打ちをかけているような感じになってしまったが、これも治すためだと言い聞かせる。


 そんなことをしていると、まず最初に魔法使いの少女が目を覚ましていた。



「……?」



 不思議そうに首を傾げているが、先ほどの殺気が嘘のように大人しくしていた。


 ただ自分が拘束されていることとユミルやカインが拘束されている様子を見て、状況を察しているようだった。



「……」

「……」

「……?」

「なんか言ってくれよ」



 さすがに無言で首だけ傾げられても困ってしまう。



「……魔族じゃない?」

「見ての通りだが?」

「……そう」



 話が続かない。

 いや、こっちから話を振れば良いのだろうか?



「なんでこいつらの味方をしてたんだ?」

「……助けてもらったから?」

「どうして疑問符が付くんだ?」

「……?」



 癖のような物だろうか?

 再び首をかしげていた。



「助けてもらったって?」

「……私、帝国出身」

「たしか滅んだって話だったな」

「……そう。魔族が襲ってきた」



 言葉少なめに言ってくる。

 ただ、どうして帝国の人間を助けられたのだろう?


 この少女がたった一人で帝国から逃げてきた、とは考えにくい。

 そうなるとやはりカインかユミルが帝国まで行っていた、ということになるのだが?


 まさか一時的に聖女のパーティーに入っていたとか?

 途中でメンバー交代することもできるので、さすがにメンバーが酷すぎて変えた可能性も考える。


 でも、それだと今ここにユミルたちがいる理由がない。


 ……もしかして帝国を滅ぼしたのって――。


 一瞬最悪の考えが脳裏に浮かぶが証拠も何もない状況で疑うのは良くない。

 ただ今回襲ってきたことは隠しようのない事実である。


 二人に何らかの思惑があることは想像がついている。

 あとはこの二人が起きてから考えれば良いことだろう。


 そう思っていると遅れてグリムがやってくる。



「おいっ、敵が来たって聞いたぞ。どこにいる?」

「……魔族!?」



 グリムを見た瞬間に少女が強い殺気を出し、ロープの拘束を解き、いくつも魔法を展開しようとする。



「はぁ……」



 攻撃のタイミングが予想とはズレたが、この可能性も考えていた俺は、次の瞬間に少女に対してある属性玉をぶつけていた。


 さすがに付与をしては威力が強くなりすぎるのでは、とそのままで使った属性玉。


 今回使ったのは『睡眠玉』。


 文字通り、対象を確率で睡眠状態にするものであった。


 それを受けた瞬間に少女は深い眠りに落ちるのだった。

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