敵対
最後に商人のアキナを呼んできてもらおうとしたのだが、どうにも領民達に囲まれて中々身動きが取れなくなってしまったようだった。
この領地に商人がいない反動が来てしまったのだろう。
仕方なく俺の方から出向くことにした。
◇◇◇◇◇◇
「ナノワの珍しい布を今日だけなんと、大銀貨一枚やで!! お買い得やで!」
「さすがに高いね……」
「何を言うんや、奥さん。こんな上等な布、ナノワにいても滅多にお目にかかれへんねんで」
「そうなのですね。それなら一つ……」
「……おいっ」
思わずアキナの頭を小突いてしまう。
ゲームでも無理に高い値段で売りつけようとしてくる商人がいたことを思い出しての行動だった。
「あいたっ。なにするんや、って第三王子やないか。どうしたんや?」
「他の皆の話は終わったから呼びに来たんだ」
「そういうことかいな。それにしてもいきなり叩くことないやないか」
「お前が詐欺まがいの商売をしてたからだろ!?」
「詐欺やない。ちゃんと互いの納得があったうえで販売してるんや! いかに高く売るかがうちの仕事やねんしな」
「納得してたらそれでいいが……」
「それに品質は保証してるで。詐欺言うんやったらここで悪いもんを売りつけるんとちゃうか? うちは良いものをより高く、をモットーにしてるんや!」
自信たっぷりに言ってのけるアキナ。
確かに良いものならば高くなるのは当然のことだ。ただ、売るところだけは見てほしい。
まだまだ領地開拓中の全員分の家がない状況でそんな高いものを買う人が一体どれくらいいるだろうか?
「いやー、ここの皆さんは意外と良いものを持っているおかげでうちももうけさせてもろてますわ」
案外売れているようだった。
「まぁ、お金での取引が全てやないさかいな。珍しいものはそれなりに勉強させてもろてるんや」
笑顔で言ってのける。
「ところであんさんも何か欲しいものがあってうちを呼んだんとちゃうんか? なんでも取り揃えたるで。もちろん割高でな!」
手をお金の形にしていうアキナ。
筒に隠さずに言ってくれるその姿は逆に信用できるかもしれない、と思い始めていた。
「わかった。それじゃあ、必要なものをリストアップして渡すから値段は勉強してくれよ」
「あはははっ、当然や。しっかり勉強して上げさせてもろうから」
こうして領内で必要なものを買う算段が付くのだった。
それから数日後。
一通りの商いを終えたアキナが手を振って領地を去っていった。
「今度は店を出しにくるわ」
と言ってくれていたので、それなりに好意的に思ってくれたのだろう。
そして、狸人族を助けに行くためにガンツたちも出かけてくれる。
そんなタイミングで奴隷商に付けさせていたクロが戻ってくる。
「大変にゃ。あの商人がまた戻ってきたのにゃ」
「……今度はどこの奴隷を連れてきてるんだ?」
「そ、そういうわけじゃなさそうなのにゃ。人数は奴隷商を入れて四人だけど、殺気を放っている人間もいるのにゃ!」
どうやら再びトラブルになりそうな予感がするのだった。
◇◆◇◆◇◆
「ようやく孤児たちの行き先を見つけたよ」
「……どこだ?」
「リンガイア王国だね」
リンガイアといえばつい先日、バーンズがアミルと一緒に訪れた国である。
まさか嫌われ王子がかの国の貴族になっているとは思わなかったが、予想よりも遙かに話のわかる相手だった。
孤児たちと一緒に移り住みたい事を伝えたら二つ返事で承諾してくれるほどであったのだ。
多種族が共存していることは不安点だったが、特に争いもなく平和な暮らしを送っていた。
貧困街にいるより遙かに良い暮らしが出来ると考え、アミルは置いてきたのだ。
孤児を連れてすぐに戻るつもりだったのだが、まさか肝心の孤児たちがいなくなっているとは思っていなかった。
でも、最近孤児が誘拐される事件が多発していた事を考えると誰か信頼できる人間に護衛を頼んでおくべきだった、とあとあと後悔してしまった。
「リンガイア……ということは保護されたのか?」
見つかった場所を考えて安堵の息を吐く。
テオドールなら滅多なことはしないだろう。
ただ、ユミルの考えは違うようだった。
「保護……とは違うみたいだよ。僕がその話を聞いたのは闇商人だから……」
「ま、まさか買われたのか!?」
アルムガルドに限らず大抵の国で人を奴隷として売買するのは禁じられている。
テオドールがそんなことをするなんて思わないが、リンガイアも一枚岩ではないらしい。
「買った相手も上手く聞き出せたよ。まぁ、納得な相手だよね。買ったのが嫌われ王子だなんて」
それを聞いた瞬間に信頼を裏切られたような気がした。
まさか禁じられた奴隷売買に手を染めていたなんて。
直接会った感じではそんな雰囲気はなかった。
とても嫌われ王子と呼ばれていたのが不思議に思えるくらい、領民のことを考えてくれている人物だった。
でも嫌な予感が脳裏をよぎる。
もしかしてあの領地は奴隷を保管するための隠れ家的な場所で、リンガイアの後ろ盾で隠しているだけ。
火のないところに煙は立たない、とも言える。
嫌われ王子と呼ばれていたことにも必ず意味があるのだ。
「こうはしていられない。行ってくる!!」
「……助けに行くのかい?」
「まずは状況確認だな。それで奴隷売買が事実なら……なんとしても助け出す!」
携えた剣に手を添える。
その姿を見たユミルは笑顔のまま答える。
「それなら僕も力を貸すよ。あともう二人、心当たりがいるからね。そいつにも声をかけてみるよ。相手はいくら嫌われ王子とはいっても一領主だよ。できる限り戦力は揃えないとね」
「……いいのか?」
「もちろんだよ。だから出発は明日まで待ってくれるかい?」
「ちなみにそいつらは戦えるのか? もし戦いとなるなら相手はワイバーンすらも一瞬で倒せる武器を持っているんだぞ?」
「大丈夫。一人は道具屋の息子で色々と魔道具に詳しいんだ。もう一人はその子の知り合いで元帝国の賢者、って言われてた子らしいからね」
「それは心強いな。ぜひ力になってくれるように頼んでくれるか?」
バーンズはまるで気づいていなかった。
その道具屋というのがテオドールに孤児たちを売りつけたカインで、帝国の賢者は彼が所有している奴隷の一人である、ということに。
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