真犯人

「ど、どういうことだ? 大森林の火災は別に原因があっただろ?」



 一応戌人族であるミューたちが犯人と対峙している。

 そのときに『犯人は人族だった』とはっきりと言っているのだ。



「わっちらも何が何やらわかってないでありんす。そもそも火を扱えるのは狐人族の中でも妖狐のわっちのみでありんす。そのわっちが使ってないでありんすのに火災の原因と言われても訳がわからないでありんす」

「……だろうな。周りの獣人たちはわかっていなかったのか?」

「実際に見たお方がおりませんので」



 そういえば火災の被害者は全員すぐに俺の領へと来ており、他の集落に報告とかはしていない。



「……もしかして、その発表をしたのって」

「アルムガルドでありんす」

「やっぱりか……」



 どうにもアルムガルドは大国であるが故にその言葉の影響力が強い。

 色々と自分たちの良いように発信しているのだろう。


 そうなると今回の火災はアルムガルドに原因があるわけだ。



「犯人は……聖女たちだろうな」

「待つでありんす!? どうして聖女がそんなことをするでありんすか?」



 世界を救うために活動をしている聖女。

 それが大森林を燃やし尽くしたなんてとてもじゃないが、信じられるものでもない。

 それはコリンも同様のようだった。



「どうして……か。本当にどうしてなんだろうな?」



 正直俺にもメインキャラたちが何を考えているのかさっぱりわからない。


 ただの考えなしなのか。

 それとも聖女という立場にかこつけて世界を滅ぼそうとしているのか。


 とにかくあまりにも行動が酷すぎる。

 この領地にも影響が出るようなら圧をかける必要があるだろうな。



「そ、それで大森林にいられなくなったわっちたちを住まわせてほしいのでありんすが」

「仕方ないな。場所は考えさせてもらうぞ? さっきみたいに喧嘩されても困るからな。あと、仕事もしてもらうからな」

「もちろんでありんす。こう見えても夜の仕事は得意でありんすから」



 コリンがにやり微笑んでみせる。

 それを隣で聞いていたリフィルが顔を真っ赤にして慌て出す。



「て、テオドール様にそんないかがわしい誘いをしないでください!!」

「んっ? 宿とか料理屋のことでありんすが? 一体何と勘違いしたでありんす?」



 にやにや微笑むコリン。

 その仕草は絶対にわかっていてやっていると確信できる。



「そうだな。宿も料理屋もまだなかったしな。予定地はあるから好きに作り上げてくれ」

「任せるでありんす」




◇◇◇◇◇◇




 これで半分。

 そのどれもが王国のせいで今までの場所にいられなかった人ばかりである。



「この調子だとまだまだ領地に人が増えそうじゃないか?」

「全ては領主様の人徳の賜物ですね」

「いやいや、さすがにあまり増えすぎても対応しきれなくなるぞ?」

「大丈夫ですよ、領主様なら」

「お前は俺のことを一体何だと思っているんだ?」

「……お次の方を呼んできますね」



 ルーウェルは答えをはぐらかしていた。



◇◇◇◇◇◇




「わ、私はその……、た、狸人族のポゥです。そ、その、あの……」

「大森林で起こったことは大体わかっている。お前たちもこの領地に加わりたいってことだよな?」

「えっと、あの……、その、ち、ちが……」

「遠慮しなくても良いぞ?」

「そ、そうじゃなくてその……」



 ポゥは言いにくそうにもぞもぞとしている。

 あまり一族の長に見えないのだが、何か理由があって彼女が代表になっているのだろう。


 よく見ると所々服がすり切れている。

 もしかするとまともな大人の狸人族が全員火事で動けなくなっているのかも知れない。



「何か希望でもあるのか?」

「そ、その……。た、助けてくれませんか?」

「……何かあったのか?」

「わ、私の集落がその……、襲われておりまして。ここに来たら助けてもらえるって旅のエルフさんに聞いたんです……」



 領地に住みたいわけじゃないようだった。

 これは珍しいパターンだった。



「一体誰に襲われているんだ?」

「そ、それがわからないんです。と、突然アンデッドの大群が襲ってきて……」



 青ざめたポゥが体を震わせている。



「今はなんとか集落だけで食い止められているのですけど、徐々に怪我人も増えて来まして……」

「ルーウェル、今の話はどう思う?」

「不思議な話ですね。そのアンデッドは獣人だったのですか?」

「いえ、人族の方でした」

「それならどこかで大量に人族が死んでることになりますが、そのような話は聞いた覚えがありませんね。アンデッド系のダンジョンもこの辺りにはありませんし……」



 ルーウェルのその話を聞き、俺は帝国の不可解な出来事を思い出す。



「例えばそのアンデッドが帝国から来てる可能性はあるか?」

「狸人族の集落は北よりですから。可能性はありますね。ですが、そうなると大森林の北部も既に襲われていることになりますよ」

「さすがに北部の情報はわからないからな」



 ただ帝国には聖女たちが調査に行っているはずだ。

 アンデッドが蔓延してるならその情報くらいはいずれ入ってくるだろう。

 ただ大森林までアンデッドが来ているのなら早めに対処しておきたい。



「わかった。ただ狸人族の集落は守るのに敵してないんじゃないか?」

「そ、それはそうですけど……」

「この領地までやってくることは出来るか? 城壁で迎え撃つのが一番簡単だからな」

「そ、それは難しいです。狸人族は多種族に迫害されることも多くて、その……、今回の応援も私の独断なんです……」



 あまり多種族を信用していないのだろう。



「それじゃあ俺たちが助けようとしても下手をすると俺たちが襲われるんじゃないか?」

「そ、それはなんとか説得します。だ、だから……」



 今にも泣きそうな顔をしている。



「……わかった。それなら獣人の兵士たちに巡回させてみるか。あまりまだ人族とかが行くよりマシだろうからな」

「あ、ありがとうございます……」

「ただ、一応この領地に避難することも検討してくれ。その道中は護衛するように言っておくからな。ルーウェル、ガンツにそのことを伝えてくれるか?」

「かしこまりました」

「あ、ありがとうございます。ではこのことを伝えに行ってきます」



 ようやく笑顔を見せてくれるポゥは頭を下げて部屋を出て行くのだった。




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