新領民たち
それぞれの種族を分けるための小さな城壁はシィルの作ったものだと大きすぎて逆に不適格、ということになり、こちらは外で買ってきたものを使うことになった。
俺の手持ちの土玉を付与させて城壁にしたものがちょうどいいくらいの高さだったのだ。
ただ問題はまだ商人が来ていないことと金である。
まだまだ収入が安定しない現状、出ていく方がはるかに多いのだ。
一応食糧事情としては一度
今はエリアヒールを使ったあと、何回畑を使ったかの回数で作物の出来が変わるのかを調べているところだった。
「うーん、あまり違いがわからないな」
「見た目はそうですね。ただ少し収穫量は減ってますし、味も微妙に落ちてますね」
「やっぱりまったく同じというわけにはいかないか」
「それでもいつも作っていたものよりはるかに良い出来なんですよ!?」
興奮醒めあらぬ様子の農家たち。
確かに彼らからすれば瞬く間に農作物ができるのだから楽しいのかもしれない。
あまりペースが速すぎると収穫の手が足りなくなるだろう。
「とにかくいろいろと調べるしかないな。他の作物に関しても」
「そうですね。領主様が畑を広げてくださったおかげで色々と試せていますよ」
一応作物の仕上がりにも時間差がある。
あくまでも俺が掛けている魔法は回復魔法で、成長が促進されているだけなのだから。
「人手が足りなくなったら言ってくれよ」
「それなら大丈夫ですよ。戌人族の方々が協力してくれてますし、猫人族の方々もたまに力を貸してくれますし」
確かに耕したり収穫は戌人族が力を貸してくれているようだった。
猫人族は……姿が見えないが。
「あっ、猫人族の方はお肉をぶら下げておかないとなかなか来てはもらえませんよ? だから手伝ってほしいときだけ来てもらうんですよ」
逆に暇なときは対価が必要ないからありがたいらしい。
良い関係を結べているのなら幸いだ。
「……おにく?」
ワードにつられてスズがやってくる。
「今はもってないぞ?」
「……そう」
俺が肉を持っていないと知るとスズはそのままどこかへ歩いて去っていった。
「この速度で来てくれるから助かってますね。あっ、さすがに収穫物が多くなってきてますから保管できる倉庫を用意していただけるとありがたいです」
「それは早急に用意させるようにする」
◇◇◇◇◇◇
倉庫の話をルーウェルにしに行くと知らない人たちと話をしているようだった。
「邪魔だったか?」
「いえ、ちょうど領主様にも紹介しに行こうと思っていたんですよ」
そういうと俺の前に四人の人や獣人が頭を下げてくる。
「第三王子、初めてじゃな。儂はアルムガルドで工房を営んでたグランツじゃ」
「うちはナノワの商人、アキナや。リンガイア国王に紹介してもろて、来させてもらったで」
「えっと、その……、私は狸人族のポゥです」
「わっちは狐人族のコリンでありんす。ここに獣人族の集落があるって聞いてこさせてもらったでありんす」
順番に話しかけてくる。
アルムガルドにいたグランツのことはよく知っている。まさか本人か?
「なるほど。各々、理由があって来てくれたんだな。たださすがに人が多い。順番に話をさせてもらってもいいか?」
「そうですね。それがよさそうですね」
ルーウェルも同意してくれる。
「それならうちは最後でええで。待ってる間に町で商品売ってきてもええか?」
「それは構わないぞ」
「ひゃっほー!! ほな行ってくるわ!」
嬉しそうに飛び出していくアキナ。
それを見送ったあと、ポゥが怯えながら手を挙げてくる。
「わ、私もあとからでお願いできますか? そ、その、緊張で……」
「そうだな。緊張が和らぐように客間に案内させよう。くつろいでくれ」
体を震わせながら青ざめていたポゥが出ていく。
最後に残った二人がにらみ合っている。
「儂が先じゃ!」
「わっちが先でありんすよ」
ドワーフ族の小柄な老人と狐人族の少女が睨み合う。
「わかった。ルーウェル、先に来たのはどっちだ?」
「グランツ様ですね」
「じゃあ、グランツからだ。話を聞かせてくれ」
「おう、任せてくれ!」
それからグランツは聖女たちに売り物の武器やら商売道具、更には客から預かった武器すらも奪われた話をしてくれる。
「あんな国で働く気なんてほとほと冷めてしまった。だから国を捨ててきた」
「あの国が嫌だというのなら俺のことも嫌なんじゃないのか?」
「そなたが嫌われ王子と言われていたからか?」
流石にアルムガルドに住んでいただけあってよく知っている。
「あんな噂に騙されていたのが馬鹿馬鹿しいわい。お前さんは無茶も言うし値段も叩いてくるが、それはあくまでも常識の範囲内じゃった。しかも、無茶を言った後は必ず美味しい仕事も持ってきてくれたしな。今のアルムガルドはもはや無法人の国になってしまった……」
まぁ父や兄たちに言われて仕方なく兵士たちの武器を各工房に格安で提供してもらったこともある。
立場の弱かった俺はそれに従うしかできなかったしな。
「わかった。お前の腕はよく知ってるからな。当てにさせてもらって良いか?」
鍛治職人はまだ誰もいなかった。
それが名の知れた人物が工房ごと来てくれた。
もはや断る理由がなかった。
「あっ、それは無理じゃ」
拒否されて思わず転けそうになる。
「どうしてだ!?」
「さっき言ったとおり、儂らは仕事道具を全て奪われたのじゃ。腕を披露しようにも道具がなければ何もできん。一から揃えようにも金すらも奪われたからな」
「……わかった。道具もまともに働けるようになるまでの必要経費も全部俺が出す。これなら大丈夫か?」
「ほ、本当にいいのか? 儂が道具と金だけ奪って逃げるとは思わないのか?」
「その時は見る目がなかったと思うよ。グランツ工房は俺が知ってる工房の中で一二を争うほど腕の良い工房だった。お前たちをまとめて配下にできるなら、この程度の出費は安いものだ」
俺の言葉を聞いてグランツは頭を下げていた。
「よろしくお願いします。儂の持てる力を尽くさせていただきます」
◇◇◇◇◇◇
一度グランツはポゥとは別の客間へと案内されていった。
そこで他の工房メンバーに話をしたいらしい。
必要な道具が何か、詳しいことはわからないため、商人のアキナと話す時にはもう一度来てもらう手筈となったのだ。
そして、次は狐人族のコリンの番だった。
「わっちの話でありんすが……」
意味深に口を閉じて、間を作る。
「わっちのことを匿ってほしいでありんす。大森林を燃やしたのが、わっちら、狐人族だと言われて行く場を失ったのでありんす!」
コリンは涙目に俺の手を掴みながら言ってくる。
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