区画整備

 領地に戻ってきた俺はひとまず各部門を担当してくれている領民を集めていた。



 領地整備を担当してくれているルーウェル。

 戦闘隊長のガンツと副隊長のグリム。

 魔道具開発部長のリュリュと副長のシィル。

 癒し担当のミュー。

 今日の猫人族にゃんこ、シロ。

 いつの間にかいて肉を食べているスズ。

 孤児をまとめてくれているアミル。

 そこに俺とリフィルが加わる。



 見事に半数以上が子供である。


 本当なら戌人族と猫人族の面々は長老が参加してほしかったのだが、「頭の固まった古い獣人より若い者の方が柔軟な発想をしてくれるんじゃ」といってそれぞれミューとシロを送り出してきたのだ。



「テオ兄ちゃん、よろしくね」

「にゃ、にゃんでここにスズがいるのにゃ!?」



 両者色んな反応を見せてくれている。

 ただ猫と犬だと仲が悪いんじゃないかと思っていたのだが、ミューとシロは普通に話している様子だった。



「みんな、よく集まってくれた。今日みんなに集まってもらった理由だが――」

「今日もパーティーにゃ?」

「さすがにそろそろワイバーンの肉の量は減ってきておりますね」

「……おにく」

「よし、それなら俺たちで狩りに行くか?」

「俺様の方が多く取ってやるぞ」



 俺が集まるとパーティーが始まると思っているのだろうか?

 いや、最近はそういった日が多かったけどな。



「今日は別の要件だ。ただ早く終わったらパーティーの準備をしていいからな」

「よし、任せておけ! 敵なら速攻潰してくるぞ!」

「うむ、私の最新の魔道具を渡してやろう。思う存分装備すると良いぞ」

「おっ、爆弾か!? ちょうどいい」

「だ、誰が爆弾だ!!」



 一向に話が進まない。

 俺は首を横に振ってルーウェルの方を向く。

 すると彼は一度頷いて見せる。



「お静かに。余計な会話をされている方はパーティー中、肉抜きにしますよ」



 さすがにそれでいうことを聞くはずがない……と思ったのだが、なぜか面々は絶望的な表情を浮かべていた。



「えっと、僕はお野菜でもいいのだけど……」

「とりあえず今日の議題はこちらになります。そろそろ道路工事に目途が立ちますので、改めて新住居建設予定地を決めていこうかと」



 ルーウェルが広げたのは以前見せてくれたこの領地の未来の地図……、つまり今だと区画整理図辺りになるだろう。



「以前は我々エルフと人間だけが住むつもりで作っていました。ですが、今や戌人族と猫人族が加わり、更には狐人族などの獣人たちやドワーフ族なんかも保護を要請してきている現状……」



 他の種族から保護要請が来てるなんて初めて知ったぞ?

 どうやら知らず知らずのうちに向こうから人が来るような領地になっていたらしい。



「今は仮設の住宅なので多種族が混同していても問題はありませんが、本格的に住居を作り出すにはさすがに混住させるわけにもいきませんので。(我々もドワーフと近くに住むなんてまっぴらですから)」



 なにやらルーウェルが小声で言っていたが、あまり聞き取ることができなかった。



「私は研究所に住むからいいよ」

「それって僕が全部の世話をするってことですか?」

「うむ!」



 魔道具開発チームが即答する。

 たださすがに研究所には仮眠室程度のものしかないために、いったんここを研究区域としていくつかの住居を作る計画を立てる。



「さすがにここは色んな種族が混じることになるだろうな。そこは我慢してくれるか?」

「そんなこと気にしてたら研究なんてできないよ」

「……です」



 どうやらリュリュもシィルもそんなことより魔道具が優先らしい。



「ならここは変わらずだな。商人の誘致も少し時間がかかってるからいいとして、やはり住民街だな」



 本来であるなら獣人族は他者となれ合いをしないらしい。


 戌人族が比較的温厚な性格をしていて、人とは馴染みやすいこと。

 猫人族は自由気ままなので人がいようがいまいがあまり生活を変えないこと。


 そのおかげで今は生活が成り立っている。


 ただ、ある程度は距離を離しておかないと領地内で分裂が起きかねない。


 しかもここから別の獣人が合流するともなればなおさらである。

 それにそれぞれ住みやすい家というものもあるだろう。


 一律に同じ住宅を建てる、というわけにもいかないだろう。


 かといってここに住みたいと言っている者たちを追い返すわけにもいかない。



「まだ領地も広いからな。なるべく距離を空けて、各々に住宅を作ってもらう形がいいんじゃないか? 問題が起きてないかは定期的にこうやって代表者に集まってもらえば……」

「それが良いですね。もちろん大森林へ戻りたいという方がいるならそちらでもいいかと……」

「んにゃ? 大森林もここも変わらないにゃ」

「……どういうことだ?」

「だって、テオ様が焼けた大森林南側を治めてるってことだからにゃ」



 さっぱり意味が分からない。

 俺はリンガイアの貴族であって、大森林とは関係ないはず。



「いや、俺は大森林とは関係ないぞ?」

「そんなことないにゃ。南側を治めていた集落を一つにまとめ上げたのにゃから、大森林南部はテオ様のものにゃ」



 大森林の南側は戌人族と猫人族しかいないのだろうか?



「あとは狸人族と狐人族がいたのにゃ。でもあの大火災以降、みんなこの街を目指してるらしいのにゃ」

「ちょっと待ってくれ。さすがにそれは想定外だ。ちなみに大森林南部はどのくらいの広さがあるんだ?」

「この領地と同じくらいかにゃ?」

「あと、俺は獣人の集落をまとめたつもりはないぞ? そもそも他の獣人たちが来てるなんて話、今初めて聞いたからな」

「それは今朝、使者が来たところだからですね。この会議はその報告も兼ねていたのですよ」



 ルーウェルがあっけからんと言ってのける。



「わかった。とにかくどうなるかわからないが、そいつらも受け入れることを前提に。大森林も領地として改めて居住場所を決めていくぞ?」



 こうして会議は長時間続き、なんとかそれぞれの種族ごとにある程度別れて住めるように領地の配置を決めることができたのだった。でも……。



「それぞれの種族ごとに小さな城門と城壁づくりか。完成はまだまだ先になりそうだな……」



 どうしても喧嘩をさせないためにはそれをするしかないという結論になってしまったために俺はあきらめ気味にシィルの頑張りを期待するのだった。

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