聖女の調査

 ようやく王都に戻ってきた聖女たち。

 するとすぐさま国王から招集がかかっていた。



「全く父上は。我々を働かせすぎだ。文句を言ってやろう」

「魔に対抗できるのが聖女であるミリアだけだからですよ。忙しくなるのは仕方ないでしょう」

「私は気にしておりませんよ? 私が頑張ることで皆さんが平和になるのなら」

「……眠い」

「そんなミリアの人の良さをつけ込むんだ、あの国王ちちうえは!」



 ピリピリと苛立ちを隠しきれないジークハルト。

 そんな彼に連れられて聖女一行は謁見の間へと向かうのだった。



「良く来てくれた、聖女たちよ」

「来たくて来たわけじゃねーよ」



 早速ジークハルトが悪態をつく。



「あははっ……。それで何かあったのでしょうか?」



 聖女ミリアは乾いた笑みを浮かべながらアルムガルド国王に尋ねる。



「実はお前たちに行ってもらいたい場所があるのだ」

「どこに行けばよろしいのでしょうか?」

「さすがは聖女。話が早い」



 禄に場所も聞かずに行くこと前提で話を進めていく。

 ただそのことを誰も疑問に思わない。



「行って欲しい場所は帝国だ」

「敵国じゃないか!? 魔族に関係のない帝国は俺たちが行く場所じゃないだろ!」

「そうとも言えん。つい先日、帝国が壊滅したという情報が入った」

「……はぁ!? どういうことだよ」

「それを調べて欲しいのだ」

「それなら影に行かせろよ!!」

「それが出来るならそうしておる。帝国を瘴気が覆っておるせいで誰も近づけんのだ」

「……そういうことでしたら私たちの出番ですね」

「ちっ、面倒だが仕方ない」



 瘴気が蔓延していると言うことは魔族か魔物が原因と言うことに他ならない。

 そうなると聖女の出番であることはさすがのジークハルトも理解していた。


 だからこそそれ以上言うことなく、頷くのだった。




◇◇◇◇◇◇




 依頼通りに聖女たちは北へと向かっていった。

 もちろんいつもの装備なので、かなりの薄着である。



「……さ、寒いですね」



 ミリアは縮こまって身震いしていた。

 するとジークハルトが上着を脱ぎ、ミリアに渡してくる。



「これでも着るといい。少しはマシになるだろう?」

「で、ですが……」



 服を渡しているジークハルトももちろん薄着である。

 それどころか、薄手の上着一枚しか着てないような格好をしているのだ。


 当然ながら上着を脱いだらほぼ裸である。


 息も白くなるような気温の中、そんな格好でいたら凍えるのも当然である。



「だ、だ、大丈夫だ。お、お、俺ほどになれば、この程度の寒さなんて……へっくしゅん」

「やっぱりその服はジークが来てください」

「本当ですよ。仮にも王族のあなたが風邪でも引いたらどうするつもりですか? いえ、馬鹿は風邪を引かないのでしたね」

「はははっ、それならミハエルは風邪を引かなくて良いな」

「あなたのことですよ!!」



 笑いながら服を着るジークハルト。



「そういえばキール君の声が聞こえないですけど……」



 ミリアが周りを見渡すとかなり後ろの方で倒れているキールの姿があった。



「……眠い」



 今にも寝そうになっているキールを見て、ジークハルトは慌てて彼に駆け寄っていた。



「おいっ、寝るな! 寝たら死ぬぞ!!」



 全力で拳を振り下ろす。

 当然ながらその殺気に反応してキールはその拳を躱す。


 まさか躱されると思っていなかったジークハルトはそのまま地面を殴っていた。



「いってぇぇぇぇぇ!!」

「……自業自得」

「てめぇぇぇ!!」

「喧嘩はやめてください」



 ジークハルトとキールがにらみ合う。

 ただ、ミリアの一言で二人は構えを解いていた。



「しかしコイツが……」

「……何もしてない」

「それよりもそろそろ帝国領に入りますよ。私から離れないでください」



 ミリアが聖魔法を使い、瘴気を払う。

 すると彼女の側に三人が寄ってくるのだが……。



「く、くっつきすぎですよ……」



 手を握るジークハルト。

 反対の腕を組んでくるミハエル。

 腰にしがみつくキール。


 さすがにこの状況にミリアは赤面してしまう。

 しかし、誰も離れてくれないのでそのままミリアは仕方なくそのまま元帝国領へと入っていく。


 ただ一歩踏み入れた瞬間に強烈な吐き気を催すのだった。



「こ、これは……」



 おそらくは浄化しきれていないのだろう。

 瘴気の影響で青ざめるミリア。

 当然ながら他の三人も瘴気の影響を受けていた。



「ここまで酷いとは思いませんでした……」

「一瞬で帝国が滅ぶほどだしな」

「……大丈夫?」

「はい……、ちょっとしんどいですけど頑張ります」



 力不足は頑張りだけではどうすることも出来ないのだが、それでも関係なしに先へと進んでいく。



「一応危なくなったときのためにたくさん薬草を買っておいたんですよ。苦しくなったら囓ってくださいね」



 薬草はとんでもなくにがいものである。

 普通なら好んで食べるものではないが、ミリアに言われては食べざるを得ない。


 皆引きつった顔を見せながら薬草を加えて先へと進む。



「うぷっ……。だ、誰もいないな」



 町並みは帝国そのままなのに強い瘴気があり、人がまるでいない。


 何らかの理由で人だけ姿を消す。そんなこと、あるのだろうか?


 そんな疑問が浮かぶ物のこれ以上判断できることはない。



「おいっ、あれを見ろ」



 そんな時にジークハルトが声を上げる。

 その視線の先には骸骨の魔物がいたのだった。



「ま、まさか、帝国の人たちは……」

「くるぞ!!」



 既に帝国人は全員魔物に変えられてしまったのでは、という不安を抱きながら聖女たちは骸骨と戦うのだった。

 ただ、彼女たちの力では全力をだしてもモブ魔物を倒すのが関の山ですぐさま帝国領から抜け出すのだった。

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