帝国
奴隷売りをしている商人が来たことを話すために俺は一度リフィルとリンガイア王国の首都へと戻ってきていた。
「……今度はどんな問題を持って帰ってきたんだ?」
「なんで問題が起こってること前提なんだ?」
「伯爵がわざわざ俺を訪ねてくる理由なんて、何かトラブルが起こったからだろう?」
「そうとは限らないだろう?」
「……で、実際のところはどうなんだ?」
あまりリンガイア国王は信用していない様子だった。
俺が領地をもらってからずっとトラブル続きだから仕方ないのかも知れない。
「ちょっと気になる情報を仕入れたから相談しようと思っただけだ」
「やっぱりトラブルじゃないか!? 少しくらい良い報告を期待させてほしいぞ」
「問題になりそうなことが先にわかったんだ。良い報告じゃないか?」
「いや、そういうのではなくて、リフィルとだな……」
「んっ? リフィルなら元気で色々とやってくれているぞ?」
「そういう話じゃなくて……」
「お父様!! 一体何の話をしているのですか!?」
リフィルが笑顔で怒り出す。
その雰囲気を察したリンガイア国王がさっさと話しを進めてくる。
「それで一体何があった?」
「実は俺の領地に奴隷商がやってきた。本人はただの商人で職業斡旋をしている、と言っていたけどな」
「……奴隷制度を採用している国なんてレッドラーク大帝国くらいだぞ?」
アルムガルドの東にあるアラハ王国。そこから更に東へ行った先にある巨大な帝国。
その軍事力はアルムガルド近辺の全ての国が合わさったものと同程度の力を有していると聞く。
ただそちらに行くには陸路だと強大な魔物たちの生息する未開の土地を超えていく必要があり、基本的に海路でしか行けなかった。
そのおかげで侵攻されることもないので、両国の平和が保たれていたのだ。
「その奴隷を買い取っている大口の顧客がこちらの方面にいるらしい。その商人はアルムガルドから来ていたから、おそらくはナノワ皇国か……」
「魔族領……か。人と魔族がつながっている可能性があるとなると確かにただ事ではないな」
「んっ、そこは間違いないぞ? 魔王から直接聞いたからな」
そういうとリンガイア国王の動きが止まる。
「待ってくれ。魔王と会ったのか!? ど、どうして?」
「どうしてって大森林に行ったときに向こうから来たぞ?」
「そ、それでどうなった? そもそも魔王と会ってどうして生き残ってるんだ!?」
リンガイア国王は真っ青にしながら言葉早にまくし立ててくる。
「――魔王が攻めてきた原因は知っているか?」
「原因は知らないがきっかけは人魔会談で、そこに集まった各国首脳を皆殺しにしたのがきっかけと……。ま、まさか!?」
まだ詳しく説明したわけじゃないのにリンガイア国王は事情を察してくれたようだった。
「その通りだ。あれは人の手によって仕組まれていたらしい。更には当初の聖女が魔族領で殺されたことがきっかけで魔王は侵攻を決意したようだ」
「まさか聖女様までが!? いや、あのときの二人は仲睦まじかった。それなのにどうして魔王がそんな狂乱めいたことをしたのかと話題には上がったが……。それで殺した犯人の目星はついているのか?」
「それを探しだして自らの手で処すことが真の目的だったようだ」
「……それを言ってくれれば我々も協力できることがあっただろうに」
リンガイア国王は疲れたように背を持たれさせ、顔に手を置く。
「魔王を手玉に取るこのやり方を考える限り、おそらくは魔族と組んでいる人間はいるはずだ。更に今回の奴隷商。彼の大口顧客というのもおそらくは……」
「それで奴隷たちはどうしたんだ?」
「もちろんそのまま放置するわけにもいかないからな。全員うちで購入させてもらった。今は他の領民と一緒に暮らしてもらっているよ」
「さすがに奴隷を奴隷のままで……、というわけにはいかないからな。せっかく結界が直ったのに、どうしてこうもトラブルが続くのだ」
「おそらくはアルムガルドが絡んでいるな……」
「だろうな。ここまですべての行動を起こせるのはアルムガルドくらいであろう」
「ライゼンフィード帝国は除外されるのか?」
「……滅んだよ」
「はぁ??」
リンガイア国王の言葉に俺は思わず声を漏らしてしまう。
「どういうことだ? 仮にも帝国はアルムガルドと同等の軍事力を持っていたはずだが!?」
「そのはずなんだがな。一夜にして帝国の街は灰燼に帰していたらしい。原因を調べようにも強大な瘴気が周辺を覆って、ろくに人も近づけないようだ」
そんなイベントがあっただろうか?
帝国周りはそこまでイベントが多くなかった気がするので、そんな危険なものがあれば覚えていそうなのだが……。
そもそも強大な軍事国家たる帝国は高い城壁に守られ、敵の侵攻を防いでいた。
軍備も強大で、更には魔法分野だと原作最強クラスの力を持つ賢者を抱えていた。
一夜にして落とせるような場所ではない。
「誰かの謀反か?」
賢者が帝国の敵になったのなら内部崩壊してもおかしくはなさそうだ。
ただ、それはリンガイア国王が首を横に振って否定していた。
「とにかく原因がわからない。続きはアルムガルドの報告を待つしかない」
「……どうしてだ? 自分たちでも調べた方がいいのでは?」
確かにリンガイアはつい先日まで魔族と戦争をしており、兵力は少ない。
それでもこの国の一大事に手をこまねいていては、同じ何かが襲ってきたときに対処が遅れてしまうだろう。
そもそもアルムガルドがまともに情報をくれるかどうかも怪しいところである。
「そもそも瘴気に対抗できるのが聖女しかいないからな」
そういえばそんな設定があったな。
だからこそ聖女は魔王討伐を依頼されるわけで……。
「いや、聖魔法ならリフィルも使えるだろう?」
そこに目をつけられてリフィルは闇落ちさせられそうになっていた。
でも、今はさせられていないのだからリフィルも聖女の資格がある、ともいえる。
「いや、やめておいた方がいい。以前リフィルは狙われただろう?」
たしかあの時はナノワ皇国に援軍を頼みに行ったタイミングだった。
それを考えると今回の件も……。
「もしかして狙いは
「おそらくな」
それなら下手に帝国へ調べに行くのも危険だろうな。
「アルムガルドの調査待ちか……」
あのメインキャラ達に調査なんてできるのだろうか?
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