第四話 嫌われ王子、メインキャラと接触する
ワイバーン襲撃
大火災を引き起こしたまま逃げだした聖女一行。
大森林を抜け出したあと、近くの街にある宿屋で怒鳴り合っていた。
「ど、どうするんだ、あんな火事を起こして!!」
「まさかあれだけのことを私が出来るとでも思っているのですか?」
「……初級魔法にしては威力が強すぎる」
いつも眠そうにしているキールが珍しくはっきりとした物言いをする。
「そう。それです。それが私の言いたかった事になります」
「言ってないだろ」
ジークハルトはあきれ顔で言う。
「そもそも初級魔法があれだけ威力を発揮してくれるなら魔物を倒すのに困りませんよ」
確かにあの大火災がミハエルの魔法だったなら、今頃聖女一行には大量の経験値が入っているはずなのだ。
それなのに禄に経験値が入っておらず、彼らはまるで成長していない。
ゲームでは倒せばパーティー全員に経験値が入ったのだが、当然ながら現実ではそんなことで成長はしない。
繰り返しの反復練習や知識によって肉体を鍛えるか、魔力を鍛え新しい魔法を覚えるしかない。
ただ、アルマガルドではなぜか魔物を倒せばその強さに応じた経験値が入手でき、それによって成長すると言われていた。
更に四人パーティーを組む理由は、最大四人までなら同一の経験値が入る、とか言われているからだった。
そんなに簡単に能力が鍛えられるなら赤ちゃんの時からパーティーを組んで魔物を倒し続けたら最強の力を持った人間が出来上がるはずなのだが、当然そんなことはない。
しっかり考えればそんなことわかりそうなものなのだが、盲目的にアルムガルド国王を信じていたらそこまで考えが及ばない可能性はある。
当然ながら頭お花畑聖女のミリアはそんなことに気づいておらず、盲目的に魔物と戦っていた。
当然ながら彼女に良いところを見せようとしているジークハルト、ミハエル、キールの妨害のせいで、ミリアはほとんど戦闘に参加できておらず、レベル1の旅立ちのときとそのままの能力だった。
「それじゃあ、一体誰があの火災を引き起こしたのでしょうか?」
ミリアの質問にミハエルがある可能性を提示する。
「もしかすると既に大森林は魔族に支配されていたのではないでしょうか?」
「た、確かに魔物が襲ってきたほどだもんな」
「……きっとそう」
「そ、そんな……。私たちは間に合わなかったのでしょうか?」
「仕方ないですよ。我々だけではできることが限られていますから。彼らの無念を晴らすためにも必ず魔王を倒しましょう!」
「そうですね。そのためにももっと力を付けましょう」
宿にある他の部屋の荷物を漁ったあと、全員で風呂場へと入っていく。
もちろん男風呂も女風呂も両方ともである。
こういったところに秘密の宝物が隠されているものである。
そんなことあるはずなく、風呂場に隠されているものなんてタオルくらいである。
当然ながら女風呂に入った瞬間にジークハルトたちは桶を投げつけられるのだった。
◇◆◇◆◇◆
突然現れたメインキャラであるバーンズに目を取られてしまったが、今はそれよりも迫り来るワイバーンの対処が大切だった。
ただ、今この場にいるのは俺とリフィルとミューの三人だけ。
さすがにたった三人で……。
しかも戦いに向いていない三人だけでは勝ち目はない。
城壁がなければ……だが。
まぁ、作成途中のものではあるが、アルマガルド側は完全に守れている。
さすがに空を飛んでいるワイバーンを防ぎきれるかといえば飛び越えていきそうではあるが、今追いかけてきている高さだと城壁よりも低い位置を飛んでいる。
もしかするとあまり高くまで飛べないのかも知れない。
そうでなくても今の高さなら城壁に上れば物をぶつけられそうであった。
「お前たち、早くこっちへ来い!」
「あ、あぁ」
バーンズは声をかけられたことに驚きながらもそのまままっすぐ城門へと走ってくる。
その間に俺とフィリルは城壁の上に行く。
ミューには城壁を閉じる役目を任せていた。
そして、城壁を潜った瞬間にミューが門を閉じる。
それと同時に俺たちはリュリュ特製の
城壁に向かってきていたワイバーンは逃れる術なく、その体に
予想通り、ワイバーンは今の高さくらいまでしか飛べないようだった。
高さでいうなら二階ほどの高さである。
お世辞にも高いとは言えない高さだが、ただ羽の生えただけの大トカゲがその高さまで飛び上がった上で移動できることには驚きを隠しきれない。
重力を無視してないか、あれ。
ただ、よく見るとワイバーンの周りを風の魔力が巡っているようで、それを利用した飛行術なのかもしれない。
それでも今の状況だと的にすぎないのだが。
「す、すごい……」
感嘆の声を漏らすバーンズ。
「お兄様……、もう大丈夫なのでしょうか?」
「た、多分?」
不安を隠しきれない様子のバーンズだった。
そもそもワイバーンといえば空を支配する魔物で襲われたら逃げるしかないような相手なのだ。
倒すには冒険者基準ならSランクが複数人いて初めて倒せるほどである。
それをたった二人の子供が圧倒しているなんて、アルムガルドの魔法学園に通っていたバーンズからしたら信じられない光景であった。
しかもよく見ると片方は嫌われ王子と名高い第三王子のテオドールである。
噂では困った人を更に虐め抜くのが趣味と言われているような人間のはず。
それが……。
「お兄様、あのお方は大賢者様なのですか?」
目を輝かせている妹に『あいつは嫌われ王子だ』なんて言えない。
「ははっ、そうかもしれないな」
笑い声をあげているうちにワイバーンは倒され、地に落ちていくのだった。
◇◇◇◇◇◇
無事にワイバーンを倒し終えると俺たちは城壁から下に降りていた。
するとそこにいたのは間違いなくメインキャラの一人、バーンズであった。
ただその隣にいる少女は見覚えがなかった。
「助かった。俺はバーンズ。アルムガルド王国出身で魔法学園一年だ」
「わわっ。お兄様、そのような物言いは……。そ、その、ありが……、ござ……」
少女の方はあまり人と接するのが慣れていないのか、顔を真っ赤にして俯きながら小声で呟いていた。
「気にするな。領地に来た危険を払っただけだからな。俺はテオドール・ガルドだ」
「ミューはミューだよ!」
「私はテオドール様の婚約者のリフィル・リンガイアと申します。お見知りおきを」
こういった場であるにもかかわらず完璧な挨拶をしてみせるリフィルには感心してしまう。
「ところで二人はどうして俺の領地に来たんだ?」
「えっと、テオドールの領地……なのか?」
「お兄様!! 敬称をつけてください!! 不敬で罪に問われますから!!」
「はははっ、気にするな。そのくらいでとやかく言うような俺ではない」
「こいつもそう言ってるから大丈夫だろ?」
「そんなことあるはずないです! 相手は領主様なのですよ!?」
少女がバーンズを叩き出す。
ただ痛くないのか、まるで気にした様子はなくそのまま叩かれていた。
「ところでお前は名乗ってもいないが、それは不敬じゃないのか?」
「そ、そうでした。も、申し訳ありません。わ、私はアミルと申します。ど、どうぞよろしくお願いします」
少女は慌てて名乗る。
「そうか。バーンズとアミル、よろしくな」
名前を聞いてようやく理解する。
このアミルという少女はバーンズルートで出てくる悪役の一人だった。
立ち絵すらないキャラなので見た目だけではわからなかったが、こうしてみると仲睦まじい兄弟にしか見えない。
「それで二人はどうしてここに来たんだ?」
「そ、そうでした。よろしければ私たちをここで住まわせていただけませんか!?」
まさかのメインキャラたちの申し出に俺は目を大きく見開くのだった。
「えっと、それは二人がこの領地に住みたいって方で良かったのか?」
「いや、違うな……。です。俺たちの他にもたくさんいるぞ……。ます」
アミルに睨まれて、バーンズが無理やり敬語を使おうとしている。
ただ、『です』や『ます』を付けただけで敬語になるわけじゃないぞ、と言いたい。
「でもここにはお前たちしかいないだろ?」
「先に交渉に来たんだ。です。俺の仲間……、アルムガルドの孤児たちも一緒に住まわせて欲しい。だぞ」
あまりに無理やり使おうとしているせいで、話し方がめちゃくちゃだ。
そちらが気になりすぎて内容が頭に入ってこない。
アミルも頭を抱えていた。
「話し方は元に戻してくれ。それよりもどうして孤児たちごとこの領地に来たいんだ?」
「ここじゃなくてもよかったんだ。どこに行っても王国での孤児の扱いよりよくなるだろう?」
そういうと王国での孤児の現状を教えてくれるのだった。
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