第三話 嫌われ王子、獣人を助ける
準備
リンガイア国王の依頼を受けた俺は早速領地に戻り、準備を始めていた。
まずは大森林へ向かうメンバー集めである。
戦力面で考えるなら近接戦闘のガンツ。
どんな事態にも対処できるグリム。
弓が得意な遠距離のルーウェル。
あとはサポート兼回復職の俺。
こう見ると結構バランスが良いかもしれない。
一応公爵から一通りの武具も貰ってきている。
剣や弓、鎧など。
さすがにアルマガルド王国の兵が装備しているような一級品には劣るものの、普通にリンガイア王国で使われている武具である。
「国の依頼で頼むのだから装備を渡すのは当然だろう? あまり良いものがないから必要なものがあったらこれで買ってくれ」
そんなことを言って袋いっぱいの金貨まで渡してくる始末である。
木の棒と端金しか渡してこない王とは大違いである。
そんなわけで皆にしっかり装備を渡して大森林へ挑む算段をつけているとルーウェルが不思議そうに聞いてくる。
「四人で行くのですか?」
「えっ? 何か変か?」
「さすがに魔物がいる危険な地ですからもっとたくさんの人を集めた方がよろしいのでは?」
っ!?
確かにそう考えると当然だった。
別に人数を絞る必要はない。
「べ、別に戦いに行くわけじゃないからな。あまり相手に威圧を与えないためにも人は絞っておきたい。だからこそ少数精鋭なんだ」
完全にゲームの時みたいに最大人数四人までしか入れられない、と思っていたとは言えない。
あまりにもゲームに似すぎているのが問題だ。
なんとかそれらしい理由を並び立てるとルーウェルも納得してくれる。
「確かにこれから向かう先は獣人族の集落ですもんね。この近く、ということはおそらく戌人族ですね。比較的人に好意を抱いている種族って聞いております」
さすがこの辺りに住んでいたエルフだけあってルーウェルはそのあたりがすごく詳しい。
ただ、犬、となるとどうしても噛んだりしてきそうなイメージが先行してしまう。
「危険な相手か?」
「いえ、どちらかといえばのんびりとした温厚的な種族です」
「なるほど。そこまでの案内はルーウェルに任せた方が良さそうだな」
「かしこまりました。お任せください」
ルーウェルが頭を下げてくる。
「あと、俺たちの他に来た方がいい奴はいるか?」
「危険だとは承知の上で、リフィル様には来ていただきたいです。これまでの交渉があったことを考えますと王族の人間がいれば信用してくれるはずにございます」
「なるほどな……」
これは後からリフィルと相談だな。
ただ、まぁついてくるって言うよな。多分……。
「あとはあまり気乗りはしませんが、リュリュも呼びたいですね。この領地での最大火力は彼女の爆弾ですから」
ルーウェルは迷うことなく魔道具ではなく爆弾と言い切っていた。
それをリュリュが聞いたら一体どんな反応を見せるのか……。
「リュリュから爆弾を受け取るだけじゃダメなのか?」
「すでに準備ができているのならそれでもいいのですが、おそらく今はほとんど在庫がないと思いますので」
確かに再び作り出したのも最近だもんな。
「よし、それならその六人で向かうとしよう。明日には出発をするから準備だけしておいてくれ」
「かしこまりました」
◇◇◇◇◇◇
早速やたら広くて何も置かれていない自分の部屋へと戻ってくると持っていく荷物をまとめ始めた。
するとリフィルが部屋に入ってくる。
「どこかへ出かけられるのですか?」
「公爵から大森林の獣人に接触してほしいって頼まれてな」
「あっ……。そ、それなら――」
「それでリフィルも一緒に来てくれないか? 大森林だから危険だと思うが」
「もちろんです! 一緒に行かせていただきますね」
あっさり承諾を得ることができる。
それどころかどこか浮き心地で「もふもふ……」と嬉しそうな表情を見せていた。
それを見ていると早まった気持ちになるのは仕方ないだろう。
「えっと、なにを準備しましょうか? 骨とかお肉とかでしょうか?」
すでに手遅れかもしれない。
「えっと、基本的には旅の準備だけで頼む。あまり荷物が多くなっても移動が遅くなるからな」
「はーい、わかりましたー♪」
絶対にわかっていなさそうな返事がくると巨大なリュックに大量の食材が詰め込まれていくのだった。
◇◇◇◇◇◇
翌日になり、俺たちは大森林へと向かっていた。
一応襲われた時用に対陣を考えていたのだが、それを無視するように戦闘をリフィルとリュリュが歩いていた。
「もーふ、もーふ♪」
「もーふ、もーふ♪」
リフィルの可愛らしい声が辺りに響く。
それに続くようにリュリュも歌っている。
のどかな様子ではあるが、ここは一応ゲームでは終盤に訪れる危険なダンジョンである。
いきなり襲われることのないように俺は目を細くして周囲を警戒していた。
「大丈夫ですよ、領主様。これでも私は元狩人です。常に索敵しておりますからご安心ください」
俺の前を歩くルーウェルが言ってくる。
ただ落ち着いているのは本当に彼だけで、ガンツとグリムは相変わらずいがみ合っている。
危険な地を歩いているはずなのにやたら賑やかである。
更にリフィルやリュリュが背負っているリュックは彼女たちの体とほぼ同サイズである。
それほどの荷物を持ちながら歌えるほど余裕があることに驚きを隠しきれない。
すると突然近くの草むらが揺れる。
「っ!? ルーウェル!!」
「えぇ、お任せください」
ルーウェルが弓を構える。
それだけじゃなく先ほどまで騒いでいたガンツやグリムも一瞬で表情を変え、音の方に警戒心を向けている。
「リフィルとリュリュは俺の後ろに……」
「わかりました」
「うんっ……」
さすがに危険が差し迫っていると素直に言うことを聞いてくれるようだ。
何が飛び出してくるのか……。
俺もリュリュ特製
すると、草むらから現れたのは血まみれになって倒れている獣人族の少女だった。
腹部に鋭いひっかき傷があり、そこからとめどなく血が流れ、少女は虫の息であった。
一瞬呆けていた俺だったが、すぐに声を上げる。
「ルーウェル、周辺を警戒だ! ガンツとグリムは何かあれば対処できるように。リフィルとリュリュは悪いけど水や布を用意してくれるか?」
俺の声に反応するようにそれぞれがすぐさま行動をしてくれる。
「襲撃者……ではないよな?」
傍に駆け寄ると意識を失いそうになりながらも持ったままのナイフ。
さすがに治療中に襲ってこられたら危険なので、それだけは外しておくとすぐに俺はまず状態を確認するために鑑定をする。
【名前】
ミュー・ワンダ
【年齢】
10
【性別】
女
【状態】
瀕死
【能力】
レベル:6
HP:0/31
MP:0/0
力:8
守:3
速:16
魔:0
【スキル】
『隠密:1』『気配察知:1』
どうやらリンガイア国王のように状態異常の複合とかいうわけではなさそうで、傷が元で力尽きてしまった、というところだろう。
流れ作業で俺は復活魔法を使った上で回復魔法を使う。
ただ、この子がどういう子かわからない以上、いきなり全回復させるわけではなく、弱めの回復魔法で命だけは助ける、に留めておく。
それとさすがにそのままだと体中血まみれで気持ち悪いだろうから、体の血も拭いていく。
もちろん患部の様子を見ながら。
傷口はしっかり塞がっているようで問題はなさそうだった。
「うみゅー……、こ、ここは……?」
ちゃんと傷が癒えたようで少女は目を覚ます。
ただ、俺たちと視線が合った瞬間に少女は飛び上がり、俺たちと距離を空ける。
「に、人間!? こ、ここまで来たの!?」
ナイフを構えようとする少女だったが、手に何も持っていないことに気づく。
「み、ミューに何をするつもり…?」
「別に何もするつもりはないぞ?」
「そ、そんなこと信じないの。だってミューのおうち、人間たちが……。ミューだけを逃がしてくれて……」
少女の目から涙が流れる。
「領主様、あちらの方で火の手が上がっております」
ルーウェルが教えてくれると、少女が慌てた様子を見せていた。
「あ、あそこはミューのおうちが……。みんなが……」
ふらふらとした足取りで火の手の方へと向かおうとする。
「お、おいっ、待て」
さすがに危険なので少女の前に立ちふさがると彼女はそのまま足が絡まって倒れてくる。
「あっ……」
リフィルが声にもならない声を上げる。
さすがにこんな森の中で火災が起きるとかなりまずいことになる。
この子の集落はもちろん、他の獣人たちも……。
こんなことをしてどういう結果になるかわからないはずもない。
「ルーウェル、まだ生き残りがいるかもしれん。助けに行くぞ!!」
「し、しかし、すでに結構火の手が回っています。ここにいては私たちも危険では?」
「そちらも対策をする。リュリュ、出番だ。カバンからありったけの爆弾を出してくれ!」
「爆弾じゃなくて魔道具ね。
文句を言いながらリュリュはカバンをひっくり返す。
すると、いろんな形をした、魔道具としか言えないような爆弾がひっくり返る。
「全てに付与魔法をかける。これをもって火の手を囲むように周りの木々を倒してくれ」
「わかったよ。って、爆弾じゃないからね!!」
「ガンツとグリムもそちらを手伝ってくれ。お前たちの活躍で火が消えるかどうか決まるからな」
「よし、こいつよりも多くの木を倒してやる!」
「俺様がお前に負けるわけないだろ!」
二人がにらみ合いながら爆弾を持たずに走って行ってしまった。
まぁ、木さえ倒してくれたらなんでもいいだろう。
「付与が終わり次第、俺たちも行くぞ。水玉の数が少ないから火を消すまではできない。人を助けることだけを優先だ。ルーウェルは人の気配を探ってくれ。リフィルは助けた人たちの看病だ」
「わ、わかりました」
「お任せください」
「あ、あの……、ど、どうして……」
俺の服の裾を掴んで聞いてくる少女。
「どうして? ただ目の前で困ってる人や怪我をした人がいたら助けるだろ? 何を言ってるんだ?」
今は一刻一秒を争う事態。
余計なことにかまっている暇はない。
だから俺は付与魔法を使うことに集中する。
そして、すべてに付与を終えると少女が言ってくる。
「み、ミューも手伝う!! みんなをミューが助けるの!」
「……わかった。その力、あてにさせてもらうぞ」
「わわっ!?」
俺が少女を背負うと彼女は慌てた様子を見せる。
ただ、離れようとはせずにギュッとしがみついてくるのだった。
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