爆弾魔

 翌日、早速リュリュが土玉を作ってくれていた。



「うまくいくのか?」

「もちろん。私を誰だと思ってるの!?」

「ルーウェルが言うには爆弾魔、ということだったが?」

「それだと私が何でもかんでも爆発させる危険人物みたいじゃない!?」



 そうだから気をつけろ、って言っていたのだと思うが――。


 見た目は確かに土玉そのものである。

 でも、自信ありげなリュリュの姿を見てるとむしろ不安をかき立てられてしまう。



「とりあえず試してみても良いか?」

「もちろん! 私たちも行くよ!」

「ぼ、ボクも行くのですか!?」



 シィルは青ざめた表情を浮かべていたが、そんなことはお構いなしにリュリュは俺たちの手を引っ張っていくのだった。


 そしてたどり着いたのは城壁の予定地だった。


「ここで試していくが本当にいいんだな?」

「任せてよ。私が本当にうまく作ったことを見せつけてやるんだから」



 リュリュがここまで行っているんだから本当にうまく作れたのだろう。

 その割にシィルの表情が青ざめているのか気になる。


「シィルも言いたいことがあったら言ってくれていいんだぞ?」



 シィルの態度を不思議に思いながらも俺は土玉を城壁予定の場所へと投げてみる。

 すると……。



 ドゴォォォォォォォン!!!!



 あまりにも予定調和すぎる結果だったが、その威力が思ったより強かった。

 土壁を作るはずだった場所に大穴が空く。


 本来なら支援魔法で強化をしてから土玉を使うつもりだったのだが、爆発の恐れがあるからと使わなかった。


 それが良かっただろう。


 ただでさえ大穴を開けているのに、ここから威力が上がるとなるとどうなるかは考えたくなかった。



「やっぱり爆発したな」

「こ、 これはたまたまなんだからね」



 リュリュが顔を真っ赤にしながら言い返してくる。

 するとそんな中、シィルが俺に別の土玉を差し出してくる。



「あの、これも……」

「あぁ、爆発玉か?」

「たまたま爆発しちゃっただけでちゃんと土玉だからね!?」

「えっと、これはボクが作ったもので……」

「よし、早速使わせてくれ!」

「私の時と反応が違うよ!?」



 突っかかってくるリュリュをスルーして俺は早速土玉に支援魔法を使う。

 場所は……城壁予定位置に大穴が空いてしまったからな。

 少しだけ位置を変えざるを得ないだろう。



 大穴の使い道……。

 ここに水を溜めておけば非常用の水源確保になるだろうか?

 それならここも城壁内に加えるように少し広めに城壁を作ってみるか。



 頭の中で修正のイメージをした上で、俺はシィルが作った土玉を使ってみる。

 するとこちらも予想外で、以前リフィルと一緒の時に作った城壁は頑丈ながらもしっかり土でできていた。

 ただ、シィルの作ったものはもはや土とは言えず、見た目は石造りの城壁がかなりの距離、出来上がっていた。



「えっ!?」

「ま、まぁ、助手ならこのくらいはできてもらわないとね」



 作ったシィルもなぜか驚いている。



「えっと、普通に土玉を作ったはずなんだけど……」

「通常の土玉より遙かに高性能だな」



 元々ゲームだと一定ダメージ量である効果玉だが、現実であるこの世界だとやはり出来によっても性能が左右されるようだった。



「よし、土玉作製はシィルに任せた!!」

「ぼ、ボクでいいの?」

「もちろんだ」

「むぅ……、私じゃダメなの!?」



 リュリュがふくれっ面をしている。

 見た目も合わさってもはや子供にしか見えない。



「適材適所だからな。リュリュはむしろ色んな魔道具を作ってほしい。爆発に差があるか見てみたい」

「ぜ、絶対に爆発させるわけじゃないんだからね!? でも、仕方ないなぁ。やっぱり私の魔道具が必要になるんだよね」



 口ではこう言っているが、おそらく爆発させるんだろうな、と想像がつく。


 ただ、この威力を考えると武器としては十分である。

 突然相手が襲撃してきたときのことを考えると誰でも扱える良い武器になりそうなのだ。


 目の前に出来上がった城壁を考えるとその上から投げるだけである程度の敵は撃退できそうである。

 あとはどの魔道具ばくだんが投げやすいか実際に試してみるだけだな。


 あとはこの魔道具に支援魔法を使った場合、どの程度の力を発揮するのかの検証だが……。



「さすがに領地内では試せないな。下手をすると地形すらも変えかねないわけだし」



 ある意味、爆弾作りに関しては他の随を許さない、ということだろう。


 ただ、想定よりも強固な城壁が作れそうなことは安心できる要員になりそうだった。




◇◇◇◇◇◇




 続いて俺は畑の方へとやってきた。

 そこで農家の面々が早速畑として耕し始めていた。



「ここの土地はどうだ?」

「あっ、領主様。リンガイア公国は不毛の地とは聞いていたのですが、まさかここまで良い状態の土地が残っているとは思いませんでした。これなら良い野菜が作れると思いますよ」



 どうやら範囲回復魔法エリアヒールを使った土壌改良はうまくいったようだ。



「それならよかった。何か足りないものでもあったら言ってくれ」

「それならこの土質を継続させたいので家畜を飼わせていただけませんか?」

「もちろんそんなことならぜんぜん構わないが……、そうだな。一度商人を呼んだ方が良さそうだな」



 ただリンガイア王国は元々貧しい小国である。

 どちらかと言えば商人も他国から呼んでくる必要がある。



「一度公爵に相談してみても良いかもしれないな」

「わかりました。お父様に連絡しておきますね」



 リフィルの返事を待って向かうとしよう。




◇◇◇◇◇◇




「久しぶりだな、テオドール殿。今日はいよいよ結婚の報告に来たのか?」

「そんなわけないだろ。まずはあの領地をまともな領地に見えるようにすることが優先だ」

「本当にテオドール殿は真面目だな。だからこそ信用できるのだけどな」



 リンガイア国王は大声を上げて高笑いをしている。



「しかし結婚の報告じゃないとなると……領民が足りないから人を貸して欲しいってことか。さすがに二人じゃどうにもならないよな」

「いや、そっちはそれなりの人数が集った」

「……はぁ? す、すまん、もう一度言ってもらえないか?」

「人数はそれなりに集ったぞ。エルフ族と王国から集落ごと逃げてきた人がいたからな」



 さすがに魔族のことは今言って混乱させるべきじゃないと判断し、グリムのことは言わないでおく。



「まさか多種族を取り込むとは……。いや、それでも住むところがないんじゃないのか?」

「そんなことないぞ? 木材は十分あるし作る人間はいるからな。まぁ、さすがに一度に全員分は作れないから時間はかかるだろうけどな」

「なら完成を楽しみに待たせてもらうとしよう。ところでそれなら一体なんのようだ?」

「俺の領地に商人を呼び込みたいのだが……」



 全てを言い切る前にリンガイア国王は全て把握していたようだった。



「確かにこの国に駐在する商人はほとんどいないからな。でも、わかった。一応私が懇意にしている商人がいるからそちらに声をかけておこう」

「それは助かる」

「いやいや、気にするな。魔族を退けた話はかなり良い方向に進んでいるからな。私の方こそ礼を言いたいくらいだ。今はこの国に支援したいと言ってくる国がかなりあるからな。ずっと良くなっていくだろう」

「それこそ俺はなにもしてないじゃないか」

「はははっ、前にも言ったが謙虚すぎるのは罪だぞ? それにアルムガルド王国の人間が他の王族ではなく、嫌われ王子であるお前を頼ってくる、というのが全て物語ってるだろう?」

「……たまたまだろう? 王国が酷すぎて近くに俺の領地があっただけだ」

「今まで逃げ出す奴自体がいなかったんだぞ? おそらくお前が手を回していたんだろうが」



 やはりリンガイア国王も一国をまとめているだけある。

 俺がどういうことをしていたのか、全て把握しているようだ。


 そもそもメインキャラがいるせいでアルムガルド王国がおかしくなっているだけかも知れないが。



「あのまま行くと確実にアルムガルド王国は滅びるからな。一応俺も王国の生まれだから、なんとかそれを回避しようとしたんだ。あの王子バカたちの誰が王になっても良いようにな」

「その結果が嫌われ王子……か」

「俺は別に権力が欲しいとかそんな欲望はないからな。平和的に暮らせたらよかったんだ」

「一応あの国の動向は調べているが、知りたいか?」




 概ねゲーム内で情報は得ているが、それとの差異は調べておく必要があるだろう。


 俺の知っている王国は『多数の国々をまとめ上げる大国で、周辺諸国から熱い信頼を寄せられている国』ということだな。


 そんな時に魔族の王が世界を滅ぼそうとする。

 その時にアルムガルド王国から光の聖女が現れ、幾人の勇者たちと共に魔王を倒す旅に出る。


 つまりアルムガルド王国は正義として描かれていた。

 もちろん盗賊がいたり、街の中に魔物が入ってきたり、色々と問題が起こったりもするが、それも聖女たちが解決することで、結果として賞賛につながる様になっていた。


 しかし、それは本当にいい部分を切り取っただけ、ということをこの世界に転生したからこそ俺はわかっている。


 耳を塞ぎたくなる様なことも出てくるだろうが、それでも俺は覚悟を決めるとリンガイア国王の話を聞くことにするのだった。

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