役割分担

 またメインキャラが原因か……。



 ただ原作だと彼らの行動の抑止力になっている俺がアルムガルド王国を捨ててしまったのだから全くの無関係とも言いがたい。



 それにしても誰もメインキャラのゲーム的行動を窘めなかったのか? 明らかにおかしい行動だろ?

 そもそもメインキャラ全員が物価を知らないってどうなってるんだ?


 なんで銀貨一枚の宿が高い、になるんだよ。

 大体一万円くらいだろ?

 妥当な値段じゃないか!


 一応村長が言うには付き添いに冒険者がいたらしいが相手の権力が強すぎて、下手に意見が言えなくなっていたらしい。



 ある意味彼らも被害者、ということである。



「事情はわかった。お前たちが被害者ということも、な」

「そ、それでは……」

「一つだけ前もって言っておく。エルフたちにしたことはその聖女たちがしたことと何ら変わりないことだぞ?」

「うっ……」

「だからそうしたことを二度としないと誓ってもらおう。俺の領地で種族間の差別は許さないからな」

「わ、わかりました。誓わせていただきます」



 長老が頭を下げてくる。



「ルーウェル、領地計画にこいつらの居住区もつくってやってくれないか?」

「かしこまりました。早急に案を修正させていただきます」

「よ、よろしいのですか?」

「もちろんだ。その代わり何もないところだからな?」

「は、はい。ありがとうございます」



 俺がいなければ彼らも村を捨てる必要がなかったはず。

 原作では、一応彼らの村は魔王討伐までは残っていたはず。

 終盤に訪れる街ということもあり、ゲームだと第一王子ルーベルトも行動を共にしていたが。。


 村の訪れたメインキャラも全然違うわけだし、なにか村人が逃げ出さない条件みたいなものもあったのかもしれない。


 抑止力になっていたわけではなく、別の悪い意味合いで――。



「あと、エルフたちの中で調合ができるものと畑に携わってたものはいるか?」

「調合なら私ができるよ」



 小柄なエルフの少女が手を挙げてくれる。

 作る量を考えるともう少し人手は欲しいところだが、今のところは仕方ない。



「作って欲しいものがある。属性玉の土玉を大量に。できるか?」

「任せてー。すぐに取り掛かるよー」

「あぁ、よろしく頼む。ルーウェル、彼女の作業場兼家を優先して作ってくれないか?」

「そ、それは構いませんが、本当に良かったのですか?」

「何がだ?」

「彼女の名前はリュリュ。聞いたことありませんか? リュリュの魔道具を」



 そういえば原作でも『ルルの爆弾』っていう誰が作ったのかわからない固定ダメージを与える道具があった。


 もしかして、ルルではなくてリュリュが本当の名前だったのだろうか?

 爆弾の魔道具を作るのが得意な……。



「どんな魔道具を作っても全て爆発させてしまうことで有名なあのリュリュの魔道具ですよ? 最近では変なファンがついたとか……」

「……えっと、それは爆弾を作ろうとしてるわけじゃなくて?」

「どんなものでも爆弾にかえてしまうのですよ」

「あーっ……、もう一人、誰か別の人もつけてくれるか?」

「もう、私を信じてよ! ちゃんと立派な土玉を作って見せるからね!」



 俺よりも小さい体で上目遣いをしてくる。

 もちろん、そんなことに騙される俺ではない。



「誰でも良いから頼んだぞ」

「むーっ」

「で、では、ぼ、ボクがやってもいいでしょうか?」



 手を挙げてきたのは、人族の小柄な少年?だった。

 中性的な顔立ちをした童顔で、どちらの性別にも取れそうだった。


 先ほどのことがあったから自重していたのかもしれないが、本当は調合をやりたかったのかもしれない。



「調合はしたことがあるのか?」

「村の時には自分で調合をして、それを販売してました」



 まさに今回うってつけの人間であった。

 やや気弱そうなのは、あまり人付き合いが得意ではないからかもしれないが。



「リュリュは構わないか? 一応お前の助手、ということにしようと思うが」

「私がトップなら構わないよ!」

「お前もそれで良いか? えっと……」

「あっ、ボクはシィルって言います。も、もちろん構いません。よろしくお願いします」



 こうして領内に調合をメインにする部隊が出来上がるのだった。



「い、一応、爆発に耐えられるように建物は頑丈に作ってくれ」

「あっ、やっぱり私が爆発させると思ってるんでしょ! 目にものを見せてあげるからね! 行こっ、シィル!」

「あっ、ちょ、ちょっと待ってください。し、失礼しまぁ……」



 最後まで言い切ることなくシィルはリュリュに連れて行かれてしまうのだった。




◇◇◇◇◇◇




「さて、あとは畑の方だが……」

「あの、大変申しにくいのですが、候補地を作っておいてなんですが、エルフの中に畑を使ったことのあるものはいなくて……」



 ルーウェルが本当に申し訳なさそうに言う。

 確かにエルフはどちらかと言えば自然と共存しているイメージがある。


 森の恵みを分けてもらったらしていたら、わざわざ畑を耕す必要もなかったのだろう。



「それなら儂達に汚名を返上する機会をくれないかい?」



 言ってきたのは老人である。

 確かに人族なら農家の人もいるだろう。



「俺としては助かるがいいのか?」

「もちろんじゃ。これから匿ってもらうのじゃからできることはする。エルフかれら以上に役に立ってみせるわい」

「あっ、一応伝えておくが、エルフがいるからわかると思うが、ここには色んな種族が住んでいる。だからといって争わないように」

「お、俺に言ってるのか!? だ、大丈夫だよ。しっかり反省したからな」



 エルフにくってかかっていた男は慌てた様子で答える。



「なんじゃ、獣人族でもおるのか? 安心すると良い。この辺りに住んでおると近くに暮らす種族がたまにやってくるのじゃ」



 それなら問題なさそうだな。



「それなら紹介しておく。彼はグリム。まぁ、魔族だな」



 それを聞いた瞬間になんとか笑顔を見せていた村長たちの表情は瞬く間に青ざめていく。

 震えてなんとか身を隠そうとするものや泣きながら命乞いをしている人間もいる。



「り、り、領主様? そ、そ、その、お戯れがす、す、すぎますよ……」

「戯れでもなんでもないのだけどな……。もちろん彼もこの領地に住むからには多種族との共存を約束させている。だから安心していいぞ」

「は、は、はいっ!?」



 上擦った返答が来る。

 どうやら彼らが慣れてくれるまでにはまだまだ時間が必要そうだった。




◇◆◇◆◇◆




 聖女たちによって、辺境の村が全滅させられていたことがアルマガルド国王に報告されていた。



「一夜にして村人全員がいなくなるなんて魔族の呪いに違いない!」



 第二王子がその目で見たことの報告をしているので、そのことを疑う人間は誰もいなかった。

 ただ王子だけなら見間違えということもある。


 しかし、それが宰相の息子や聖女までも同じものを見たとなるとあながち嘘とも言い切れない。



――あの魔族め。リンガイア王国を攻めるのは我々に任せると言っておきながら自分たちは王国に乗り込んでおったとは。



「聖女たちはよくこのことを調べてくれた」

「いえ、当然のことをしたまでです。ですが、あそこに住んでいた人たちはどうなったのでしょうか?」



 聖女が心配そうな表情をする。



「魔族が誰かを生き残らせるとは思えん。全滅しておるじゃろうな」

「ひ、ひどい……」



 聖女は目に涙を浮かべていた。

 その慈悲深さに国王たちは感動する。



「それもこれも魔族がリンガイア王国に蔓延っているのが原因だ。だが魔族は強い。お前たちにはまだ早かったようだ」

「し、しかし急がないともっと犠牲者が!」

「安心するといい。無条件に襲っているところを考えると次に魔族が向かうのはおそらくラフィス大森林にいる獣人たちであろう」

「なら私たちは……」

「うむ、しばらく休養を取ったのち城で訓練だな」

「ど、どうしてですか!? 獣人の人たちも助けないと」

「彼らは人を排除しておる。そんなところに行っては魔族と獣人の両方を戦う必要が出てくるぞ?」

「そ、そんな……」

「大丈夫だ。彼らも黙って倒されるはずがない。魔族に一撃を負わせてくれるはずだ」

「……わかりました」



 聖女は渋々話を終わらせる。

 ただ納得はしていなさそうだった。


 もちろんそんな時、ゲームだとどういう主人公がどういう行動をするのか、わかりきったものだった。




◇◇◇◇◇◇




 夜、こっそりと城を抜け出そうとする聖女。

 そんな彼女の前にメインキャラたちが現れる。



「と、止めないでください! 困ってる人がいるのに私には黙ってみていられません!」



 自分を止めに来たのだと思った聖女は彼らを振り切ろうとするが……。



「そんなこと、するはずないだろ? 俺たちを見くびってもらっては困る」

「ふんっ、王族のあなたはここで待っていてもらってもいいのですよ?」

「……布団」



 約一名、今にも戻りたそうにしていたが、おおよそみんな同じ考えのようだった。



「み、みんな……。ありがとうございます……」



 聖女が涙を流すと覚悟を決めて頷く。



「では、みんなで行きましょう!」



 そんな聖女の姿を陰から見ている人物がいた。



「くくくっ、中々面白そうなことになってるな。そういえば獣人はまだ味わったことがないな。それに聖女もいずれ俺様のものになるわけだから、そろそろ俺様の力を見せつけておくのも良さそうだな」



 第一王子ルーベルトがニヤリと微笑むと先回りしてラフィル大森林へと向かうのだった。


 ただ、そんな聖女と王子たちの行動を聞いた国王が「報酬もなしに行ってくれるとはな」とほくそ笑んでいたことに誰も気づいていなかった。


 更に本来ならストーリー通りに進むはずのゲームなのだが、現実だとオープンワールドになってしまい、レベル一桁の聖女たちが推奨レベル四十オーバーの難関ダンジョン、ラフィル大森林に挑むことになるなんて誰も想像していなかったのだ。

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