結界の古代魔道具
『
普通の平民である主人公、ミリアが聖女になったことがきっかけで魔王退治へと出向くRPGである。
同行するメンバーは
第二王子である戦士、ジークハルト。
宰相の息子で魔法使い、ミハエル。
眠そうな年少の天才剣士、キール。
腹黒い支援職、ユミル。
物腰の柔らかい道具屋の息子、カイン。
口の悪い不良だが仲間思い、バーンズ。
の中から三人選び、それと聖女の四人パーティーで魔王討伐へ向かう。
ただし、RPGパートとは別に学園パートもある。
王立魔法学院にて主人公がメインキャラに囲まれて生活を送る、というものである。
恋愛RPGとしては何もおかしい展開ではないのだが、それが現実となると他国に戦いに赴いて、次の瞬間学園パートになるなんて瞬間移動でもできないかぎり不可能であった。
つまり、魔王討伐中は学院は休学するしかない。
メインキャラは貴族や王族だけではなく、平民も数多くいる。
当然ながら金銭的な負担は大きいのだが――。
「もちろん、国王様の期待に応えたいと思います!」
聖女に任命されたミリアは国王からの『リンガイア王国奪還』の依頼を二つ返事で引き受けていた。
「おぉ、受けてくれるか。では、支度金としてこちらをやろう」
国王アルデバランはミリアに銀貨一枚を渡す。
だいたい兵士の日給程度の金額である。
その時点で国王が聖女に期待していない、ということがわかりそうなものなのだが、そこは主人公。
もはや旅をすることが前提で話が進んでいく。
「ありがとうございます。必ずリンガイア王国を魔の手から救い出して見せます」
聖女は聖女で王の言葉が全てだと言わんばかりに盲目的に信じている。
これが原作だと『真に国を憂う純真で優しい聖女』という扱いになるのだ。
脳内お花畑と言われても仕方ないほどである。
「ただ、そなた一人では悪逆非道な魔族たちを相手にするのは厳しいであろう。そこで、学院で共に戦ってくれる仲間を三人探し出してパーティーを組むと良い。みな、そなたの力になってくれるであろう」
「私の身を案じてのご配慮、ありがとうございます」
ミリアは周りを虜にする笑みを浮かべると軽く一礼し、謁見の間から出ていくのだった。
◇◇◇◇◇◇
翌日、脳内お花畑聖女が選んだのは脳筋王子と宰相の息子と天才剣士であった。
当然ながらまとまりなんてものはない。
「はははっ、すべて俺が粉砕してやる!」
「……うるさいですよ。頭まで筋肉でできているのですか?」
「……眠い」
こんな状態でまともに戦えるはずもないのだが、
そもそも王国の街道はそれほど安全ではない。
本来なら巡回兵が危険を排除して、安全に次の領地へと向かえるようにする。
それが領主の役目の一つでもあるのだが、RPGの醍醐味かアルムガルド王国では普通に魔物が飛び出してくる。
治安が相当ひどいということがよくわかる。
それなのに大きな町の中はかなり賑わっている。
一部の人にだけ恩恵がいくようにしているのだ。
領主たちが私腹を肥やしているということがよくわかる。
当然ながらそんな危険な道をろくに戦ったこともない人間が歩いていると魔物たちには格好の餌食になるわけで――。
「……ちっ、逃げるな卑怯者め!」
ジークハルトの筋肉を生かした全力の振り下ろし切りを悠々と躱した魔物のウルフ。
最底辺の魔物に位置づけされている魔物で、ゲーム中だとジークハルトの攻撃一発で倒せるような相手だが、当然ながら倒されることを待っている魔物はいない。
だから当たれば倒せるジークハルトの一撃も、現実だとまったく当たらなかった。
それどころか当たらないことにいら立ちを見せる始末である。
「邪魔ですよ。
眼鏡をかけている宰相の息子、ミハエルがその眼鏡をくいっと持ち上げると反対の手をウルフへ向けて魔法を唱える。
当然ながら延長線上には先ほど切りかかったジークハルトがいるのだが、そんなことお構いなしである。
「ぐはっ。な、なにをするんだ!!」
氷魔法をまともに受けたジークハルトはミハエルに怒鳴りつける。
「戦いの邪魔だからですよ。どうせ当たらないのですから後ろに下がっていてください」
「なんだと……。もう一度言ってみろ!!」
ウルフを無視してミハエルの胸倉を掴みにかかる。
その間にキールが一瞬でウルフを切り刻んでいた。
「……うるさい」
「無事に倒せてよかったです。みなさん、怪我を治療しますね」
戦いでは何もせずに後方で笑顔を振りまいているだけのミリア。
ゲームでは指示を出したりもできるのだが、そこまで細かい指示は出せず、勝手に戦っているのを眺めているだけになっていた。
それでも惚れているが故か、言い争っていたのが噓みたいにみんなおとなしくミリアの回復魔法を受けるのだった。
怪我をしていないミハエルやキールすらも回復魔法を受けていた。
「それにしても魔物がここまで現れるなんて、魔王の支配が強まっているのですね。私たちが何とかしないといけませんね」
気合をいれるミリア。
そんな彼らの戦いぶりをたまたま見ていた行商人は
「自分たちも勇者にあこがれてあんな馬鹿をしてたことがあるな」
と微笑ましく見守りながら、聖水が振りかけられて魔物を寄せ付けなくなった馬車で王都へと向かっていくのだった。
◇◆◇◆◇◆
「……ここはどこだ?」
魔力不足により意識を失った俺は、いつの間にか知らない場所で寝させられていた。
王城で暮らしていた俺の部屋に匹敵するほどの広い部屋。
ただ広いだけでよく見ると壁にはひびが入っていたり、ベッドも簡素なものであったり、広さの割には歪な空間であった。
「テオドール様、もう起き上がっても大丈夫なのですか!?」
ずっと傍にいたのか、不安そうにしているリフィルが手を握ってくる。
「大丈夫だ、魔力が尽きただけだからな。それよりもここは?」
「ここはうちの客間ですよ。カイエンさんに運んでもらって……」
「そうか……。あとで礼を言っておこう」
ベッドから抜け出ると軽く伸びをして体の調子を確かめる。
「まだ完全回復とはいかないが、半分くらいは回復していそうだな」
「あまり無理をしないでください。テオドール様の身に何かありましたら私も父も申し訳が立ちませんので」
「そういえば国王の容態はどうだ? 無事なのか?」
「はいっ、テオドール様のおかげですっかり調子を取り戻されています。テオドール様の調子が戻ったら会いに来てほしい、と言っておりましたよ」
どうやら色々とトラブルはあったものの無事に治療は成功したようだった。
「わかった。それなら今から行くか」
◇◇◇◇◇◇
案内されたのはやはり国王の寝室だった。
やはりまだ動き回れるだけの余裕はないようだ。
ただ顔色はすっかり良くなっており、上半身を起こして俺の方を見ていた。
「……まさかあなただったとは」
「えっ? お父様はテオドール様とお知り合いなのですか?」
嫌われ王子である俺はほとんど社交の場に出たことがない。
それでも全くないというわけではなく、数回程度は出たことがあった。
おそらく国王はそのときに出会ったのだろう。
ただ、アルムガルドを捨てた今の俺からしたらそれはもはや関係ない話であった。
「人違いだ。誰かと勘違いしていないか?」
「なるほど、訳アリということだな」
「えっ? えっ?」
一人取り残されているリフィルをよそに国王は頷いていた。
「どこのどなたかは存じないが、そなたのおかげで私はこうして一命をとりとめた。本当にありがとう」
その場で頭を下げてくる。
それには俺もリフィルも驚きを隠しきれなかった。
「一国の長が簡単に頭を下げていいのか?」
「礼には礼を、だ。助けてもらったのに礼も言えないなら国王の前に人として失格だからな」
なかなか豪胆な性格をしているようだった。
「……俺は大したことをしてないぞ」
「はははっ、自分の体のことは自分がよくわかる。もはや助かる道はないと思っていた時に現れた救世主だぞ? これが大したことじゃないというのなら何が大したことか私にはわからないな」
「そうですよ、テオドール様はものすごかったのですよ!」
リフィルが必死になって言っていた。
その様子を見て、国王は嬉しそうに頷いていた。
「テオドール殿、助けてもらっておいて申し訳ないが、リフィルを連れてこの国から逃げてもらえないだろうか?」
「お、お父様、なにを!?」
リフィルは驚きのあまり声を上げていた。
「なにもなにも状況はわかっているだろう? 結界の
「そ、それなら徹底抗戦を……」
「それで血を絶やしてどうする!? お前だけでも生きていれば再起は可能だろう?」
「で、ですが……」
国王たち親子が言い争っている中、俺は窓から国を覆う結界を眺めていた。
一城塞都市程度の大きさしかないために、覆うことができているであろう結界。
ポーションを鑑定できたときにもしかしたら、と思い同じように鑑定してみる。
【名前】
不浄の結界陣
【種類】
古代魔道具
【耐久】
HP:3/10000
【効果】
『結界(聖):4』
【追加効果:0/1】
なるほど、ほとんど耐久値が残っていない。
これがなくなると総崩れで魔族が襲ってきてこの国は亡ぶのだろう。
「でも表記はHPか……」
支援魔法がアイテムに使えたようにもしかしたら回復魔法も使えるのだろうか?
確か回復魔法の説明は『HPを回復させる』だったはず。
「はははっ……、さすがに人以外には回復魔法は使えないよな」
苦笑を浮かべながらもせっかくだから試してみることにした。失敗する前提で。
失敗しても何も起こらないわけだから問題ないだろう。
こっそり無詠唱で魔法を試してみる。
ゲームだと魔法名を選択すると、メインキャラたちがそれを口に出して魔法を使っていた。
無詠唱で魔法を使うというのはゲームではなかった技術だが、成功のイメージがしっかりとしていたら使うことができるのだ。
もちろん魔力消費量が上がるなどのデメリットも存在するが、周りにばれずに使えるというメリットもあり、魔法の訓練をしたかった俺にとっては効果的な技術だった。
ただ今回は実験だったために弱い回復魔法を使った。
そのおかげで復活魔法ほど魔力を消費することなく、ちょっとだるい感じを受ける程度だった。
さらに……。
「せ、成功してしまったのか……?」
魔法を使ったあと、
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