蘇生魔法
リフィルたちと共に俺はリンガイア王国へとやってきた。
国を守る城壁はすでに半壊しており、ほとんど守る力を備えていない。
さらには城下町の大通りにいる人たちは落ち込んだ様子を見せており、生きる気力を全然感じられない。
もはやいつ滅びてもおかしくなさそうな状況である。
ただ幸いなことにまだ魔族の侵攻は始まっていないようだ。
「そういえばあなたの名前を聞いておりませんでしたな」
「あっ……」
カイエンの言葉を聞いてリフィルはまだ名前を聞いていないことに気づき、恥ずかしそうにうつむいていた。
「そうだな、俺はテオドール……。いや、ただのテオドールだ」
既に国を出た以上、俺が『アルムガルド』を名乗ることは許されていない。
扱いとしてはただの平民、ということになる。
それなのに国王息女に対して不敬な態度を取っているように思われるかも知れない。
それでも慣れた言動はすぐに直るものでもないし、そのことをリフィルはまるで気にした様子はなかった。
「テオドール様……。テオドール様……。えへへっ……」
なぜか嬉しそうに俺の名前を呟いていた。
その様子を微笑ましそうにカイエンは眺めていた。
「とりあえずまずは私の父に会っていただけますか?」
「……えっ?」
リフィルの父というとこの国を治める国王である。
いきなり国のトップとの会談は予想外でもあったが、カイエンの考えはそうではなかったようだ。
「そうですね。それが良いと思います。テオドール殿の力ならばもしかしたら……」
「えぇ、是非お力をお借りしたいです」
◇◇◇◇◇◇
案内された先は謁見の間……ではなくて、国王の寝室であった。
その理由はすぐにわかる。
国王は体調が悪いみたいで、顔色が悪く寝込んでいた。
「お父様は先の戦いで負傷されて……」
リフィルは悲しそうに言う。
――なるほどな。俺の回復魔法なら国王を治療できるかもしれない、と考えたのだろう。
「どうでしょうか? 我々にした回復魔法で国王様も治療できないだろうか?」
カイエンが聞いてくる。
「期間が長くなるとそれだけ回復魔法の効きが悪くなるのは知ってるだろう?」
「も、もちろんそれはそうだが、テオドール殿なら……」
「確実に成功できるかは約束できないが、できる限りのことはやってみよう」
リフィルが頷いたのを確認すると、俺は国王をジッと見る。
治療をするには一つ大きな問題がある。
確かにゲーム知識を生かして、俺は自身の能力を上げ、同世代では負けないと自負できるだけの魔力を手に入れた。
しかし、それはあくまでも同世代では……だった。
遠征先の急な治療で活躍できたとしても、国の宮廷魔法使いが治せなかったものを普通に治せるとは思っていない。
おそらく回復魔法は効果がなかったのだろう。
その理由はいくつか考えられる。
『衰弱』回復や蘇生魔法そのものを体が受け付けなくなる状態異常。状態異常回復で治療できる。
『反転』回復魔法の効果を反転させダメージに変える状態異常。アイテムのみで治療できる。
『瀕死』かろうじて命をつないでいる状態。強い衝撃でも与えると死亡してしまう。蘇生魔法でしか治せない。回復や支援魔法、アイテムを無効化させる。
このどれかであればまだ治療することができる。
ただ状態異常もすでに試していそうなんだよな……。
「仕方ない……」
あまり良い気がしないだろうから、と使わないようにしていたプレイアブルスキル『鑑定』。
自身や相手の能力を盗み見することのできるそれは、信託の儀においてスキルを調べてもらう『スキル鑑定』の上位互換である。
もちろん基本的にスキルは自分が公開しない限りは広まることのない。
対策を立てられないように内密にしておくのが普通であった。
――俺の場合は父である国王によって勝手に公開されたわけだけどな。
それでも下位能力である『スキル鑑定』ではプレイアブルスキルまでは読み取れないようだった。
それを俺は国王に使用する。
本来なら国の代表にそのようなことをするのは許されざる行為である。
しかし、現代表は意識がなく一応その娘であるリフィルには「できる限りのことをする」と確認をして承諾をもらっている。
万全を期すためには必要なことだと割り切ろう。
そう考えると俺は国王に鑑定を使用する。
【名前】
ガルバラン・リンガイア
【年齢】
51
【性別】
男
【状態】
瀕死、衰弱
【能力】
レベル:21
HP:0/55
MP:0/24
力:24
守:17
速:15
魔:15
【スキル】
『剣術:5』『火魔法:3』
なかなかのレベルだった。
能力も一般的な兵士が平均10くらいの能力と考えるとそれ以上の力を持っていた。
スキルは最大10で、1~3が初級、4~6が中級、7~9が上級、10が最上級と言われている。
やや戦闘に特化しているからこそ先陣を切って戦いに出ていたのだろう。
そして、かかっている状態異常はだいたい予想通りであったものの二重に掛かっているようだった。
これがかなり厄介な組み合わせで瀕死を治そうとしても衰弱で効かないし、逆に衰弱の状態異常を回復させようとしても瀕死で無効化される。
つまり実質そのキャラは使用不可能となってしまうのだ。
ゲーム中にも同様の症状が出てバグ報告されていた。
公式からは次の更新で修正すると言われていたが。
「ど、どうでしょうか? 治療はできそうですか?」
「普通の方法では厳しいな」
「そ、そんな……。テオドール様のあの回復魔法ならきっと……」
「そういうわけじゃない。これは衰弱と瀕死という二つの状態異常だからそれを治療できれば治すことはできる」
「ほ、本当ですか!? でしたらそれを――」
「……その治療方法がないんだ」
「ど、どういうことですか?」
俺は詳しい事情をリフィルに説明する。
二つの状態異常がお互いの治療を打ち消しあっていることを。
するとリフィルは不思議そうに聞いてくる。
「どうして衰弱は『無効化』と書かれていないのでしょうか?」
その何気ない一言に俺は再び衰弱の効果を考える。
――確かに完全に効かなくなるのならどの文言も無効化となるはず。それなら何かしら効く方法があるのかもしれない。
色々と試してみたいものの、使う魔法が蘇生魔法だから試行錯誤することはできない。
それなりに魔力は鍛えていたのだが、一日に使えて三回ほどなのだ。
時間があるのなら色んな方法を試していきたいところではあるのだが、次の魔族の侵攻までおそらくそれほど時間はない。
ここでのんびりしている時間はなかった。
試しに無効化されることを前提に回復魔法を使ってみる。
当然ながら何も起きなかった。
やはり普通の方法ではまるで回復はできないようだ。
でも体が受け付けなくなって……。
そこでふと閃く。
体が受け付けなくなる、ということは直接体に浸透させるような形だとどうだろうか?
もしくは『体』というのが体外のことで体内からなら効果を発揮するかもしれない。
そのどちらも使って体内から直接蘇生魔法を浸透させる……。
ただそうなると瀕死の状態異常が厄介だった。
衝撃を与えずに体内に直接魔法を使う。
アイテムも無効化されるし支援魔法も……。
そこで俺は動きが固まる。
確かにアイテムの効果は無効化されると書かれている。
しかし、支援魔法を付与したアイテムの場合はどうなるのだろうか?
瀕死の場合は支援魔法も無効化してしまうので体内には残らないだろうが、アイテムに蘇生魔法を込めて体内へ取り込ませるとアイテムの効果は無効化されるだろうけど、蘇生魔法は体内に残るのではないだろうか?
「
「も、もちろんです。すぐに準備させていただきます」
リフィルがカイエンの方を見ると彼は急いでポーションを持ってくる。
「こちらがポーションと
「確実に成功するかはわからないからな。まずはポーションで良い」
原作ではできなかったアイテムへの付与。
それに似た直接蘇生魔法をポーションに込めていく。
消費魔力は直接使うよりも多く、これ一回で大半の魔力がなくなってしまいそうだった。
おそらくは蘇生魔法を支援魔法で付与した、という形がとられていたから二倍の魔力を消費した、と考えられる。
おっと、そうだ。
一応鑑定を試しておくか。
所持している道具もプレイヤーには詳細な効果を見ることができていた。
店売りや落ちているものとかは入手するまで効果がわからない。
おそらくこれにわかるものが『鑑定』なのだろう。
【名称】
ポーション
【種類】
消費アイテム
【耐久】
HP:10/10
【効果】
『回復:1』
【追加効果:1/1】
『蘇生:1』
うまくいったようだが、色々と初めて見た文字が表示されていた。
ただそれを検証するのはあとからだ。
まずは出来上がったポーションを国王に飲ませていく。
すると……。
「う、うぅぅ……」
国王がうめきだし、強い光を発したかと思うと瀕死の表示が消える。
無事に蘇生魔法が使えたことを確認すると俺はすぐさま状態異常の回復魔法を使い衰弱を治療したあと、回復魔法でHPを回復する。
そこまでした瞬間に俺の魔力が尽きたようで頭がふらつき、そのまま意識を失ってしまった。
◇◆◇◆◇◆
「どういうことだ! なぜ金が支払われん!」
国王アルデバランが怒りを他国の使者にぶつけていた。
「それはもちろん、かの王女の暗殺に失敗したからにございます」
「ど、どういうことだ!? 我が国の影が任務を失敗したとでもいうのか?」
アルデバランが信じられない、と言いたげに驚いてみせる。
『影』というのはアルマガルド王国の暗部の総称である。
主に汚れ仕事を担い、正体を見せることなく仕事を完遂することからそのように称されていた。
今回は相手が相手ということもあり、盗賊に扮して襲わせたはずだ。
いくら精鋭を揃えたとしても数人の集団くらい敵ではなかった。それなのに――。
「それで影はどうなった?」
「それは我々の預かり知らぬことにございます。ただ――」
「ただ……?」
「その影を倒した人物は火の上位魔法と水の上位魔法を同時に操る人物のようです。そんなことをできる人物、我々の国以外だと……」
「帝国の賢者……か」
「おそらく」
「我が国の
「わかりました。では、我々魔族はいったんリンガイア王国から手を引かせていただきます。我々が攻め入ればうっかり滅ぼしかねませんので」
「よく言う。彼の国が邪魔で我に泣きついてきたくせに」
「……あの王女は復讐の種を植え付けたらいい素材になりそうだなと思っただけですよ」
それだけ言うと男は一瞬のうちに姿を消していた。
「気持ち悪い魔族め。金払いが悪ければすぐにでも滅ぼしてやるところを」
それを見送った後、アルデバランは兵を呼び出していた。
「王国が敵に寝返った! 相手に魔族がついておるやもしれん。聖女を呼び出せ!」
「はっ!!」
魔族と組んでいたのは国王の方でリンガイア王国はまるで無関係なのだが、王女が助かったことによって、リンガイア王国は魔族ではなく王国、ひいては原作主人公である聖女とメインキャラたちと敵対することになってしまうのだった――。
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