【15】新参者

「どうしてこんなことに……」


萎縮しきったコトハは、目の前に佇む自身を無理やり引き摺ってきたイズモを見据える。

緊張からなのかロングコートが静かに揺れている。


「言ったじゃろう?話したいことがあると。ほれ、来ないのなら此方から行くぞ?」


そう言うとイズモは力強く地面を踏み締め、一瞬のうちにして間合いを詰めてコトハを蹴り抜く。


「かはっ…!?」


嗚咽の混ざった声を吐いて、コトハは後方へと吹き飛び転がる。


「ちょっとイズモ!?」


やりすぎだと伝えるよりも前に、意図を察したのかイズモは言う。


「分かっておる、まぁ見ておれ。なに、殺しはせん」


そう軽く言い放つとコトハに顔を向ける。


「コトハ、だったな?単刀直入に言うが、お前の身体は今呪われておる」


「えっ?」


嗚咽混じりにコトハは疑問を吐く。

何かと思って外に出てみればお前は呪われているなどと言われては仕方の無いことだろう。


「あのクソ蛇にでもかけられたんじゃろうな。このままではお主は数年以内には崩れ落ちるじゃろうな。それはお主自身が一番分かっておるじゃろう?」


「……」


沈黙がそれが事実であることを伝えた。


「私は、どうしたら…」


静かにコトハは呟く。操られてきただけの被害者には、恐らく対処法など知る由もない。

イズモは静かにコトハを見る。


「不安…と言った様子じゃな。まぁよい、人らしくての。結論から言うとな、わしにはその呪いを解く方法を知っておる」


コトハがイズモを驚いた顔で見る。


「えっじゃあ…」


「しかし無理じゃな」


「あっ…」


突き放された様に少女は暗く俯く。


「何を惚けておる?"今は"無理なだけじゃ」


「……え」


小さく、希望が瞳に灯った気がした。


「神域があってな。古くに血に染まり人々から忘れられた、忘却の神がかつて収めていた区域じゃ。あそこなら解けるじゃろうな」


「……!」


希望を灯した少女は、決意を固めた顔をする。

そこで、イズモが提案する。


「さて、ここまでが話じゃが。本題はそれではない。コトハ、その神域はな。現在夥しい数の化け物に囲まれ、あのクソ蛇の支配下になっておる。お前一人じゃキツイだろう?しかしここに放浪を旨として旅をする暇な者共が居るが…さぁて、どうする?」


ニヤリと、イズモは笑みを浮かべる。

つまり、この模擬戦は力試しだったわけだ。

コトハがこれから生きていけるかの。僕らに付いて行けるかの。

……僕の方が弱いよね?

そんな疑問を知る由もなく、コトハはイズモに声をあげる。


「…私は、生きていきたい。奪われ、失い続けたこの最低な人生でも、こんな私でも生きていけるんだって証明したいの!だから…」


そう言って静かにコトハは糸を手繰り寄せ、不敵な笑みを浮かべる。


「手合わせ…お願いしますね?」


クハッと不思議な笑いをすると、イズモも札を構える。

そうして二人は"入試"を始めた。

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クオン幻想放浪記 @Kibidano_Sensei

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