【5】かくして……

眼前に広がるは桜に囲まれた神社。

どうやら一人称視点で記憶は見えるようだ。

そして1人の市女笠を被った人?がいた。

市女笠は顔が見えなかったが、女性のような声で話し始めた。


「もう…対処が追いつかない…他の仲間も次々と倒れていった…ここまでかもしれない」


「……そうか。これを置いていく。誰かに…誰かに届けるために」


下を向き懐から取り出したのは白い狐の面。

そう。神の残滓が宿っていたそれであった。

社殿の中に置いた瞬間、市女笠が叫ぶ。


「まずいぞ!追っ手が来た!」


「もうか…だがまだ記憶の譲渡が…」


「そんなことはいい!行くぞ!我らは旅を続けなければならないんだ!」


「……あぁ、分かった」


「走れ!」


1つの足音と共に神社を出た時、突如視界が先程の光に包まれて僕らは戻ってきた。

そして気になったことが1つ。


「神は誰かに追われていた?」


イズモも僕の言葉に反応するかのように話し出す。


「何者かは分からぬが…そうみたいじゃな」


「クイナ様、どこに他の記憶があるのか分かりますか?」


《ここから東。20里先の山の奥。幻想に隠された紅い秘境の村。そこに1つ。それ以外は分かりません》


「そうですか…」


「ほれクオン。早速じゃが準備をするぞ。長い長い旅になるやもしれんからな。先に出とるぞ」


そういいイズモは社殿の外に出る。


「ああ、そうだね」


僕はそう言い社殿を出ようとした。

すると後ろから声が響く。


《人の子よ》


「なんでしょうか?」


《お前はとても面白い。懐かしいような。不思議なものです。そして貴方には妖力があるようですね》


「僕に?」


《元々貴方自身にも少なからずあったのでしょう。しかしその肉体が持つ妖力は異常です。それに穢れ人は引き寄せられたのかもしれませんね》


「そう……ですか」


《大きな力は一長一短。使いこなせるようになればそれは大きな武器となります。ゆめゆめ諦めず努力を怠らないよう》


「はい。クイナ様、ありがとうございました。」


僕は一言お礼を言い、社殿を出る。

すると出た先にはイズモが居た。

今度は巫女服ではなく、普通に着物を着ていた。色は美しい白であり、褄下の部分には紅い彼岸花が描かれていた。

見ていたのがバレたのかイズモが僕を見る。


「なんじゃ?そんなまじまじと見て…変なものでも付いておるか?」


「あっいや何も」


「そうか。ほれ。行くぞ20里というものは存外遠いものだぞ」


「そうだね」


僕はそう言い、イズモと共に歩き始めた。

かくして旅は、この物語は始まった。

神の軌跡を辿る旅。または己が何者なのかを知る旅。

この美しくも儚く、残酷な世界。


この旅の行く末は、誰にも分からない。

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