7 嘘つきは生贄の始まり



 それは、若くして息子を亡くした母親の放ったものとは思えない一言だった。もしくは、大勢の前で故人に対して言うものとしても。


 けいを伴い、口実のためだけの葬儀に出席した君月きみつきは、己がもう少し正常な感性をしていたらきっと耳を疑ったのだろうと。数えるほどしかいない弔問客の前で話す、老人特有のしわがれた声を聞きながら考えていた。


 僧侶もおらず、村に唯一ある火葬場で棺を焼くだけ焼いて。その後の喪主挨拶において、老女はあの濁った泥濘のような目を伏せて淡々と、


「──あの子は、村の恥です」


 そう、何の感慨もなさげに言ったのだ。



 ◆



「──三十五年前、山中で不自然死を遂げた貴方のお父上についてお聞きしたい」


 君月は村の代表を名乗る男性、丹羽にわに向かって言った。


 山中で発生した怪死体。その時期は『裁判』が始まったのとほぼ同時──否、むしろ『裁判』自体がこの事件に端を発するといっても過言ではないだろう、というのが君月の調査の結果であった。

 言うまでもなくこれは今から少し前、ユユとかなえが『被告』・熊谷くまがいから聞いた、禁じられていた山中に立ち入り、脳を失って発見された男の話と同じ事件を指している。


 余談だが、情報源は主に君月の見立てでは大分取り入ることに成功した、例の押しに弱い第一村人の男性。残念ながら名前は覚えていない。


「いくらなんでも、好奇心が過ぎましょう。まるで探偵みたいじゃないですか」


「まさか。僕らは葬儀に来ただけの一般人ですよ、それもここの人に頼まれて。それにもう用はなくなりましたから。言われなくても、明日にでも帰らせていただくつもりです」


「……興味本位ならば、答える義理は」


「分かりました。じゃ、もうちょっと明るい話題からいきましょう。軽い感じで」


 了承を得ることなく「軽く」と宣言し、更にはそれを自身にも適用するつもりらしく。彼はどうやら形から入るタイプのようだった──もちろん悪い意味で。


 君月は分かりやすく不慣れかつ据わりの悪そうだった正座を早々に崩し、体勢をあぐらに移行。

 奇抜な頭髪のせいか不遜な態度も妙に様になっているが、それはそうと見る人を腹立たしくさせることは間違いなかった。──そのまともな感性をしていたら当たり前の嫌悪すら顔に浮かばないほどに、この質疑は丹羽にとって負担なのだと。

 そう見て取った君月が膝を浮かしたまま、


「軽いと言えば世界滅亡。と、彗星が来るって噂、本当なんです?」


 初日に聞いたきり、『裁判』にユユの証言した『山』にと立て続けに事が起こったせいですっかり影が薄くなっていた噂だ。

 彗星による滅亡から村を守ってもらう、もとはといえばそういう理屈で神の復活が目されたそうだ、とユユから聞いた覚えがある。


 筋は通っている。

 問題は世界滅亡などと大きく出た割に、その予言されたらしい終末に怯える者が見当たらないのと。もう一つはまさしくその真逆──『裁判』で見た、『神』の要求に値する『罪人』を捧げられないことに対するあの恐慌状態とのギャップ。


「……。本当でしょう。皆申していますから」


「ほーう。皆んなって、具体的に誰から」


「それは、クエビコ様でしょう」


「守ってくれる、も?」


 丹羽が頷く。これ自体に深く掘り下げるつもりは毛頭なかったので、こちらもあいまいなリアクションをしておく。


「ではもう一つ。貴方の家はここ稗多ひえだ村において、『神憑かみがかすじ』とされている。これは合ってます?」


「誰から……いえ。違いありませんが、何か」


 もちろんこれも、あの口の軽い男性からである。

 名前は確か田中だったか、田原だったか。そうだ、確か田原だ──とようやく出た結論に一人、すっきりした顔をしている君月だった。


「失礼。──でしたら、『憑き物筋』っていうのはご存じで?」


「──。初めて聞いた言葉ですね。憑き物、ですか」


「そうですかそうですか。ではちょっと、僕から一つ説明を」


 説明といいつつ、端からこういう流れに持っていくつもりだったのだろうと分かる、有無を言わさぬ口調で傾聴の強制。


「まずは復習からどうでしょう。元々は暴れ猪だか熊だか──その特徴は一つ目一つ足、異形ではあるがとにかく獣のたぐい。この村の伝承は、それを流れの修験者が封印し、獣はクエビコという鬼神となったというもの」


「ええ」


「で、その『神』に憑かれたとされる家系がおたく、丹羽家だと」


「取り憑かれたではなく、守護を」


「元はこっちでしょ。違います?」


 丹羽が口をつぐむが、生憎と君月は沈黙を肯定と捉えるタイプだった。


「憑き物筋というのは、古くに信じられていた民間伝承の一種。超常の何かに憑かれ、もしくは自ら使役し、多くはその恩恵によって栄えた家のことです。──うん。随分ご立派ですねえ、おうち


 ふむふむと、自ら提示した理屈に納得を示すように君月が顎に手を添える。


 憑き物筋──君月の調べた範囲ではその存在自体、かつてですら地方特有のもの、もしくは局所的なものだったようだが。

 今となっては恐らく、最低でも六十歳以上の高齢者にぎりぎり片足を突っ込んだ者か。よほどの民俗学者でないと知りえないような、とうに廃れ果てた文化だ。


 ただそれでも、当事者にまで伝わっていないというのは考えづらい。──負の歴史というものに関し、例え時勢が変わったとしても全てを葬り去ることなどできないからだ。


「かの事案を機に、それまで気味が悪いと周囲から疎まれていた憑き物筋──その多くが、神の恩寵を賜った『神憑り筋』として畏敬の念を向けられるようになった。それも全国的に」


「昔のことは知りませんが……我が家の繁栄は確かに、クエビコ様のおかげだと、」


「クエビコ様クエビコ様、随分と信心してらっしゃる」


 ここだ、と君月は踏んだ。


 後ろめたいことでもあるのか、とうに丹羽の視線は君月から逸らされており、加えて今の、一言一言嚙み含めるような──まるで自分に言い聞かせるかのような物言い。


 この村の支配が、恐れというたった一つに起因しているのであれば。

 神憑り筋とされ、しかし同時に罪人を輩出した家、そこに属する彼も例外ではないのでは──というついさっき立てた仮説、実証開始だ。


「村の、守り神ですから」


「お父上を殺されたのに。なるほどご立派」


 それは冒頭のくだりに今一度、立ち返ろうという宣言。

 たっぷりの沈黙の後、「父は」とぽつり呟いた丹羽に、君月は自身の狙いすました構図が成ったことに確信を得た。


「父は……確かに、私の小さい頃に亡くなりましたが。それは、本人が自ら罪を犯したからです。村民に聞いたのなら、そこは御存じでしょう」


「らしいですねえ」


 君月がそれなりに聞いて回ったところで分かったこと。村人はすべからく、罪人に対して容赦がない。

 この村における罪人は、この間君月自身が村八分と例えたように──もしくはそれこそ古き賤民文化を踏襲するように、『人に非ず』と定義されるのだろう。


 自業自得といえば真っ当な思想のようだが、本質は違う。死した彼らを端から自分たちとは違う存在として定義することで、同族嫌悪と断じられることを防いでいるのだ。


 そういうわけで、三十五年前の死体に関しては面白いほどすんなりと情報が集まった。


「山中で見つかった、苦悶の表情を浮かべその脳みそを失った変死体。──その前日、雪の降る深夜に響き渡り、村中を震撼させた懺悔の叫び。なんて話が」


 まるで下手な怪談話。全くもって意味はないため会話に含めはしないが、少し考えてみるだけでも気になる点は多い。


 例えば死体に脳がないと判明した過程。はたして誰が最初に、どうやって気づいたのか。死体の頭を振ってみて軽かったらなのか、だとしたら何故振ったのか。それだけでも面白い。

 更には、まさか試しに割ってみたらびっくり中身が無かった──なんて猟奇的な想像もできて、『果ての二十日』という時間制限がなければもっと詳しく聞けたのに、と少し残念になった君月だ。


 ──そんな取り止めのない思考の間、丹羽に起きた変化は極めて分かりやすかった。


「そうですね。『許してくれ』と、そう叫んで父は死んだそうです」


 ──なんだ、知ってるじゃないかと。

 

 膨れ上がり、彼が露わにしたのは怒りだった。


「村中が耳にしたあの叫びが、断末魔が。山に立ち入り、あまつさえ祠に傷をつけ、自業自得を詫びて死んだ男が。──その事実が当時の私たちにどんな苦境をもたらしたか、貴方に分かりますか」


 震え声による静かな憤りの発露。「貴方に」と言っているが、その対象が君月ではないことは明確だった。


 丹羽は推定五十代、「当時」となると恐らくは十代後半。


 幼い知覚による誇張された原体験と断じることも、加齢による緩やかな忘却も許されなかったであろう彼は、自身の経験をまるで今見てきたことかのように生々しく訴えた。


 ──これはきっと、そのときのままの、純然たる恐怖。


「母と兄は自ら捧げものとなり、私は妻帯者となる資格を失った。遠縁は相続の権利を放棄し、丹羽の家は今代限り」


 明後日の方を食い入るように見つめる丹羽の、改めて見ると豪勢な屋敷に不釣り合いな痩躯がゆらゆらと右に左に揺れ始める。

 鬱憤と畏怖がないまぜになって、彼は仮宿に初めて姿を現したときと同じように、唇の端をぶるぶると震わせながら吊り上げた。


「いかれていると、お思いでしょう。──ええ、その通りですよ」


 人の笑顔の起源は威嚇だという説があったと、君月は想起する。目の前の男の生白い顔は、まさしくその裏付けだった。


「ただ一人許された私が果たすべき贖罪。神の言うまま、この狂った村を存続させる。させなくてはならない。罪はあるんです、あるから、悪いのは彼らで、──一体、」


 丹羽のいびつな笑みが、ぐにゃりと文字通り歪む。彷徨っていた焦点がようやく定まり、視線が合ったことを君月は察知した。そして狂気から一転、丹羽は一気に老け込んだような形相のまま、「いつまで」という声にならない悲嘆にうっすら唇が動いた。


「裁きなどしたくはない。そう受け取っても構わないかい」


「──。────あ」


 頷き、ではない。


 返答かと思われた丹羽の絞り出すような声は、しかしすぐにそうでないことを君月は理解する。再び合わなくなった丹羽の目線の先は真横、広々とした窓の外。


「あ、ああ」


 ──『何か』を、見ている。


 何もいないはずの引き窓の奥をじっと見て、丹羽は先ほどまでとは違う、新たに与えられた恐怖に打ち震えていた。


 『山』に何かがいるという、ユユの発言が思い返されて──その瞬間、君月は己の失策を悟ったのだ。



 ◆



「──なあ、あんたら結局なんなんだ?」


「ユユは……ユユたちは、あなたの味方です。それだけ、信じてください。お願いします」


 一方的に『被告』とされ、三日後に死が確定しているという若者、熊谷くまがい。たかが数十分話した程度では晴れるわけもないその当然ともいえる疑いに対し、できる限り真摯に、ユユは心を尽くして答える。応える。


「じゃあ、ありがとうございました。その、お時間とか」


 伝わっただろうかと一抹の不安もありつつ、最後に安心させるようににっこりと笑い、ツインテールを揺らして可愛くお辞儀。多少の受け答えののち、ユユは踵を返す。


 ぐいぐいいったのはこちらとは言え、時間が余ったことは事実。これからどうしようか、景に連絡して美曙みあけの捜索──日が陰りはじめ、葬式もとっくに終わっている頃だが未だに連絡はないところを見るに、まだ捜索中なのだろう──に加りたいと打診でもしようか、などと道すがら考えて。


「ねえ、──?」


 一応鼎にも聞いておこうとユユは振り返って、その姿がないことに気づく。一瞬記憶に新しいトラウマ的光景が頭をよぎり、息を詰まらせたがなんのことはない。


 少し遠ざかった熊谷の家、鼎はまだそこに立ち止まっていたのだ。

 背の低い彼女は背伸びをして、杖に体重をかけ腰を下げた熊谷に何かを耳打ちしていた。


 冬が似合う灰に近い黒髪の隙間から覗いた白い顔、口元にあたる位置。──そこに一本、細く、長い黒線が引かれたような。


 足の止まったユユの視線に気づいたようで、丸くぼやけた輪郭に縁どられた頭部がこちらを向いたのが分かる。黒線はいつの間にか消失していた。

 そうして、ふわふわとした髪質の毛を寒風に好き勝手に遊ばせながら、悠々と歩く鼎は何事もなかったかのようにユユに追いついた。


「何か、話し……てた?」


「オマエと似たようなことな。『鼎』はキチッとやるだろ、こういうとこ」


 ふうん、とユユは頷いてみせる。なんだ、というのがユユの正直な感想だった。もし本当にちゃんとしていたのだったら、少し申し訳のない気持ちにもなる──の、だけど。


「美曙さん、探そうと思うんだけど。ユユも。……なんか、ある?」


「勘弁してくれよ。オマエらとずっと一緒にいてやったろう、疑われる謂れはねエぜ」


 心外だと言わんばかりの不満顔。実際、アリバイの話をするならユユ自身が証人となるのだから、この疑念は不毛でしかなかったのだとユユは素直に認める。


 つん、と唇をとんがらせて短く謝ったユユだった。


「と、椿原つばはらさん……いたいた」


 ともかく進捗どうですかなどと聞くべく、ユユは景に電話をかけることにした。コール音が一回、二回。電波が悪いのか、少し間を空けて三回目。


「……あれ」


 四回。飛ばして、七回目。──プツ、というあまり耳心地の良くない機械音。


「何してんだ」


「ユユが、あんまり知らないだけかもなんだけど」


 スマートフォンを耳に当てたまま一向に喋りださないユユに、鼎が不審な目を向けてくる。ぱちぱちと自身の瞬きの回数が多くなるのを実感しながら、ユユは言った。


「お掛けになった電話は電波の届かないとこに、っていうの、田舎だとよくあることだったりしない? ……みたいな」



 ユユが未だに君月の連絡先を知らないため──鼎は論外として──焦る気持ちはあるが、ひとまずの仮宿帰還。全員出払っていて誰もいないかと思いきや、足音に気づいたらしくひょっこりと顔を出したのが君月。


 その目立った変化もない様子を見て、嫌な想像が外れたことに胸を撫で下ろしたユユだった。──しかし、居たのは彼一人だけで。


「景もどっか行ったんだ。美曙を探してる途中でね。結構探したんだけどさ、どっちもダメだった」


 寒々しさを覚えるほど広くなった土間の真ん中で、困った困ったと首を捻る君月。


 ──耳にした事実にも、ことここに至っても緊張感がないというレベルではない彼の態度にも、愕然としたユユだった。



 ◆



「警察呼びましょう。無理ですこれ」


 ユユの決断は早かった。同時に、君月の返答も。


「いない」


「はい?」


「いない。管轄の署はあるけど駐在はなし、ここには滅多に顔を出さないらしい。是非はともかく、この村は自治によって成り立っている。そこに口を出すもんならどうなるか、君にも分かるだろ?」


 ここまできたか、田舎──という現実逃避強めなユユの感想はさておき。


 あの『裁判』を見た以上、確かに頷かざるを得ない理由だった。

 実際、「葬儀に呼ばれた」という嘘八百の建前をもって潜入まがいの行為でもって村に入り込んだ自分たちのことがある。それは正攻法ではどうにもならないだろうという想定があったからで、一応、納得は、できる。


 だから、ユユが引っ掛かったことは別で、


「……それ、いつ知りました?」


「依頼人からのメールで。いつって言うんだったら、三日前かな」


「もうそのとき言えましたよね。わざとですか」


 君月は黙りこくったままで、返答はなかった。


「──っ、あの」


「なんだい」


「あの。──信用、していいんですか。っていうかさせる気、あります、」


 表情が読めない。

 君月が先ほどから湛えているのは、目尻を下げ、まるでユユだけでなく全てのものを見下しているかのような薄い、薄っぺらい微笑。

 普段の嫌味ったらしいほど自信に溢れたものとは全く違う、そのどこかに既視感を覚えた気がして──景に似ているのだ、とユユは勘づく。同時に、似ているだけでどこかが決定的に違っているのだと。


 下手なのだ。端から見てもそうと分かる、心の内を隠すことを前提に作られたそれはまさしく張りぼての能面。

 隠すならもっと上手くやればいいだけの話。そうしないのはそれすらわざとなのか──異常事態といって差し支えない、この状況で?


 ──気味が悪いと、ユユは素直にそう思った。


「──さむっ」


 ふと、君月が窓に寄って行ったかと思うとそう呟いた。上着も着ていないのだから当たり前だと、ユユは思ったが。


「外見てみなよ。雪が降ってきてる。これは積もると見た」


「……」


「明日探そう。『果ての二十日』までは、あと二日ある」


「……熊谷一志ひとしさん。『被告』になっちゃった人に、大丈夫なのかって言われて、ユユ、はい、頑張りますって言っちゃったんですけど」


「大丈夫だいじょうぶ。大船大船心配ご無用」


 その瞬間、理解できないものを見る目をしていたユユの表情に映し出されたのは失意、失望。


 ──稗多村滞在三日目、情報は得られたが状況は依然膠着──否、むしろ悪化したままに一日を終えることとなった。



 ◆



 公的機関は頼れない、しかし帰るわけにもいかないと朝早くから行方をくらました二人を探しに行ったユユ、そして鼎。

 予想通りの一面の雪景色に臨んだ彼女らを軒下で見送り、どうやらすっかり信用を失ったらしいと君月は独りごちた。


「オマエ。作戦かなんかあるんだろ。聞かせろ」


「ああ。──あったかも、しれないんだけどねえ」


 君月は昨夜の鼎との会話を頭の中で反芻する。意外にも思える要求だったが、意図自体は理解できる。そのため、こちらも用意しておいた回答を。

 曖昧にぼかしてなぞって伝えたところ、鼎は少しの間意表を突かれた顔をしたあと、すうっと目を細めて言ったのだ。


「嘘つきのツラ、してんなァ」と。



「どの口でどのツラだよ、全く」


 とうとう一人きりになった君月は溢す。

 聞いておいてほしいと伝えた『被告』の彼への質問には回答をもらえたし、ユユにしても鼎にしても、自分が仮に蛇蝎のごとく嫌われたとして大した問題はないのだが。否、問題がないというなら鼎は最初からそうだった。


 それにしても嘘吐きと言うならお互い様だろうと、何、自分は違うみたいな言い方してるんだよと──つまり彼は、自分がそうと言われることには心外だと思ってはいないようで。


 ──したがって、彼は己が何と言われようが粛々と受け入れるつもりだったのだ。


「──久野ひさのさん。己の犯した罪に自覚があるなら、そこから出てきてください。出てきなさい。出てこい。出てこい出ろ」


 窓の隙間から見えるのは大勢の老若男女──否、やや一方向に偏りのある集団。


「──出ろ!!」


 怒声を発し、先頭に立つのは案の定の丹羽と、もう一人は杖を突いた若者。

 既に結構見覚えのないその人物に誰だろうと頭の中をひっくり返しながら、君月は「はいはい今行きますよー」と言うとがらりと引き戸を開けた。


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