第5話  ありがとう!

 琴音と一緒に暑い夏を駆け抜けて秋になった。


 琴音と花火大会へ行った。甚兵衛に下駄の僕(頭にはねじりはちまき)、琴音は黄色い浴衣で輝いていた。はしゃぐ琴音の写真を何枚も撮った。僕は琴音を大好きになっていた。


「今日は何をするんだ?」


 この日はお互いにジャージ。場所は公園。


「後1週間で体育祭だ」

「ダルいよなぁ」

「トレーニングをする」

「どうして普段はダルがって体育祭だけ張り切るんだ?」

「俺は足の速い不良なんや。100メートルとリレーに出る。お前は?」

「私は100メートルだけ」

「よし、準備運動や」


「私のタイムは?」


 100メートルを走り終わった琴音が聞いてきた。


「これならビリやな」

「だろうな。ずっとビリだったから」

「正しいランニングフォームを身につけよう」

「マジか?」

「さあ、やるぞ」

「嫌だぁぁぁ」


「お前はどこの学校に進学するんだ?」

「大学には行かない」

「どうして?あんなに成績いいのに」

「金銭的な余裕がない。奨学金という名の借金も嫌や。バイトしながら苦学生というのも嫌なんや」

「それでは、どうするんだ?」

「就職や」

「そうなのか」


 琴音が僕の顔を覗き込んでくる。僕は琴音を抱き締めた。琴音は抵抗しなかった。

 僕達はキスをした。


「そうそう、これ」


 僕は琴音に小箱を渡した。


「これは何だ?」

「誕生日プレゼント。少し早いけど、早く渡したくなったから、もう渡しとくわ。あ、でも、琴音が普段身に付けているアクセサリーと比べたらかなり安いで」

「開けていいか」

「ああ」

「うわあ、可愛い」


 中身は一応ダイヤのネックレス。トップのダイアモンドが揺れるのでキラキラする。


「つけてくれ」

「ええよ」


 僕は琴音にネックレスをつけてあげた。よく似合っていると思った。


「琴音なら、もっと高価な物を沢山持っているやろうけど…まあ、俺の気持ちや」

「嬉しい」


僕達はもう一度 キスをした。



 体育祭で、僕は活躍した。琴音はビリだったがよく頑張った。自己最高タイムだったらしい。


 僕は陸上部のランナーに競り勝ち100メートルは1位、リレーでは2人を抜いた。


 そんな僕を、琴音は格好いいと言ってくれた。嬉しかった。


 体育祭が終わったら文化祭だ。

 僕は寝ている内に文化祭委員になっていた。女子の委員は琴音だった。


 僕等のクラスは喫茶店をするとのことだった。


 週に1~2回委員会に顔を出せば良かったので、クラスの準備を手伝うことが出来た。


 慣れない作業に困惑しながらも琴音は楽しそうだった。


「不良は文化祭なんてサボるんじゃないのか?」

「俺も去年、そう思って1人でサボっていた」

「普通の不良はそうだろう?」

「ダメだ! イベントには参加しないと想い出がつくれないんだ」

「なるほど」

「大人になったときアルバムに学生時代の写真がなかったら寂しいぞ、きっと」

「確かに」

「だから、一生懸命やる。わかったか?」

「わかった」

「喫茶店のウエイトレスのユニフォームは浴衣らしいな」

「お前はウエイトレスをやるのか?」

「お前は?」

「カメラを持ってあちこち見物する」

「それなら私も同行するに決まっているだろう」

「あ、来る?」

「当たり前だ」

「じゃあ、当日は行動を共にしよう」

「ああ」

「と思ったが」

「なんだ?」

「文化祭当日にかかわらず行動を共にしてるよな」

「嫌なのか?」

「嫌とは言わへんよ」



 文化祭当日!


「どこから回るんだ?」

「お腹すいてるか?」

「すいてる、今日、学校の物を沢山食べようと思って、昨夜は夕飯を食べなかった」

「極端やな。ほな、まずは食べたいものを食べようか」

「うん」

「うどん、そば、ラーメン…」

「ラーメン」

「ほな、ラーメンから」


 ちなみに校内では僕等は制服を着ている。特攻服などは着ない。


 だから普通のカップルと思われているらしい。いや、金持ちと不良の変わったカップルと思われているのかもしれない。


「ピザトーストもあるぞ」

「食べる」

「ほな、食べよう」

「あ、コーヒー」 

「コーヒーは自分のクラスで飲もうや」


「あ、時間や」

「じゃあ、野外ステージに行くわ」

「うん。ほな、来て」


 僕は同級生のバンドに参加しなければならなかった。

 ベースで5曲、アンコール1曲。汗をかいた。


「瞬、大好き」


 ステージから降りたら琴音に抱き付かれた。


「俺は下手くそやけどね」

「恰好良かったぞ」

「ありがとう」


 僕達は校内を一巡したのではないかと思う。

 楽しい二日間だった。     


 帰り道。


「なあ」

「なんや?」

「お前の進路のことだけど」

「なんなん?」

「大学に行ってくれ。お父様がお前を進学させたいと言っている」

「そこまで面倒見て貰うのは申し訳ない」

「大丈夫だ、交換条件だ」

「何と交換するんだ?」

「卒業したらお父様の会社に入れ、そして私と結婚しろ」

「最高の条件やな」

「だろう?」

「でも申し訳ない」

「だったら私を幸せにしろ」

「え?」

「私が幸せになったらそれでいいだろう?」

「そうやな」

「どうだ? ダメか?」

「ほな、頑張るわ」

「そうこなくっちゃ」



 10年後。



「ママ、バイク、バイク」


 小さな女の子と男の子が庭で遊んでいた。


 2人ともバイクが好きですぐにバイクに近寄っていく。


「はいはい、もっと大きくなったらね」

「僕、大きくなったらバイクに乗る」

「私も」

「パパとママと一緒に走る」

「そうね。仲良く走ろうね」



「チーム名は“てんにょ”だよね?」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大阪からやって来たちょっぴり不良の僕と不良に憧れる令嬢の恋物語 ! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画