第一章
第2話 二年生になった日①
私の長い黒髪は目を程よく隠し、人と視線が合う事を妨げてくれる。
左目の目元にある泣きぼくろは昔からのコンプレックス。理由は目を目立たせてしまうから……。だけど、黒縁の眼鏡を掛ければ上手く隠れる。さらに俯きがちになればカモフラージュは完璧だ。
目立つことがとにかく苦手な私は、いつもこうして影が薄くなるように生活している。
おとなしい性格と言えば聞こえは良いけれど、悪く言うなら陰キャという奴。
コミュニケーションが苦手な典型的地味っ子。それが私の自己評価であり、おそらく周囲からの評価でもあるだろう。
そんな私、
今は始業式前の学校に到着したところ。誰とも目を合わせないようにしながら、私は校門前の掲示板を目指していた。
「……憂鬱だぁ」
新学年の初日ともなれば、重大イベントが待っていることは想像に容易いだろう。
入学式? 始業式? どちらも違う。
私にとって最も重要な春のイベント。それは――クラス替えだ。
掲示板に貼られた新たなクラス表を見れば、私のクラスは二年三組であることが分かった。そして誠に遺憾ながら、私が去年苦労して話せるようになった幾人かの元クラスメイトたちは、軒並み別クラスになっていることも確認できた……。
「また人間関係リセットか~。ボッチ生活リスタートだ……ハァアアア」
思わず大きな溜息を吐いてしまう。
「酷いなモモっち! アタシが居るじゃん!」
油断していると、後ろから私を呼ぶ大きな声が聞こえてきた。
私の事をモモっちなんて親し気な渾名で呼ぶ人間は、この学校に一人しかいない。昨年からのクラスメイト、
どうやら彼女も三組だったらしい。見逃していた。
ちなみに、親し気に呼び合うからと言って仲がいいとは限らない……。
仲が悪いわけでもないけれど。
「あ、あーちゃんさん……同じクラスでしたか」
「えぇ、何その微妙な反応……傷つくよ? あと、毎回言うけど、あーちゃんで良いって! 渾名にさん付けってバランス悪すぎるっしょ! アハハ!」
裏の無さそうな朗らかな笑い。整った顔立ちは男女ともに魅了するだろう可愛らしさを備えている。
ベビーピンクと黒で左右ツートーンに染まったロングストレートの髪は、癖がなく滑らかに流されている。奇抜な色合いだけど、芸能人顔負けな美少女である彼女にはそんな髪色ですら似合ってしまう。
初めて彼女を見た時は、2次元の世界から飛び出してきたのかと思った程だ。
「ちょっとちょっと、アタシの話聞いてる?」
彼女の姿に見惚れていたせいか、話しかけられていたことに気づかず彼女を無視していたらしい。
「す、すみません……」
「こらこら、敬語も止めてって言っているのに。な~んでモモっちは畏まっちゃうのかなぁ。もう一年も一緒のクラスなのに」
「これが私の普通なので……」
スクールカーストの最下位に居る私と、ぶっちぎりの最上位に君臨するだろうあーちゃんのツーショット。これで緊張しない方がどうかしている。
思わず敬語になってしまうのも無理からぬことだと思いたい。
人の視線が苦手な私としては、この子といるだけで否応なく注目を集める今のような状況は正直疲れる。
しかし、コミュ力お化けのあーちゃんの方は人の視線などお構い無し。
そんなわけで、私たちの相性は水と油とまではいかないけれど、しけったマッチとそのマッチ箱ぐらいには悪い。
とはいえ、この私が人を渾名で呼ぶなんて恐れ多いことができているのも、あーちゃんのコミュ力あってこそ。彼女は同学年の誰からも渾名で親しまれている。
彼女自身がそう呼んで欲しいと公言しているのもあるけど、それ以上にみんな彼女の人柄の良さに心を許しているんだと思う。
私の場合は周囲に流されて渾名で呼ばざるを得なくなっているだけなのだけど……。
「まぁ、無理して敬語をやめることも無いけど、気楽に話してもらえると嬉しいかな……。アタシはもっと、モモっちと仲良くなりたいと思ってるから」
彼女は照れくさそうに私から顔を背けてそんなことを言う。
どこまで可愛い人なんだ。これが態とならとんだ人垂らしだ。
「ぜ、善処します……」
そして、私は相変わらずのコミュ障を発揮する自分に悲しくなるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。