第22話 合格祝宴会
「え、エアリスって王女様だったのか!?」
「しーっ、声が大きい」
どこか趣のある個室の中でエアリスの正体を聞いたドラッドが驚きのあまりに大声を出し、それを俺が窘める。
今、俺達は合格祝いのためドラッドの奢りでとある料理屋へと来ていた。
どうやらドラッドは思っていたよりも金を持っているらしく、メニューからしてかなり高級な料理屋である。
「す、すまん。まさかそんなに高位だとは思わなかったんだ……てことはもしかしてシュバルツも結構位が高かったりするのか?」
「俺の父は辺境伯だな」
「たっけえな、おい!」
相も変わらず大声を出して驚くドラッドを無駄であると悟って窘めることもなく、ただその驚く様子を眺める。
「そんな高位貴族達がどうして騎士学科なんて受けてんだ?」
「私はシュバルが受けるからだけど……」
そう言ってエアリスがこちらの方に視線を向ける。まあ騎士学科を受ける理由は話したことないからな。
ただとは言っても本当の理由を語るわけにはいかない。
ドラッド本人がどうであれ、ドラッドの父親が
俺が騎士学科に入学した本当の理由はこの先に起こる
「俺はもう魔法で教わることは無いからだな」
「へえ、お前って魔法も得意なのか。ローグ様みてえだな」
へえ、ここでローグ先生の名前が出てくるのか。まあ剣聖と魔法聖の両方の究極的な称号を与えられているからドラッドが知っていておかしくはないか。
「ドラッド。ローグ先生は私とシュバルの師匠なんだよ」
「はああっ!? マジかよ!? すげえええっ!!!!」
あかん、これ以上大声を出されたらこの料理屋を料理が運ばれてくる前に出禁になっちまいそうだ。
そう思った俺は隠密と空間魔法をかけ合わせた魔法を発動し、俺達の個室全体を覆う。
今適当に掛け合わせてみた魔法だし、これでどのくらい抑えられるのかは分からないが、まあ無いよりはマシだろう。
「お待たせいたしました」
「お、キタキタ」
そうしてようやく待ち侘びた料理が届く。
「こちらから上級赤角牛のヒレ肉ステーキ、上級赤角牛のサーロイン、上級赤角牛のシャトーブリアン、上級赤角牛のタン、中級黄金アワビのバターソテー、上級ワイバーン海老になります」
次から次へと料理が運ばれてくる。中には俺が元居た世界でも聞き馴染みのある様な名前も聞こえてくる。
ちなみに上級とか中級というのは元の世界で言うA5ランクとかA4ランクみたいなもんだ。
基本的に魔物のランクが上がるとその肉や素材は魔力が豊富に含まれており美味しくなるため、料理の等級は魔物のランクによって決まってくる。
それこそ最上級とかになってくるとそれはもうごく一部の金持ちでしか手に入らないレベルらしい。
辺境伯の家に生まれた俺ですら見たことが無いから、まあ普通は上級と名のつく料理が一番上と言っても良い。
「美味しそう~。ホントにこんなの奢ってもらっちゃって良いの? ドラッド」
「大丈夫さ。最初に怖がらせちまったのもあるし」
「本当だぞ、お前。女子にあんな話しかけ方したらナンパにしか思えないぞ。それに奢るとか言って友達を作ろうとしても後で俺達みたいにカモられちまうだけだから止めとけ」
「おう、気を付けるぜ……って俺今カモられてるのか?」
「ギリセーフよ。ギリ」
「ギリセーフか。なら大丈夫ってことだな」
あの時はドラッドが悪者だと思ってたから軽率に奢られたけど、今はちょっとだけ罪悪感が芽生えてくるな。
まあこれから寮生活で基本的には食事も寮で無料提供されるから大丈夫か。
「おいおい見てくれよこのステーキ。ナイフを置いただけで切れやがったぞ」
「美味し~い。お城の料理よりも美味しいかも」
すでに食べ始めている二人を眺めている微笑ましい気分になってくる。これから起こる悲劇への思考をそっと頭の奥底に置き、この時ばかりは俺も本気で楽しむのであった。
――――――――
――――
――
「うん、途中で気が付いてたんだ。明らかに多過ぎるって」
「私もう食べられないよ……」
前半の華々しい雰囲気とは一転した空気が漂っている。互いを尊重し、笑いあったあの時はもう遠い。
今となっては目の前に置かれている油たっぷりの巨大ステーキを誰に押し付けるかで互いをけん制しあっている。
ちなみにエアリスは最早戦力外だ。必然と俺かドラッドが食べることになるだろう。
「ドラッド。俺はこれ以上食べたら腹8分目を超えちまう。これじゃあ気分良く食事が終えられないんだ。分かってくれ」
「8分目くらいだったら食ってくれよ! 俺はもう腹いっぱいで既にグロッキーなんだぜ!?」
「それはお前がエアリスの分まで食ったからだろ」
「……うん、ありがとねドラッド」
「くっ、ここでエアリスを責めるわけにはいかねえ。八方塞がりか。それにこの会は俺が言ったもんだしな」
そう言うとドラッドは勢いよくステーキにかぶりつく。この時間に食べるステーキはいくら極上だとしてもむしろその高級な脂がドラッドの胃袋を追い詰めるのみであろう。
ていうかシャトーブリアンが重すぎた。嘘だろってくらいに。
上級のステーキってこんなに胃もたれするんだなぁ。
「すごいぞドラッド。流石だ」
「ドラッド。あなたならやると思っていたわよ」
「う~、気持ち悪い」
こうして俺達の合格祝宴会は終わりを告げるのであった。
怠惰を貪る悪逆転生~悲劇のラスボスに転生した俺はゲーム知識で破滅ルートをぶっ壊し怠惰ルートを構築する~ 飛鳥カキ @asukakaki
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