第17話 座学の試験

 試験はまず座学から始まる。といってもそれほど難しい問題は無いため、ちゃんと勉強していればだれでも合格点を超えるくらいだ。

 この試験の目的はどちらかと言えば知識の深さを測るのではなく、単純に犯罪者なんかの危険人物を弾くためだけにある様な感じだ。

 まあこれは騎士学科の場合だけで魔法学科の座学試験は普通に勉強していても難しいと聞いた。騎士学科に出てくるような歴史の話ではなく向こうは魔法についての問題が出るらしい。

 だから難しいんだろうなーと既に埋め終わった解答用紙を眺めながらそう考える。


 解き終わってからかれこれ20分は経過している。実技は大丈夫だけど座学については何があるから分からないからと結構力を入れてきたのだが、どうやらやり過ぎだったらしい。

 出てくる問題のすべてが常識問題レベルのものばかりであった。

 特に俺はゲームで既に何千時間もプレイしているため知っている単語も多く、余計にやりやすかったのかもしれない。


「解答やめ!」


 試験官の言葉でようやく座学の試験が終わりを告げる。見た感じ悲壮感を漂わせている受験生は居なさそうだな。

 やっぱり簡単だったみたいだ。こんなもので本当に危険人物とやらを見抜けるのか、甚だ疑問だな。

 試験官が全員分の答案を回収し終えると、次に実技試験の会場へと連れていかれる。


「シュバル、どうだった?」

「できたよ。エアリスは?」

「私もバッチリ! まあとは言っても本番はここからなんだけどね」


 エアリスの言う通り実技試験の点数がこの入学試験の8割を占める。流石に他の人が10割やら9割やらをとっている中で1割程度しか取れていなければ大分差はつくが、まあそんな奴はいな……。


「……よお」

「うわっと!? ビックリした! お前か」


 背後からやたらとテンションの低い声が聞こえてきたと思ったら、朝一にエアリスをナンパしてきたあの男であった。名前は……ドレッドとかだったっけ?

 ていうかこのテンションの低さ……こいつまさか。


「すまねえな。今日の飯奢れそうにねえわ。多分俺落ちたし」

「お前……あの試験で失敗したのか?」


 俺の問いかけにドレッド? いやドランドだったかもしれねえ奴がコクリと頷く。

 エアリスはその男の様子を見て俺の背後に回ろうとした足をピタリと止め、男の方をじっと見つめている。

 あんなに元気だった奴がここまで落ち込んでいるのを見て何だか可哀そうに思っているのだろう。


 俺からすれば正直どうでも良いんだけど。だってこいつ、知らんし。


「実技試験が楽しみ過ぎて何にも頭に入ってこなかったんだ。多分50点も無い……終わった。俺は終わったんだ~!」


 どうでも良いとは言ったが流石にそうまでして嘆いている姿を見ると、朝みたいに空間魔法で姿を消そうとは思わなくなってくるな。


「ま、まあそう気落ちするなよドランドルーク。実技試験が8割あるんだしまだ挽回できるって」

「……ドラッドだ」

「あ、すまねえ。ドラッド」


 どうやら無駄に傷付けてしまったらしい。どうしよう。試験前にこうも知らない男に泣きつかれるの気まずいというか居ずらいというか面倒くさいというか早くどっか行ってほしいというか……。


「気持ち悪いっていうか」

「シュバル。声出てる」

「あ、やべ」


 心の声があふれ出すあまりについ口に出してしまったようである。まあでもドラッドの雰囲気的に多分それどころじゃなくて聞こえてないみたいだしセーフだな。


「……俺はここで散る。なんか色々すまなかったな。また会おう」


 そう言ってトボトボとどこかへと歩いていく。今思えば最初のあれ、ナンパしたかったんじゃなくてただ入学前に友達が欲しかっただけなのかもしれないなとドラッドの背中を見て思う。

 もしもそうだったら名乗りもせずにただ変な奴扱いしたのは大分可哀想なことをしたかもしれない……いや、変な奴ではあるから別にいいのか。


「なんだか可哀想だったね」

「だな。まあでも多分悲観し過ぎだと思うけどな。ほとんど実技で決まるんだし」


 歴史の問題の途中にあった性格診断のような問題。あれで人間性をはかっているだろうから、そこさえ正解していれば点数が低すぎて足切りされることは無い。

 それでも50点無いとなると、実力が圧倒的でなければ合格は無理だろうが。


「それではこれより実技試験を始める。自分の番号が呼ばれた者はこちらの10個のカプセル部屋のうちの一つに入り、中に描かれている魔法陣の上に乗ってくれ。その先では強さに応じて点数が割り振られている試験魔物が居る。実技試験ではその合計点を競ってもらう。中で危険な状態となったら強制的にこちらへ送還されるため命の危険はない。安心して挑んでくれ」


 最初の試験官の人とは打って変わって厳しそうな試験官がそう告げると、番号が呼ばれていく。

 

「あ、さっきの人だ」


 エアリスの言葉でドラッドが試験部屋の中に入っていくのに気が付く。

 まだまだ気持ちが切り換えられていないらしく、遠くから見ても肩が下がり、トボトボとした足取りで部屋の中に入っていく。


「エアリスは何番目くらいだ?」

「呼ばれるとしたら次の次くらいかな~。その前に体を温めておかないと」


 そう言ってエアリスはその場で柔軟体操を始める。

 俺もその隣で肩を回したり、足を延ばしたりして呼ばれる時を待つのであった。

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