第18話 史上最高得点

 続々と部屋から受験生たちが出されて実技試験の点数が表示されていく。どうやら点数は開示形式のようである。

 40点、50点、おっこの人はちょっと高くて80点か。


「どのくらいから合格なんだろ」

「知らないの? シュバル。合格者平均が大体120点くらいらしいから多分100点前後じゃないかな?」

「100点前後か」


 じゃあ80点を高いと思ったってことは今までの人たちは軒並み落ちる人達ってことか。

 実技試験の点数が8割を占めるこの受験において実質これが最終点数みたいなもんだもんな。

 自分の番が終わっても他の人の点数をジッと見守る人が多い。ただ望みがない人達は最早俯いて他の人の点数も見ようとしない。


「そういえばドラッドって人、まだ出てきてないね」

「……ホントじゃん」


 ドラッドは一番最初に部屋の中へ入ったはず。そこから二回くらい生徒たちが入れ替わったはず。

 相当点数高いな、あいつ。


「あながち史上最強の天才っていうのは間違ってなかったみたいだな」

「ね。まあ天才っていう割には座学が出来ないけど」

「まあな。っとそういえばそろそろエアリスの番じゃないか?」

「そうだね。ちゃんと準備しないと」


 そう言ってエアリスは持っていた剣を係員に預けて模造剣を受け取って戻ってくる。


「……と34番は前へ」

「じゃ行ってくるね」

「おう」


 戻ってきたときにちょうど番号が呼ばれエアリスが試験部屋へと向かう。

 俺は170番だしまだまだだけど、一応もう模造剣に替えておくか。


「すみません。試験用の剣を頂きたいのですが」

「170番の方ですね。どうぞ。あとそちらの剣もお預かりいたしますね。受け取る際には受験番号をお伝えしていただければ大丈夫ですので」

「ありがとうございます」


 模造剣を振ってみる。やっぱり普通の模造剣よりは重いな。

 多分何かしらの魔物の素材で作っているんだろう。それこそ普通に怪我できる程度には威力も出そう。

 ただとにかく切れ味は全くないな。魔物を狩るためだけの打撃武器みたいになりそうだ。


 しかし試験魔物とはいえ魔物を相手するのにどうして真剣じゃダメなんだろうな?

 そこはちょっと疑問だよな。


 そんな事を考えていると、周囲が少し騒がしくなっていることに気が付く。


「1853点だと?」

「4桁でも凄いのに何その出鱈目な数字? それに見たことない人だし」

「今までの最高点数が2000点程度って考えると、今年はあいつが首席で間違いないな」


 10個あるカプセル型の試験部屋の中央のスクリーン。そこに表示されている数字は他とは一線を画する1853点という数字である。

 そしてその扉から出てきたのはあの赤髪の男、ドラッドであった。

 1853点というとんでもない成績をたたき出したドラッドは当然の事ながら周囲から異常なほどに注目を集める。

 しかし当の本人は納得していないのか首を傾げながら試験部屋を後にする。


 4桁の点数をたたき出したのはドラッドが初だな。合格者平均が120点ってことを考えるとあいつが落ちるという事はまずないだろう。

 何をそんなに不満そうな顔をしているのか。相変わらず思考回路が謎な奴である……ってこっち来てるな。

 今度はこっちから話しかけるか。


「よっ、ドラッド。合格できそうな点数で良かったじゃないか」

「あ、えーと……そう言えば名前を聞いてないよな?」


 うん、そういやそうだった。


「シュバルツだ」

「シュバルツか。おっけー覚えとく」


 そう告げるドラッドは流石に実技試験前よりは落ち込んではいないもののどこか浮かない顔をしたままである。


「いやー、もうちょっと実技試験の点数伸ばせたな~。最後油断しちまったぜ」

「いや十分すぎる点数だし別に気にしなくていいだろ」

「気にするぜ? 本当は2000点は越せたんだ。あーあ、これで歴代最高得点をたたき出した史上最強の天才っていう称号が俺の中から消え去っちまったぜ」


 どうやら心配は必要ないみたいである。まあでも歴代最高得点をたたき出したっていう称号が欲しいってのは分かるかもしれないな。

 だってその称号が取れるのはどれだけ高名な魔導士や騎士であってもこの機会でなければ取ることができないから。チャンスはまさに一回きりなのである。


「そういえばあの美人はどこ行ったんだ?」

「ん? あー、今ちょうど試験部屋の中だ」


 エアリスもドラッドと同様かなり長い時間、部屋の中に入っている。

 あの強さだったらドラッドと並ぶかそれ以上くらいの点数はたたき出してもおかしくない。


「シュバルツとあの子ってどういう関係なんだ?」

「ただの幼馴染だな」

「じゃあ誰かがあの子を貰うって言ったら?」

「そいつの息の根を止める」

「……本当にただの幼馴染なのか?」

「ああ」


 ただの幼馴染……そう言われるとあまりピンとこない。普通の幼馴染に比べたら大分距離は近いだろうし。

 かといってその関係に幼馴染以外の他の呼び名は無いしな。


「てかあの子出てくるの遅くないか?」

「そりゃあな。エアリスは強いから」

「へえ、エアリスって言うのか……なんか聞いたことあるな。んで、強えんだな」

「ああ。多分4桁は余裕で超えると思うぞ」

「そんなにか!? 結果が楽しみだぜ」

「だな」


 それから待てど暮らせどエアリスが出てくる様子は一向に見えない。そして呼ばれる受験番号が俺に近くなったところでようやくエアリスの試験部屋の扉が開く。

 そしてそこに表示されている点数は試験会場が静まり返るほどに衝撃的なものであった。


「よ、よんせん……はちじゅうなな?」


 4087……その数値はこれまでの歴史で最も高い数値のほぼ二倍。その史上最高得点とはもちろん魔法学科を含めて、である。

 王立学園を卒業してきた数々の偉人達、それこそリンゼルハイム王国の十三騎士団の団長クラスの人たちをも上回っているその数値はまさに規格外といえる。

 ゲームの時はこんな設定ではなかったはず。多分、ローグ先生に教えを受けたせいだろう。

 誰しもが驚くであろうその数値を一人興味深げに眺めた後、エアリスはこちらへと戻ってくる。


「シュバル~……ゲッ、その人と一緒だったの?」

「明らかに嫌そうな顔してやるな。学園での同期だろ?」

「だっていきなりナンパしてきたんだもん」


 そう言ってエアリスが俺の腕を持ち、背後に隠れる。

 そんなあからさまな態度を出されたというのにドラッドはむしろ笑顔でエアリスの方を向く。


「強いんだな! 尊敬するぜ!」

「あ、ありがとう……ございます」


 エアリスはいまだにドラッドの事が怖いようである。不味いな、これから俺試験だっていうのにエアリスの腕を掴む力がどんどん強くなっていく。


「あ、すまない。少し興奮しすぎて怖がらせてしまったか?」

「いやそもそも最初のナンパで怖がってんだよ」

「ナンパ? あー、確かに見方によればそう見えてしまうか。すまない、悪気はなかったんだ」


 やっぱりナンパのつもりじゃなかったんだ。あれで?

 でもその説明のお陰でエアリスの腕を掴む力が若干弱まった気がする。よしよし、取り敢えず安心だな。


「……170番、前へ」


 そこで俺の受験番号が呼ばれる。


「エアリス、行ってくるよ」

「……うん。早く帰ってきてね」

「シュバルツ! がんばれ! お前なら合格できるぞ!」


 お前ならって言うほどまだ関わりないだろ、と心の中で突っ込みを入れながら俺は試験部屋へと向かうのであった。

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