第12話 アクシデント

 あれから数年が経過し、ようやく待ちに待った15歳となった。何故俺がこの年齢を待ちに待っていたかというと、とあるイベントが起こるからである。


「シュバルツももう入学試験を受ける年齢になったか。だが本当に良かったのか? 魔術学科の方ではなく騎士学科の方で」

「はい! 大丈夫です! ちゃんと勉強してきましたので!」

「いや合否じゃなくてだな。あれだけ魔法を頑張っていたのに騎士学科の方でいいのかって意味で聞いたんだ」

「それも問題ないですよ、父上。ちゃんと騎士学科に入りたくて言ってますから」


 俺が今から入学試験を王都にある学園、リンゼルハイム王立学園。リンゼルハイム王国で最も権威があるとされるその学園では魔法学科と騎士学科の二つの学科が存在する。

 ゲームでは主人公は魔法学科に入学し、成長していくというストーリーから始まる。そしてゲームの中ではこの俺、シュバルツも魔法学科に入学していた。

 貴族はどちらかと言えば魔法学科に入るのが普通とされており、シュバルツもそれに流されたって感じだろう。

 ただ、あの時のシュバルツは本当に弱くてどうやって入ったのか不思議だったけど。もしかして裏口入学か?

 何にせよ、最初の内は何も目立つわけではないのに謎にストーリー上に出てくる弱い奴って感じだった。


 そして今回俺が何故逆の選択肢を選ぶのかというと、単純にその選択によってどのような物語の展開を見せるのかが見てみたいからというだけではない。

 騎士学科には平民と呼ばれる、いわゆる貴族以外の学生が大半だ。もしかすれば俺以外全員そうかもしれない。

 そいつらと仲良くなっておくことが俺の破滅ルート回避のとなるだろうという予測である。

 そして何より魔法学科に行くことによってシュバルツを悪逆の道へと引き入れる張本人である邪神と出会う可能性が非常に高いってのもある。


「それじゃあ気を付けてな」

「気を付けてね、シュバルツ。あ、あとローグさんにもよろしく伝えておいてね」

「承知しました! 行ってまいります! 父上! 母上! それと皆さん!」


 俺は父上と母上の他、コアラさんや執事のセバスさんに向けて別れの挨拶をすると馬車に乗り込む。

 実はローグ先生は既に1年ほど前に「あなたに教えることはもありません。用事が出きましたので私は一度王都に戻ります」って言って王都に行ってしまっていた。

 そのため、俺も会うのは1年ぶりとなる。さっき伝達魔法で『出迎えますぞ』っていう連絡が来ていた。会うの楽しみだな~。


 そんな折、またもや伝達魔法を受け取る。


『シュバル、当日会場で落ち合お』


 俺の事をシュバルと呼ぶのはこの世で一人しか居ない。そう、エアリスである。

 実はあの後も何度か国王一家が家に遊びに来ることがあったため、その際にエアリスにも伝達魔法を教えていたのだ。

 手紙じゃなくてこっちの方が便利だろう、という意味で教えたのだが、エアリスはやはり原作同様めちゃくちゃ優秀ですぐにマスターしていた。

 それからというものこうしてたま~にやり取りをしているのだ。


『でもエアリスは魔法学科だろ? 多分試験を受ける場所が違うんじゃないか? 騎士学科は騎士学舎の方で受けるし』


 リンゼルハイム王立学園では魔法学舎と騎士学舎が隣接している。ただ、どちらの学舎も大きく、敷地面積も広いため受験中に行き来するのは困難であろう。


『え、私も騎士学科だよ?』


 そしてとんでもなく予想外の意見が飛んできて俺は驚く。え、あれ? エアリスって確か原作では魔法学科だったし、前に話した時も魔法学科に入るって言ってた気がするんだけど。


『そうなのか? 前、魔法学科に入るとか言ってなかった?』

『言ってたけど、シュバルが騎士学科に入るって言ってたから変えたの』


 まさかの嬉しい誤算である。エアリスもこっちに来ないかななんて思っていたけど、本人の意向を無視するのは良くないと思ってその思いを全く出してこなかったのに。


『なるほど。それなら明日の朝、騎士学舎の前で待ち合わせをしよう』

『うん分かった……あ、でもシュバルって今日宿に泊まるんだよね? だったらそっちで待ち合わせしようよ。そっちの方が見つけやすいし』

『いやいや、王女様が街を歩いてたら危険だろ』

『大丈夫だよ。こう見えて、私強いんだから』


 それは知ってるけど、何て少しはにかむ。今の俺の姿を見れば誰もがひとりでに笑っている変人に見えることだろう。

 だが、この馬車は俺しか乗っていない。残念だったな!


『――ってとこの宿屋に泊まってるから』

『オッケー。じゃあ明日そこで待ち合わせね。バイバーイ』


 そうして伝達魔法が切れる。この魔法、俺の世界にあった電話より便利だな。携帯持っていくの忘れたとか絶対ならないし。

 そんなことをぼんやりと考えていると、突然俺の乗っている馬車が急停止し、前に突っ伏してしまう。


 痛って~、何だなんだ?


 そう思っていると前の方から少し話声が聞こえたと思ったら、馬車を運転してくれている御者さんが話しかけてくる。


「お客様、すみません。どうやらこの先に魔物が出たみたいでして……迂回する必要があるのですが」

「魔物か……仕方ありませんね。迂回したらどれくらいかかります?」

「大橋を渡れないとなるとざっと程度ですかね」

!?」


 それは困る。試験が受けられないじゃないか。ていうか原作にもこんなシナリオあったのか? もしやこのアクシデントがあったから原作では何の力も持たないシュバルツが、情けとして入れてもらえたのかもしれない。

 いや、確信はないし、それを試すつもりもない。


「ちょっと待っててもらえます?」

「はい? お客様、どこに行かれるのですか?」

「交渉してきます」

「え、ちょっと!?」


 御者さんが驚いているのをそのままに俺は馬車を降り、前方に見える人だかりへと向かう。

 どの人も武装している。多分、魔物を狩ることを生業としている冒険者という人達だろう。

 御者さんはその人達に迂回するよう頼まれたのだと思う。

 そのうちの手前に居る女性へ話しかける。


「すみません。ここを通りたいのですが」

「申し訳ありませんが、この先の大橋で上級の魔物が出現しました。現在、冒険者ギルド総出で対処していますので迂回していただきたいと思います」

「ここで待つとすればどれくらいかかりそうですかね?」

「上級の魔物ですから……一週間程度でしょうか?」


 あ、やっぱどっちの選択肢も駄目だな。それにしても上級の魔物がこんな所に現れるとは珍しい。そしてツイていない。


「あ、じゃあ俺が今から倒してきますので通してくれませんか?」

「え、いやちょっと勝手に行かないでください! 上級ですよ!? 死にますよ!?」


 勝手に奥へ進もうとする俺の肩をその人がつかもうとする。しかし、俺は空間魔法を使い、少し先へ転移してそれを回避する。


「え、今の何?」


 後ろの方で女性が驚く声が聞こえるが無視して俺はズカズカと奥に入っていく。


「ちょっと待ちな。坊ちゃん」


 次に話しかけてきたのは筋骨隆々のおじさんだ。体中に負っている古傷からこの業界に何年も居たことが伺える。

 ベテラン冒険者ってところだろう。


「少し腕が立つからって調子に乗るもんじゃねえぞ。見た感じどっかの貴族のお坊ちゃんみてぇだが。屋敷でちやほやされても実戦じゃそんなもんは役に立たねえ。俺達の業界じゃ、調子に乗ったルーキーが一番最初に死ぬんだ」


 ちょっと言い方は荒々しいが、世間知らずの貴族の息子を死なせない様に諭しているところを見るに良い人ではあるのだろう。


「大丈夫です。なら何度も倒したことがありますので」

「は? あれ? どこに行った?」


 俺はまたもや転移してベテラン冒険者の前から姿を消し、更に奥の方へと進んでいく。

 そうして大橋の前へ立つと、遠くの方に大きな魔物の姿とそれに応戦している者の姿が見える。


「あれはコカトリスか」


 俺はそう呟くと、自分のステータスを確認する。


【シュバルツ・エインハルト:レベル5 体力:8000 筋力:8010 魔力:8905 魔力量:9990】


 うん、筋力上げのために物理で戦うか。

 俺は大橋の上を一気に走っていく。


「子供!?」

「え!? ちょっと君危ない!」

「転移」


 そう呟いた瞬間、俺の姿はコカトリスの眼前に現れる。コカトリスもまだ気が付いていない。ここを叩く。


「せい!」


 全力の拳を打ち放った次の瞬間、コカトリスの全身が弾け飛ぶ。

 そして次の瞬間、体内に経験値が入ってくる感覚により、コカトリスが死んだことを理解する。

 てか拳じゃなくて剣で倒せばよかった。めちゃくちゃ返り血で汚れたんですけど。


洗浄魔法クリーン


 俺は返り血で汚れた服を魔法で綺麗にする。よし、これで万事オッケーだ。


「これでこの大橋を通っても良いんですよね?」

 

 その俺の問いかけに答える者は誰も居ない。皆してポカーンとこちらを見ている。


「え、上級の魔物が一瞬で消し飛んだんだけど」

「私達の今までの努力って……」

「有名な冒険者? A級とかの」


 誰も返事をしてくれないの結構ダメージ来るんですけど! まあいいや。多分もう通っても良いよな?


「取り敢えずこの大橋通りますからねー!」


 そう言うと俺は馬車の方へと戻っていくのであった。

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