第11話 レベル上げ

 エアリスとの初対面から数年が経ち、俺は今10歳になっていた。そしてこの年齢までに育てたステータスは以下の通りである。


【シュバルツ・エインハルト:レベル1 体力:1998 筋力:1998 魔力:1998 魔力量:1998】


 何とステータスはゲーム上では999で頭打ちとなっていたのに、この世界では1998で頭打ちとなったのである。

 これは多分、ローグ先生という絶大な力を持つ師匠を持っていたかどうかにかかっているのだと思われる。理由としてはローグ先生に師事した後すぐに超えられなかった999という数値を超えられたからである。

 もしかしたらゲームの隠し要素でローグ先生に師事するというストーリーがあったのかもしれないな……いや、それは無いか。

 

 というか最近、この世界での生活に慣れ過ぎて元の世界での記憶が薄れつつある。俺という意識が徐々にシュバルツと同化してきたのかもしれない。

 シュバルツ、と自分の事を呼ぶのも最近違和感を覚えるようになってきたくらいだ。


「それはそうとそろそろレベルを上げたいな」


 ステータスが頭打ちになればこれ以上訓練をしても無駄になってしまう。現にステータスが1998になってからどれだけ訓練をしようと全く伸びなくなってしまった。


「一回ローグ先生に言ってみるか」


 レベルを上げるのに必要となってくるのは“魔物等との戦闘”である。何故わざわざ“等”と付けたのかは人間との戦闘でも経験値が入る場合があるからである。

 ま、そんなことはめったに起こらんだろうしあんまり考えなくて良いな。取り敢えずローグ先生に頼みに行こう。


「ローグ先生~」

「ふむ、どうしましたかな。坊ちゃま」

「そろそろレベル上げしたいんですよ」


 思い立ったが吉日。すぐさまローグ先生がいる場所へと行くと単刀直入にそう告げる。突然こんな事を言ったら驚かせるかななんて思っていたが、返ってきた反応は予想外のものであった。

 

「ほう、それは奇遇ですな。ちょうどそうしようと思っていたところだったのです」

「え、そうなんですか!?」

「はい。坊ちゃまのステータスが全く上がらなくなったのを見てそろそろではないかと思っておりました」


 流石は剣聖と魔法聖という二つの偉大な称号を与えられた英雄である。ゲームシステムの理解からではなく経験から来る感覚だけでそれを理解していたとは。


「ただ問題なのは坊ちゃまのステータスですとある程度経験値を溜めなければレベルが上がりませんからね。狩場に困っていたのですよ」


 そう。実はこの世界ではそのレベルでのステータスを上げ過ぎるとその分、レベルアップに必要な経験値が膨れ上がっていくのである。

 例えばステータスが全て5の奴がレベルアップに必要な経験値が10だとすれば、ステータスが全て50の奴はレベルアップに100必要になってくる。


 これはあくまで一例で必ずしもステータスが10倍になれば経験値が10倍になるわけではない。


 そして経験値が表示されていない今、俺はどれくらいの経験値を稼げばレベル2に上がれるのかが分からないのである。


「あ、狩場なら本を読んで知ってるんで大丈夫ですよ」


 狩場ならゲームで散々荒らしてきたから大体把握している。低レベル向けの狩場はしかあるまい。

 ただ俺一人では外出できないからこうしてローグ先生に頼っているのである。


「ほうほう、ご存じでございましたか。では早速カイル殿とリリス殿に伝えてから参りましょうか」

「はい!」



 ――――――

 ――――

 ――



「ここですか? 一見ただのデスホーネットの巣にしか見えませんが」


 俺とローグ先生は今、一本の木ぐらい大きな魔物の巣の前に居た。この魔物の巣はローグ先生の言う様にデスホーネットの巣、まあいわゆるでっけえ蜂の魔物の巣だな。

 魔物には強さによって位があって下から順に下級→中級→上級→最上級とある。また、最上級の中にもランク分けされており、下から順に国家級→災害級→災厄級→滅亡級→絶望級となる。

 そしてデスホーネットの位は下級。魔物の中では最底辺に位置する魔物である。


「これでは十分な経験値は得られない様に思うのですが?」

「はい、その通りです。なら」


 俺は知っている。このデスホーネット達はこの状態では下級魔物程度の力しか持たない。

 魔物の中で最も群れを成す個体数が多いが、このまま倒すだけでは群れ全てを倒しても碌な経験値は得られないであろう。

 しかし、デスホーネットは特別な条件において著しくその討伐難易度を上げる。


 それは、“巣を木から切り落とす事”。


「見ていてくださいね」


 そう言うと俺は風魔法で作り出した風の刃を放ち、デスホーネットの巣を根元から切り落とす。

 デスホーネットの巣は結構硬いからいけるかは怪しかったが、まあなんとかいったな。


 案の定、元の色よりもさらに赤くなっていき、暴れはじめるデスホーネット。外敵から自分たちの巣を守るために一回りも二回りも強くなるのだ。

 そこを俺は得意の空間魔法で瞬時に作り出した透明な結界で巣から出ているデスホーネットごと巣全体を世界から隔離する。


 これで俺達の前には透明な空間に閉じ込められたデスホーネット達の群れが出来上がるわけだ。


「後はこうするだけです」


 空間魔法によって作り出した透明な箱の中に火魔法を放ち、一気に炎上させる。そして中に居たデスホーネット達を駆逐していく。

 そうして生み出された膨大な経験値がどんどん体の中に入ってくるのが分かる。やがて入ってくる経験値が無くなったなと感じたら空間魔法を解く。


「どうです? これなら十分、経験値が手に入るでしょ?」

「ほっほっほ、お見事でございます。坊ちゃま。魔物を倒す最初の頃は命を奪う事に躊躇いを覚えることが多いと言いますのに。そこまで慣れた手つきで完遂するのは初めて見ましたな。もしや誰かの生まれ変わりか何かなのでしょうか?」


 ギクゥッ!? 冗談だろうけど中々に確信を突いてくるではないか。

 まあ、魔物を倒しても罪悪感が無いのは元々現実に近いゲームの中で散々狩りまくっていたってのもあるが、一番はこの世界でこいつらがどれだけ惨いことを人間にしているのかを知っているからだな。

 後者に関しては父の書斎から得た知識だけど。デスホーネットは生きた人間を特製の毒液をもって生きたまま丸めて団子にし、幼虫に食わせたりするらしい。

 本当かどうかは分からないが話によれば、毒液がかなり特殊なものらしく、幼虫に食われる時まで意識があるらしい。

 

 この話を聞いた時はゾッとしたよホントに。


「レベルを上げるにはまだまだ経験値が必要みたいですな。今日はレベルが上がるまで帰りませんぞ」

「はい!」


 そうして俺はデスホーネットの巣を見つけては怒らせて狩るという行為を続けるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る