第9話 遊びの後
「またねー」
散々遊んだ後、俺はエアリスを客室の子供部屋の方へと案内し、別れる。かれこれ2、3時間は遊んだだろうか。
だが俺の体力はまだまだ漲っている。その体力の発散は……そう訓練である。
実はこの後、ローグ先生による訓練がある。先生くらいの人になれば多分、国王様と父に呼ばれているはずだが、今しがた伝達魔法によって空いていると返事があった。
因みにこの伝達魔法もローグ先生が生み出したオリジナルの魔法である。
一応教えたら誰でも使えるようになるらしい(まあじゃないと意味ないしな)。ならエアリスに教えるか?
アリだな。今後のエアリスの動向こそ俺の破滅ルートに一番関わってくると言っても過言ではないからな。
「ローグ先生ー!」
「ようやく来られましたか。さっそく始めますかな、坊ちゃま」
そう言って俺を見るローグ先生の眼差しは一段と鋭い眼差しだ。あぁ、今日も今日とて鬼訓練だぜ。
「本日のメニューは私との実践訓練からです。私から二本とれるまで終われませんよ」
「二本ッ!?」
「一応私は魔力を使いませんので。これくらいしてもらわないと困りますぞ」
一応魔力は使わないでいてくれるみたいだけど……二本てなんやねん!
こちとら前ようやく先生の服を掠めただけで一本をクリアしたばかりだっていうのに。
「私の体に触れられれば一本にしますから。どうですか? 簡単でしょう」
「そんな訳ないですよ先生~」
「つべこべ言わず始めてください」
仕方ない。こうなったローグ先生の意見を曲げることは出来ないし。
それにいくら無茶ぶりが好きなローグ先生といえど不可能なことは絶対に言ってこない。
そのため、絶対にできると思って言っているのだろう。その期待を下回りたくない、ってのもある。
「それじゃあ行きますよ」
「はい。どこからでも」
それを合図に俺は駆け出す。斬り込む時は一気に重心を前にして一刀両断するつもりで。
寸前のところまで来てもローグ先生が動き出す気配は無い。
これはいつもの事だ。ほとんど予備動作もなく凄まじい力を発するのが先生なのである。
現に俺の姿を目で追えていることからいつでも叩き潰せるのだぞという威圧を感じる。
こちらも意表を突こうと最近使えるようになったばかりの空間魔法を使い、姿を消す。
そして次の瞬間、ローグ先生の背後に現れる。
まだ思い描いた座標に転移する事はできず、近距離でしか移動できないが、それでも戦闘となれば絶大な威力を発する。
まあ魔力消費は激しいけど。
何にせよこれで一本……。
「甘いですなぁ坊ちゃま」
確信した一本。しかしそれは稀代の剣聖の前では無に帰する……って。
「先生、今魔力使いましたよね?」
「ま、魔法じゃないからセーフですぞ」
「魔法じゃなくてそもそも魔力を使わないって言ってましたよ!」
「いやだってあんな魔法を使えるようになっているとは知りませんでしたしな」
「いーや、今のは一本ですからね!」
そして少し負けず嫌いな師匠と俺の訓練はその日中ずっと行われるのであった。
♢
「まったくローグが魔法以外の事で住み込んでまでのめり込むとは珍しいな」
「本当ですな。最初は面白半分で頼んでみたはいいもののまさか住み込んでまで手ほどきをしてくれるとは思いませんでした」
「はっはっは、将来有望だな」
国王家族には一人一室の客室が設けられていた。その一室でエインハルト家当主のカイルとアトラス国王が二人で酒を酌み交わし話し合っていた。
「あ奴も現役を引退した身だ。余生の楽しみを一つ見つけたのだろう」
「余生と言えどあの爺さんならあと数百年は生きそうですがな」
「違いないな。はっはっはっは!」
学園からの馴染みゆえに砕けた会話で盛り上がる二人。
「それで私はいつくらいにまた王都へ戻らないといけなくなりそうですか?」
「うむ……そうだな。最近は特に貴族のいざこざとやらもなさそうだし、魔物被害もこれといって多くない。しばらくはここでまた辺境の防備を続けてもらいたいところだな」
「それはよかったです。まだまだ息子との交流がまったくですのでこの機会に、と思いましてな。あ、もちろんちゃんと防衛はしますぞ?」
「分かっとるわ。お前は昔から優秀だからな。その点は買ってるよ」
ぐいっと酒を呷りながらアトラス国王はそう言う。それからは互いの学生時代の話に切り替わり、その晩は終始盛り上がり続けるのであった。
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