第8話 来訪者
「わざわざお忍びでこんな僻地までお越しいただきありがとうございます陛下。大したもてなしは出来ませんがご容赦ください」
「私と君の仲ではないか。此度はせっかく家族も連れてきたのだ。そんな堅苦しい挨拶は抜きにして語り合おうぞ」
今、俺は父と母の隣に並んでこの国、リンゼルハイム王国の国王陛下アトラス・リンゼルハイムと対面していた。国王陛下の隣には物語でも散々見たあの少女の姿もある。
確か第1王女とかだったかな。一途として知られているアトラス国王陛下唯一の娘だったはずだ。
「お初にお目にかかります、リンゼルハイム国王陛下。私はシュバルツ・エインハルトと申します」
「ほう、カイルよ。中々教育が行き届いているではないか。シュバルツと言うのだな? 良い名だ。歳はいくつかな?」
「ありがとうございます。今年七歳になります」
失礼が無いように俺の最大限の挨拶をする。こんな所で無礼なとか言われて首を刎ねられたら破滅ルートを回避するためにしてきた今までの積み重ねが無に帰しちまうからな。
まあでも見た感じ父と国王陛下は昔からの仲良しみたいな感じだし、そんな危険性は無いのか。
「どれ、エアリスよ。同い年の子だ。挨拶してあげなさい」
「はいもちろんです! 初めまして! エアリス・リンゼルハイムです。私も今年七歳になりました。よろしくお願いします」
エアリス王女は快活な声で自己紹介する。エアリス、この名前を聞いてピンときた人は多いのではないだろうか。
そう、ゲームの題名と同じ名前なのである。この少女が主軸となって話が進んでいくのである。
主人公と同じくらい主要なキャラクターである上に見た目が凄まじく可愛いためキャラ人気がすこぶる高かった。
ただ残念なことにゲーム上ではシュバルツの幼馴染であるため、主人公と恋仲とかそういう話になる事は無く、多くのユーザーから悲しみの声が上がっていた。
……あれ? シュバルツって今俺じゃん? もしかしてあれだけのゲーマーが夢見たエアリスとの幼馴染って枠が俺になるって事か!?
「は、初めまして! しゅ、しゅばるッ!」
やべー、長年の夢過ぎて緊張してすんごい噛み方したんだけど。人は第一印象が一番大事って言うじゃねえか。何してんだ俺は。
「シュバル?」
「はっはっは!! 私への挨拶よりも娘への挨拶の方が緊張するとはな!!」
「まったくですな!」
恥ずかしい。このままもう一度言うか? それともこのまま押し黙るか?
考えあぐねているとスッと目の前に可愛らしい小さな手が伸びてくる。
「よろしくね! シュバル!」
最早俺の名前は「シュバル」になってしまったらしい。いや多分向こうも分かっていて面白がっているだけだろう。
「よろしく、エアリス」
俺はちょっと恥ずかしさもありながら伸びてきた手を握る。そして互いに目を合わせてにっこりと笑う。
「うむうむ。二人とも相性がよさそうで何よりだ。なあ、ソフィアよ」
「そうですね。特にエアリスは人見知りが激しいですので同年代の子が居て良かったです」
「だな。カイル、こっちには少し長い間居させてもらいたいのだが」
「問題ありませんよ。と、長々と立ち話もなんですのでこちらへ」
「うむ。話したいことも色々とあるからな。エアリスはシュバルツ君と遊んでおいで」
「うん!」
「シュバルツ、屋敷の中をご案内してあげてくれるかい?」
「もちろんです!」
そう言うと父達は屋敷の奥の方へと歩いていく。案内と言ってもどこに案内すれば良いだろうか?
特に楽しいところとかは無いけど。
「エアリス、どこで遊びたい?」
「うーん、お外かな~」
「よし分かった」
それなら中庭がピッタリだ。そう判断した俺は近くに居た屋敷の使用人であるコアラさんに中庭へ行く旨を告げ、外に出るのであった。
♢
俺の家、エインハルト家の中庭は大貴族の屋敷だからかかなり広い。多分、十人くらいでかくれんぼをしたらいずれ鬼の子が泣き出してしまうだろうくらいにはだだっ広い。
その庭の中で特に俺が気に入っているのは辺りいっぱいに広がる花畑だ。
「うわ~、きれ~」
「だろう? 屋敷の中でここが一番好きな場所なんだ」
そう言うと俺はエアリスと共に花畑の真ん中にあるベンチへ腰掛ける。
ここで何をするわけでもない。ただボーっと花を眺めているだけで心が落ち着いていく。
「あっ、この花好きなんだよ!」
そう言うとエアリスが近くに咲いている赤い花を指さす。何か見覚えがあるようなないような。
「花かんむりでも作る?」
「うん!」
それから二人して好きな花を集めてきて、各々のアクセサリを作っていく。
エアリスは赤い花かんむりを、俺は青い花のブレスレットをそれぞれ身に着ける。
「可愛い!」
「エアリスのも可愛いよ」
二人して自分たちの作った花のアクセサリを褒め合う。俺はちょっとだけ魔法を使ってずるをしたが、エアリスは本当に器用で子供が作ったにしては豪華な花かんむりを作っていた。
それからというものそれぞれが作った花のアクセサリを見せ合ったり、中庭を散歩したりして時間を潰すのであった。
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