第7話 新しい事実

「一先ず今日の剣術はこれくらいにしておきますか」

「はい」


 あれから何度剣を弾き飛ばされたか分からない。最早剣を握る事すら億劫なほどに手がジーンと鈍い痛みで包まれている。

 しかし不思議なことに体自体はあまり疲弊していない。それはローグ先生が回復系の魔法を使えるからである。

 体が疲弊しては回復魔法をかけられて、また疲弊しては回復魔法をかけられての繰り返し。

 この無限ループによって恐ろしいことに理論上、永久に訓練をすることが可能となる。そしてこの人はゆくゆくそんなことをしそうであると今日が初対面であるというのにもかかわらず想像できてしまうのがまた怖いところだ。


「次は魔法ですな。とはいってもお聞きした話によればシュバルツ殿は既にかなり魔法の訓練を積まれているとか」

「はい。一応、魔力と魔力量は999あります」

「ほほう、そのご年齢で999あるというのは聞いた事がありませぬな。これは教えがいがあるというもの」


 そう言ってまたもやあの笑みを浮かべるローグ先生。あの、怖いんですけど。


「お、お手柔らかにお願いしますね?」

「はて? 何とおっしゃったのか聞こえませんでしたな。もう年齢も年齢ですので耳が少し悪くてですね」


 どうやら許されなかったらしい。


「……厳しくご指導よろしくお願いします」

「もちろんですとも」


 そうして魔法に関しても厳しい訓練が始まるのであった。





 ローグ先生から教わること数週間、俺は自室でステータスを確認してとんでもないことに気が付く。


「あれ? 何か限界突破してんだけど」


【シュバルツ・エインハルト:レベル1 体力:200 筋力:250 魔力:1050 魔力量:1200】


 ゲームではレベル1なら上限は999までだったし何ならこっちに来てからもどれだけ訓練をしようが999より上をいく事は無かった。

 もしかしてローグ先生が魔力回復とかしてくれるお陰で無理やり上限突破しているのか? だとしたら明らかにローグ先生の影響がでかすぎる。

 そして体力と筋力はローグ先生の指導のお陰で数週間で50からこれだけ上がっている。いや、凄いことだよこれは。

 だってオフマンさんと一日打ち合っても5とかしか上がらなかったんだから。

 いやオフマンさんを貶してるわけじゃないよ。あの先生が強すぎるだけだから。


 それにしても実質限界が青天井なのだとしたらどれだけの期間レベルを上げないでいるかが難しくなってくるな。

 だってこの世界の仕様上、出来れば高い数値になってからレベルアップしたいし。


「これはまあ悩みどころだな」


 いくら悩んでも今答えが出るわけでもないしな。そう思って俺はステータスを見るのをやめる。

 ローグ先生に教わるようになってから驚いたのはこれだけではない。

 何と俺の知らない魔法を知ることが出来たのである。

 ……お前は魔法初心者なんだから当たり前だって? いやそれがそうでもない。


 俺は前世で本当にかなり『エアリス・オンライン』をやりこんでいた。そして主人公が手に入れられる魔法はすべて習得し、今でも記憶している。

 その俺がというのだ。つまり、ゲームには出てこない魔法をローグ先生は知っていたという事である。


 ローグ先生が何故そんな魔法を知っていたのか。それはローグ先生が持つとある魔法に起因しているらしい。

 ゲームにもある設定なのだがこの世界にはたまに『固有魔法』と呼ばれる、独自の魔法が発現している人が存在する。

 主人公も固有魔法は持っていたからそれは知っているのだが、ローグ先生の固有魔法はまさにチート級で『魔法創造』と呼ばれる、自分オリジナルの魔法を創造する固有魔法を発現しているらしい。

 

 そしてそのオリジナルの魔法というのがゲームにはなかった魔法、という事になる。


 例えば「魔弾」という魔法。本来ならば魔法を構築する際に根幹の部分で魔力に属性などの指向性を持たさなければ発現することはできない。

 しかしこの「魔弾」という魔法はその指向性を持たせるという過程を省き、単純な魔力の弾として一瞬で構築して放つことが出来るのだという。

 まさに世の理から逸脱した魔法である。


 そのため、この魔法はローグ先生にしか使えないため教えられないと言われたのだが……何故か俺は使えるようになった。

 それを知った時のローグ先生の顔と言ったらまあそれはそれは新鮮で面白かった。


「着実に成長してきてるな」


 順調に事は進んでいる。しかし、俺が相手するのはゲームには出てこなかったシュバルツへの破滅イベント。

 肝心な知識が無いため、一体どこまで上げればそれを乗り越えられるのかはまったくもって未知数なのだ。


 分かっているのはとあるの名前だけ。


 その名前を何となく思い浮かべていると、俺の部屋の扉をノックする音が聞こえる。

 それに対して返事をすると、執事のセバスが中に入ってくる。


「シュバルツ様。旦那様がお呼びです」

「うん? 分かった」


 何だろう? 疑問を抱えたまま俺は部屋から出るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る