第5話 訓練
ステータスの儀式を終えて俺が真っ先に向かった場所は屋敷お抱えの騎士達が訓練をしている場所であった。
俺の父は辺境伯というかなり高名な大貴族らしく、お抱えの騎士と言えどかなりの精鋭が揃っているとのことだ。
そして俺は最近、筋トレだけではなく騎士達と共に訓練をすることに励んでいたのである。
「おーい」
「おっ、お坊ちゃまではありませんか。また訓練ですか?」
「静が出ますなぁ」
「あれ? 儀式ではなかったですか?」
俺が話しかけると皆がそう言って出迎えてくれる。
「儀式はさっき終わったよ。だからちょっと相手になってよ」
「是非ともお相手になりましょう」
俺は模造剣を手に取ると、オフマンさんにそう声を掛ける。オフマン・エクスフォード。何を隠そう、ウチの騎士達を束ねる騎士長である。
その実力は凄まじく、エインハルト家に雇われていなければ王都の十三騎士団の内のどこかで団長をやっていただろうとまで言われるほどだという。
ゲーム内では出てこなかった名前だな。まあそうだよな。
にしてもこんな実力者が近くにいるとはラッキーである。訓練の片手間に手合わせしてくれる程度だが、それだけでもメキメキと剣術が上がってる気がする。
「お願いします」
「はい。どこからでもかかってきてください。魔法も使っていただいて構いませんよ」
いつもの様にオフマンさんと対面する。ひしひしと伝わってくる隙の無い感じ。
魔法を使っても良いというなら遠慮なく使わせて頂こう。体全体に身体強化魔法を行き渡らせる。
これは『エアリス・オンライン』において常時発動が当たり前なくらい必須な魔法である。
この魔法の質によって素の防御力や攻撃力、素早さが変わってくる。
身体強化魔法を全身にかけ終わった俺は一目散にオフマンさんへと模造剣を振るう。
うん、速くなってる。
横薙ぎに振るった模造剣がオフマンさんに当たりそうなまさにその瞬間、オフマンさんが無駄のない動作で模造剣を縦に構え、俺の攻撃を防ぐ。
「どうしました? この程度ですか?」
「いや、まだまだ!」
攻撃を防がれた俺は更に模造剣を振るう。その尽くがオフマンさんによって防がれていく。
そして幾度となく繰り返される剣戟は遂にオフマンさんが振りかざした模造剣によって俺の模造剣が弾き飛ばされて、宙を舞うところで終わりを迎える。
「筋は良いですが、まだまだですな」
「くそ~、全然勝てる未来が見えない」
圧倒的な技量の差がまざまざと見せつけられる。まあこの気持ちはこれまでに何度も味わい続けているから慣れたもんではある。
それから俺はこれ以上邪魔しちゃ悪いと一人で黙々と素振りをしたり、筋トレをしたりした後に自室へと戻る。
自室へ戻ると早速今日伸びたステータスを確認する。
【シュバルツ・エインハルト:レベル1 体力:55 筋力:60 魔力:999 魔力量:999】
今日の1回で結構伸びたな。邪神に力を渡される前のシュバルツは最弱キャラの筈なんだが、どうにもステータスの伸びが良い気がする。
因みにこのゲームは1レベルごとに決まった数値までしか上がらない仕様となっている。現段階では能力値は999までしか上がらないため、レベル1の俺の魔力量と魔力はこれ以上あがらないのだ。
そしてこの仕組みこそがキャラ育成の時に重要になってくる。1レベルごとに数値上限は上がっていくのだが、この数値上限の伸びが前のレベルで上げた数値分となっているのだ。
例えばレベル1の段階で上限が999までなのに筋力を50までしか上げなかった時、レベル2での筋力の数値上限は1049までとなる、つまり最高でも50+1049で1099までしか上げられないといった仕様なのである。
つまりレベルを上げる前に能力値を上限値まで上げることが後々重要となってくるのである。これこそが俺がレベルについて気になっていた理由だ。
そして何を隠そう、この仕様を見つけたのは俺だ。でもまあ、ゲーム内では主人公が最初レベル5から始まるから、最大効率で能力値上げは出来なかったんだけどな。
「筋力と体力上げを重点的にやりたいんだけど……これじゃあ大分時間がかかりそうだな」
どうにも自己流でやっている分、ステータスの伸び率は悪い気がする。師を仰ぎたいところではあるが、オフマンさん含め現役の騎士達は忙しいだろうし。
こういうのはやっぱり
うん、それしかない。そうと決まれば早速母に……いやこの場合は父の方が良いのだろうか。どっちでも良いか。
今日の晩御飯の時に頼もう、そう決めたのであった。
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