第4話 儀式
少し時間が経過し、俺は7歳になっていた。魔力も筋力も申し分なく育っており、初級魔法なんかは魔力回復量も併せてほぼ無限に撃ち続けられるようになった。
筋力に関してはこの幼さにして庭にある大きな岩を持ち上げられるくらいには成長した。
そして今日、俺が待ちに待っていたとあるイベントが起きるのである。
「お館様がお戻りになられました!」
屋敷にそんな声が聞こえてくる。今日は実の父親と実質初めて顔を合わせることができる日だ。
ただ、父上には悪いがそれが本来の目的ではない。それに付随して起こるとあるイベントを待ち望んでいるのである。
俺は使用人の声が聞こえるとすぐに部屋から飛び出し、母上の下へ向かう。母上も準備をしていたらしく、俺の姿を見るなり、ニッコリとほほ笑んで手を繋いでくれる。
そうして二人で階段を降り、玄関へと向かうとそこには銀色の武骨な鎧を着た一人の壮年の男性が居た。
「カイル、お帰りなさい」
「おう、久しぶりだなリリス。……っと、その隣にいるのはもしやシュバルツか?」
これが父親か。初めて出会う父親に若干困惑しながら俺はコクリと頷く。
いかにも厳格な父親という感じである。若干ビビりながら父の前に出る。
しかしその心配は次の瞬間に取り払われた。
厳格な顔つきをしていた父の顔が一瞬にして破顔したのである。そして俺の手をその分厚い手で握りしめ、高言う。
「大きくなったな~シュバルツ。立派に育ってくれて父さんは嬉しいぞ!」
久しぶりに会ったからだろうか妙にハイテンションのまま俺の身体を抱きしめてくる。あれ? 何か使用人達から聞いてた雰囲気と大分違うな。
「ふふふ、カイルったら。皆が見ていますわよ」
「おっと、それもそうだな……コホン。よくぞ立派に成長したぞ、我が息子よ」
いやいやいきなり取り繕おうとしてもさっきのニヘラ顔が脳裏にこびりついてんだよな。俺だけじゃなくてもちろんこれを見ている周囲の人たちも。
「今日はシュバルツにとって大切な儀式みたいなものがあるんだ。七歳になった子供には義務付けられているものでな。まあ安心してくれ。それほど大層な儀式でもないから」
父の話を聞いて俺はようやくだと心を躍らせる。
この儀式というのは十中八九ステータス確認の儀式だろう。ゲーム内では七歳と十歳の子供のステータスの報告義務が親に課せられていると設定で見たことがある。
この儀式を経ることによって、いつでも自分のステータスを確認できるようになるのだ。
――まあゲームの中ではの話だからこの世界でもそうなるのかは分からないんだけど……。
「セバス。儀式の準備をしておいてくれ」
「承知いたしました」
父がこの屋敷の執事であるセバスへと指示を出すと、そのままゆっくりと俺の方へと視線を戻す。
「準備ができるまでもう少し部屋で待っていてくれ。何なら父さんと遊んで待っておくかい? うん?」
「カイル。あなたにはまだやることがあるでしょう。シュバルツ、さあ行きましょうね」
母の言葉で父がああっとうめき声を上げながら悔しそうにその場で崩れ落ちる。
まったく会えなかったからか親バカが加速しているようである。
取り敢えず父があんな感じで安心した、そんなことを思いながら儀式が始まるのを待つのであった。
♢
「お坊ちゃま。準備が出来ました」
「はーい」
少し母と時間を潰しているとセバスが部屋を訪れ、そう言ってくる。
俺はそのまま母と共にとある一室へと向かう。普通の部屋よりも少し大きな部屋。
その中央には石でできた台座のような物がある。その前には父カイルが立っていた。
「シュバルツよ、こちらへ」
父に言われるがままに俺はその台座へ向かって歩いていく。あんまり形式ばった儀式ではないと言われていたけど、この一室に屋敷の人達が全員集まっているんじゃないかというくらいに人がいる。
若干緊張しながら台座の前に立つと、俺は父の顔を見る。
「これで僕はどうすれば……」
「何、簡単な事だ。手をこの台座の上に乗せるだけで良い」
こんな台座は見たことがないが、どうやらこれでステータスの数値を計測するらしい。
普段は感じないが、やはりこういうところでここがゲームの中の世界なんだと再認識させられるな。
ただ、一言でステータスと言ってもゲームと全く同じ仕様なのかが分からない。
一番見たいレベルの欄は消えていてくれるなよ……そう願い、台座の上に手を置く。
瞬間、台座から透明な板が出現する。そう、まるでゲームの時によく見ていたウインドウの様に。
そしてそこには次のような文字が浮かび上がっていた。
【シュバルツ・エインハルト:レベル1 体力:50 筋力:50 魔力:999 魔力量:999】
……何とも簡素なステータス欄だな。ゲームの時には見えた攻撃力や防御力、それから経験値や素早さといった項目が消されており、ただ基礎能力だけがそこには示されていた。
いやまあこれはこれでありがたい。基礎能力と今俺がレベル1って事さえ把握できれば後は元廃ゲーマーのゲーム知識を駆使してキャラ育成すればいいだけだ。
「これは……」
俺がウキウキとした目でステータスを眺めていると父からそんな声が漏れ出す。気付けば周囲も少しざわついているような気がする。
「どうかされましたか?」
十中八九レベルと魔力の事だろうなと思って俺は父に問い返す。レベルは絶対に
まあ流石に筋トレは始めたばっかりだし、体力作りは特にしていないから筋力と体力はまだ50しかないけど。
「いや、数値が異常だな。レベルが1というのは低すぎるし、身体能力に関して言えば
うん? 体力以外って筋力も異常値ってことか? それは意外だ。まあでも確かに幼少期から筋トレをしてる奴ってそれだけで限られてくるのか。
「まあ良い。これで報告するか。シュバルツ、ご苦労であった。一度正確な値を計測すればこの簡易計測器でいつでも計測することが出来る。まあ定期的に計測しなおさねばならないが。渡しておこう」
そう言って父が丸い石が先に付いたペンダントを渡してくれる。なるほど。これで今後は自分でステータスを確認することが出来るのか。
「ありがとうございます」
簡易計測器を受け取ると、俺はすぐに起動してみる。そして表示されたのはやはり先程と同じ文言であった。
よしよし、これで俺のキャラ育成がようやくはかどるってもんよ。
儀式の部屋から出ると俺は嬉々としてとある場所へと向かうのであった。
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