第3章 キーワード:光の三原色で生成AIに詩を書いてもらうとどうなるか?

28、お父さんは、お母さんにお願いがあるようです

「お母さん、ちょっと相談があるんだけど、いまいいかな」


 平日の夜、今日の食事当番はお父さんでした。お父さんとお母さんは二人で食器の片づけと、明日の朝ごはんの準備を分担してしています。ゆうとはその間、自分の部屋で小学校の宿題をしています。明日の朝ごはん――トマトスープーーの下準備で玉ねぎを切っていたお母さんは、お父さんの言葉に顔を上げました。


「いいけど、けっこう重要な話? だったら後でゆっくり聞くけど」

「いや、大事な話ではあるけどこのままで大丈夫だよ。ゆうとの誕生日プレゼントの件なんだ」

「ああ。それは大事だね」


 お母さんはそういいつつも、視線を玉ねぎへと戻しました。これは決して会話をおなざりにしているわけではありません。お母さんからゆうとへのプレゼントは、毎年決まっているのです。

 ゆうとが小学生になってから、誕生日プレゼントは必ず図書カードにすると、お母さんは決めていました。それでゆうとがどんな本を買ってもよいという風にして、自由に読みたい本を選んでもらっているのです。一方お父さんは、ゆうとがそのときどきで欲しいと言っていたものを買ってあげています。とはいえゆうとはあまりものをねだらない子なので、思いつかない時は職場の人や、お母さんに相談しているのですが。きっと今日も、それで悩んでいるのでしょう。


 お父さんは洗い終えたお皿を水切りかごに並べながら、ゆっくり口を開きます。


「次のゆうとの誕生日プレゼント、詩集がいいかなと思っているんだ。小学校二年生でも楽しめるような。でも、俺が本を贈ると、お母さんが図書カードを贈るのとジャンルが被るからどうかなと思って。小学校二年生で、両親からの誕生日プレゼントがどっちも本関係っていうのもさ。もちろん、ゆうとが本好きなのは嬉しいことだけど、本以外の興味も大事にしたいから」


 玉ねぎを切り終えて鍋に入れたお母さんは、再び顔をお父さんの方へと向けます。なるほど、それは確かにお母さんのプレゼント選びにも関係するお話でした。ゆうとの誕生日の一か月前という、早いタイミングで確認してきたのも頷けます。


「わたしは詩集でもいいと思うよ。その代わりに、クリスマスプレゼントをダークライダーの変身アイテムとかにすればいいんじゃない? ゆうとの誕生日とクリスマス、一か月しか離れていないしその逆でもいいと思うけど……いや、ゆうとが詩に興味を持ってくれている今のタイミングで、詩集をあげたほうがいいのか」

「そうなんだよ」


 悩んでいる理由がお母さんにも伝わったので、お父さんは大きく頷きました。 


「最近、生成AIに作ってもらった詩をゆうとと一緒に『鑑賞』する遊びをしているだろう。おかげでゆうとは、どんどん詩の技法とか、新しい言葉とかを覚えていっている。この遊びをずっと続けるのもいいけど、そろそろ人間が書いた詩にもっと触れる機会を作ってもいいんじゃないかと思ったんだ。ゆうとの関心が詩にあるうちに、ね」

「確かにね。子どもの時に好きなものってころころ変わるから。ただ、そもそも生成AIに詩を書いてもらおうと思った理由が、家にある詩集は大抵わたしが読んでいて、わたしとゆうとの間で情報格差ができてしまうから、平等に詩を鑑賞するには『今存在しない詩』をつくるしかないっていうところだったよね。だから、もしゆうとに詩集を贈るなら、わたしが知らないもののほうがいいだろうね」


 もっともな指摘に、お父さんは唸ります。


「うん。でも、お母さんの詩集コレクションはちょっとしたものだからな。読んだことのない詩集なんて、ないんじゃないかな?」

「全然そんなことないよ。詩集って、すごい数あるんだから。わたしが知らないのもたくさんある。それに、いまのゆうとに贈るなら、小学生でも楽しめるような平易な言葉で書かれているものがいいよね。わたしが読んでいるのは昔の詩人が書いたものばかりだから、子ども向けっていう視点で探したら見つかるかも」

「そうか。子ども向けの詩集。ただ、あんまりこどもだましみたいなのは選びたくないな。ゆうとは平均的な小学二年生よりも漢字が読めるし、ちょっとわからない言葉があるくらいの方が俺たちに聞いてくるから、コミュニケーションも生まれて良いだろうし。あるかなあ、そういうの」


 お父さんは、お母さんほど文学作品に詳しくありません。困り果てた様子のお父さんに、お母さんが助け舟を出しました。


「だったら、わたしがよく行く書店の店員さんと、あと図書館の司書さんに聞いてみるよ。いいアドバイスがもらえるかもしれない」

「いいの? 本当は俺からのプレゼントだし、俺が行くべきじゃないかな」


 そうは言いつつも、お父さんは不安げです。本屋さんや図書館に行っても、目的の本をさっと買うか気になる本をパラパラ立ち読みするだけのことが多いお父さんは、店員さんや司書さんときちんと言葉を交わした経験がほとんどないのです。お母さんはそれをよくわかっているので、ほほえんで頷きました。


「大丈夫。書店と図書館に行くのは日課のひとつだし、大した苦じゃないよ。それに、プレゼントってゆうとのためでしょ? ゆうとにとって良いものを贈りたいっていう気持ちはわたしも一緒。だから、今年の誕生日プレゼントは一緒に考えよう」

「そうだね。なんだかんだで毎年相談に乗ってもらっているけれど……ありがとう」


 お父さんが頭を下げると、お母さんはぽん、とお父さんの腰を手で軽くたたきました。


「お互い様でしょ。この前はゆうととれんくんのために、お父さんが半休をとってくれたし。わたしもゆうととお父さんのために、できることをしないとね」


 笑顔のお母さんに、お父さんもほっと笑みを返しました。ゆうとの誕生日プレゼント選びは、お母さんに任せておけば間違いないでしょう。とはいえまかせっきりというのもやっぱり気が引けます。ネット検索や同僚への聞き込みで、自分もできることをしようと、お父さんは心に決めるのでした。

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