27、お父さんのAI詩作成メモ・その2

 ゆうとが生活のなかで面白いと思ったことを日記に書いているように、お父さんもゆうとと遊んだ時の記録はメモ帳アプリに残しています。最近はずっと、生成AIに詩を書いてもらう遊びをしているので、その内容がもっぱらです。だいぶ数が溜まってきたので、お父さんは改めて、ここ最近ゆうとと作った詩を眺めてみることにしました。


・9つ目のお題「みつばち」

 AIが作った詩:

  “みつばち


  黄色い服を着て

  忙しく働くみつばち

  花から花へと飛び回り

  甘い蜜を集めている

  みんなの笑顔のために”


 ゆうとと話したこと:

 「黄色い服を着て」というところがゆうとは気になったらしい。みつばちは服を着ているわけじゃないと思ったようだ。俺も同感だが、試しに「服を着ているのだとしたら、皮膚は何色なんだろう?」と聞いてみた。するとゆうとは手足の色が皮膚の色なんじゃないか(人間がそうだし)と言ったので、一緒にみつばちの画像を検索した。意外と手足が黒くてびっくり。ゆうとも言っていたが、もっとミツバチの手足は茶色っぽいと思い込んでいた。


 ゆうとはみつばちの写真を見て、「全身黒タイツで、黄色っぽいアイテムを身につけている」共通点からダークライダーのことを思いだしたらしい。ゆうとは正義のヒーローであるスマイリージャーたちよりも、敵役のダークライダーのほうが好きだから、ぱっと出てきたんだろう。アニメとか特撮とかって、敵キャラのほうが魅力的だったりするよな。

 それで、俺も思い出したことがあった。ダークライダーの武器は、使うだけ命が削られるダークソード。それは、みつばちの武器である毒針と似ている。確か、みつばちの針は腸と繋がっていて、針を刺したら腸がちぎれて死んでしまうんだよな。ゆうとにそのことをやんわりと伝えたら「ダークライダーの正体はみつばちなのかもしれない」とテンションが上がっていた。確かに、もしみつばちがモチーフなのだとしたら、本当は悪い奴じゃないという気もしてくる。

 ダークソードを使い切って命が尽きたと思ったら、スマイリージャーたちの力で浄化されて元の姿に戻る、そんな展開が今後ありそうな気がしてきた。ダークライダーが「光堕ち」してもゆうとはダークライダーを好きなままでいられるのだろうか。そんなことも気になってしまった。


・10こ目のお題「てんとうむし」と「ラジオ」

 AIが作った詩:

  “てんとうむし、小さな背中

 赤い斑点が、太陽みたい


 窓辺のラジオ、歌う声

 聞こえるのは、夏の午後


 てんとうむしは、どこへ行く?

 ラジオの向こう、誰の声?


 小さな世界、大きな世界

 つながるものがある


 てんとうむし、飛び立つよ

 ラジオの歌、聞きながら”


 ゆうとと話したこと:

 昆虫つながりで、みつばちのときと同じような詩になると困ると思い、俺のほうで勝手に条件を一つ足してみた。そのせいか、五行と指定したのに十行の長い詩になっている。だが、だいぶAIが作った詩を解読することに慣れてきたゆうとは、あまり負担に感じず読むことができたみたいだった。

 窓辺のラジオというくだりから、ゆうとは友だちのれんくんの家を思い出したらしい。れんくんの家はお金持ちみたいだと、お母さんから聞いてはいたが確かにそのようだ。ゆうとの話からは、大きな庭がある一軒家で、ちょっとした藤棚のようなものがある様子がうかがえた。しかも棚の柱から、ミストが噴霧されるらしい。ビル群の一角とかでしか見たことがないが、個人宅で用意できるものなのか。ちょっと他人様の家庭事情を詮索してみたくなったが、自重しなければ。あくまでれんくんは「ゆうとの友だち」だ。親が色々首を突っ込まない方がいいだろう。

 そう思っていたら、ゆうとは、れんくんとこの遊び――AIにお題を与えて詩を作ってもらい、鑑賞する遊び――をしたいと口にした。小学校の子ども二人を家で遊ばせるには、俺かお母さんが半休をとる必要がある。お母さんは今ちょっと忙しそうだから、俺が取ろうかな。


・11こ目のお題「ヒヨドリ」と「宇宙」

 AIが作った詩:

 “ヒヨドリは高く飛び立つ

青空を高く高く

宇宙まで届きそう


宇宙には星が輝く

ヒヨドリも星になった

小さな光で夜空を照らす”


 ゆうと・れんくんと話したこと:

 お母さんと相談した結果、やっぱり俺が半休をとることになって、れんくんが家に遊びに来た。礼儀正しい子で、俺と話すのも緊張している。鳥が好きみたいで、鳥のポケット図鑑を持ってきていた。そこでゆうととれんくんでひとつずつお題を出して(れんくんは鳥の名前、ゆうとは鳥から遠そうなお題を考える)、AIに詩を作ってもらうことにした。れんくんは「ヒヨドリ」、ゆうとは「宇宙」のお題を考えてできたのが上の詩だ。


 相変わらず、「五行」というルールを守るのがAIは苦手らしい。もっとも、今後学習が進めばこの辺りも改善されるのかもしれないが、もはや行数が合わないことに関しては俺もゆうとも、初めてこの遊びをやるれんくんも気にしていなかった。むしろ詩の内容が難しくて、解釈に苦戦。

 なるべく、ゆうとが自由に思い付いたことを話してもらいたいとは思っているが、今日はれんくんも一緒だったから、ゆうとはれんくんとも話したそうだった。でも、れんくんはじっくり考えこむタイプの子みたいで、ゆうとのようにぽんぽんと言葉が出てくる感じではない。だから、ほんの少しだけ助け舟を出した。宇宙に飛んでいくヒヨドリが星になるのは、何か理由があるんじゃないかとほのめかしてみたら、れんくんは「お母さんに言われたからそうするのかもしれない」という考えに辿り着いた。そこからゆうとが話を膨らませて、ヒヨドリは空に行って星になる子とそうじゃない子がいて、星になった子もまた地上に戻ってくるんじゃないかという話に落ち着く。


 正直、俺はこの詩をぱっと見た時、宮沢賢治の『よだかの星』を連想してしまった。仲間外れになったヒヨドリが空まで行って星になったという悲しいお話なんじゃないかと。もしかしたらAIも、『よだかの星』を学習していてこういう詩を書いたんじゃないかと。でも、ゆうととれんくんはまだ、『よだかの星』を知らない。だから自由に考えて、星になったり戻ったりする鳥のイメージを作ったのだろう。この辺り、知識があるとかえって解釈の邪魔になることもあるんだなと俺も気づきがあった。

 


・12こ目のお題「ムクドリ」と「海」

 AIが作った詩:

  “海の公園、木の上で

ムクドリの群れ、おしゃべり

春の日差し、キラキラと

羽根も輝き、歌声も

みんなで遊ぶ、楽しい時間”


 ゆうと・れんくんと話したこと:

 11こ目の詩の解釈が難しかったから、二人とも疲れているんじゃないかと思ったけれど大丈夫だったらしい。ゆうとだけでなく、れんくんも言葉遊びは好きみたいだ。というわけで引き続き次のお題を考えた。れんくんは鳥好きだからマニアックな鳥も知っているだろうに、ゆうとに合わせて身近な鳥「ムクドリ」を選んでくれた。それで、ゆうとはムクドリがいなさそうな場所として「海」を選んだ。それでできた詩が上のものだ。


 ゆうととれんくんは、ムクドリは普段海辺にはいないから、きっと遠足に出かけたのだろうという結論に達していた。れんくんは鳥が好きだが、れんくんのお父さんはムクドリが好きではないらしい。だから、人間たちに追い払われたんじゃないかと心配していたけれど、ゆうとは違う意見を出した。もし、ムクドリが追い払われて、人間の近くに戻ってくるのが嫌になって海辺に行ったのなら、きっと戻ってこないんじゃないかと。でも現に、俺たちが住む家の近くにムクドリはいる。だかられんくんも少し安心したようだ。


 今度ムクドリに会ったら、自分たちは怖い存在じゃないんだと示すために挨拶するんだと言ったゆうとに、れんくんも同意した。反抗期を迎える前のれんくんは(ゆうともだが)、自分の親と違う意見を持つことが怖いと感じるのだろう。いまは確かに、見えている世界がまだまだ狭いし、親の意見が力を持ってしまうのはやむを得ない部分はある。それでも、ゆうとには「俺やお母さんと違う考え方をしてもいいんだ」というのを知っていてもらいたい。AIが作った詩を鑑賞する過程で、それに気づいてくれたら嬉しい。


・13こ目のお題「ツバメ」と「うずまき」

 AIが作った詩:

 “青空高くツバメ飛ぶ

  くるくる回る風見鶏

  春の訪れ告げる

  もうすぐ田植えの季節

  みんなで歌おう春の歌”


 ゆうと・れんくんと話したこと:

 前の二つは「鳥」と「場所」のお題だったから、「鳥が何でそこにいるのか」という話題になっていた。それに気づいたゆうとは、今度は「場所」じゃないお題を出そうということで、ちょうど食べていたクッキーの模様から「うずまき」を連想した。れんくんは、お題の鳥として「ツバメ」を指定した。けっこうポピュラーな鳥だと思うが、そういえば最近あまり見かけない。れんくんも、最初は遠慮してゆうとがすぐにわかりそうな鳥を指定していたみたいだが、慣れてきて自分が好きな鳥を提示できるようになったようだ。ちょっと我が家に慣れてくれたようでうれしい。


 ともかく、そんな二つのお題を掛け合わせてできたのが上の詩だ。ゆうとは風見鶏を見たことがなかったので、写真を見せたら「AIに短時間で繰り返し、鳥を含むお題を作ってもらっているから鳥の要素を入れてきたのかも?」という疑問を抱いていた。また、一つ前の「ムクドリ」と「海」の詩でも春という言葉が入ってたことで、AIが連続して似たような言葉を出す傾向があるのかもしれないという話も出た。ここから、


①繰り返し同じような文の生成を指示していると、俺が指示した言葉に類似した言葉を使うようになる?

②他の人が近いタイミングで繰り返し出力させている言葉があったら、俺のアカウントの出力結果も影響を受ける?


という2つの仮説が生まれた。仮説が正しいのかを知りたかったが、すこしネット検索をした程度ではわからなかった。生成AIは情報をたくさん「学習」して、その結果俺たちの質問に対してそれっぽい答えを返してくれる。だけど今回の出力結果を見てみると、「学習」はGoogleの担当者がさせているのだけではなくて、俺たち利用者の入力内容も含まれているのではないかという気はした。れんくんのお父さんの会社では、企業の機密情報を生成AIに入力するのは禁止されているらしいから、やっぱり個人情報とか、AIに勝手に「学習」されて、赤の他人に見られたら困るような情報を入力するのはやめておいた方がよさそうだ。


 それにしても、俺たちが使っている生成AI「Google Gemini」を調べると、ビジネス方面での活用とか、同じ生成AIであるChat-GPTとの違いとかばかりが出てくる。俺たちみたいに子どもと遊ぶのに使っている人はいないのだろうか。個人的には、これからを生きる子どもたちこそ、早くから生成AIに触れることで俺たちが思いもよらない使い方を思いつくんじゃないかと考えるのだが。


 上の詩について話を戻す。ゆうともれんくんも、春=上級生になるというイメージが強いらしくて、田植えが出てくるのはおじいちゃんおばあちゃんなんじゃないかと言っていた。もっとも、ゆうとのおじいちゃんおばあちゃん(俺の両親)は普通の郊外住宅地に住んでいるから、我が家では当てはまらないが。


 ただ、れんくんの実家は昔ながらの田舎で、一面に田んぼが広がり、ツバメが軒先に巣を作り、近所の人が一斉に田植えをするという感じらしい。もしかすると地主さんとかなのかもしれない。そういういかにもな「日本の田舎」を知らないゆうとは、話を聞いてれんくんの実家に行きたがった。それも、田植えをするゴールデンウィークの頃という時期の指定つきで。でも、れんくんもゆうとが一緒にじぶんの実家に来ることは歓迎のようだった。こどもふたりが乗り気だったら、親としては実現する方向で考えなければ。

 俺はれんくんのご両親の連絡先を知らないから、お母さんにお願いすることになる。れんくんのご両親は気さくな方だからOKしてくれそうだけど、まだ小学校二年生(来年のゴールデンウィークなら三年生か)のゆうとをひとりで行かせるのは少し不安もある。本当に出かけることになったら、色々細かいところを決めなくてはいけない。


・14こ目のお題「ウグイス」と「タブレット」

 AIが作った詩:

 “ウグイスとタブレット


  早春の木々、まだ芽吹かない枝に

  ウグイスが飛び、さえずり始める

  その声はまるで、春の歌

  タブレットで調べれば

  ウグイスの美しい姿も見られる”


 ゆうとと話したこと:

 れんくんが帰ってから、お母さんがれんくんのお母さんに連絡してくれた。案の定、れんくんのお母さんはゆうとが実家に泊まりに来ることを歓迎してくれたらしい。しかも、「ゆうとくんのお母さんも一緒にどうか」と誘われたとのこと。確かに、お母さんが一緒のほうがゆうとも安心だろうし、俺も安心だ。ただ、俺の実家に帰るときもそうだが、赤の他人の家に泊まらせてもらうというのはかなり気を使うだろう。ゆうとが楽しめる日を作るのは大事だが、お母さんが休める日もきちんと設けなくては。

 宿泊の話もそうだが、れんくんと二人で遊んでから、ゆうとは彼とまた一緒に遊びたいとよく言うようになった。早く半休をとって二人を迎え入れる時間を取りたいところだが、「来週すぐに取ります」と言って取れるものではないのがもどかしい。少なくとも、仕事が早く帰れる日はきちんとゆうとと向き合って話をすることは引き続き心がけていきたい。


 生成AIに詩を作ってもらう遊びは、相変わらずゆうとのお気に入りの遊びだ。ただ、数日前にれんくんと一緒に試した「お題を2つ指定して詩を書いてもらう」パターンが面白いと思ったらしく、今日はお題二つで試したいということになった。一つ目のお題はゆうとの指定で『ウグイス』(たぶん鳥を指定したのもれんくんの影響だろう)、二つ目のお題は俺が決めることになって、手にもっていた『タブレット』にしてみる。タブレットには、タッチパネル式で操作するタブレット端末と、薬やミンティアみたいな錠剤型のタブレットの2つの意味があるから、AIがどちらの意味で撮るかも興味があった。そうして出てきたのが上の詩だ。


 まず、AIは「ウグイスは春に鳴く鳥で、声がきれい。ただし、その姿を目にすることはあまりない」と認識していることがわかった。それに、タブレットは俺が意図していた「タブレット端末」のほうで解釈したようだ。もしかしたら同音異義語の場合、より機械っぽい(=AIにとって身近)意味をチョイスしやすい性質もあるのかもしれない。もう少し試してみないとわからないが。

 ゆうともウグイスの見た目がわからないようだったので、画像検索して見せたら「思ったより地味!」と驚いていた。言われてみれば、鳴き声の美しさと見た目は反比例するような気がする。例えばカワセミは、見た目はきれいだが鳴き声がどんなものだったかというのはぱっとは出てこない。

 とはいえ俺の考えが合っているとは限らない。その辺りを確かめるため、ゆうとに今度の休みの日、森林公園へバードウォッチングに出かけることを提案した。ゆうとも乗り気になってくれて、れんくんとも一緒に行きたいとのこと。確かに、鳥の図鑑を持ち歩いている彼はバードウォッチングも楽しんでくれそうだ。帰宅したお母さんに相談したら、明日れんくんのお母さんに聞いてみてくれるそうだったので、返事待ちだ。もっとも、実家への宿泊を提案した際のれんくんの家の雰囲気からして、今回もOKが出そうではある。

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