15、お父さんのAI詩作成メモ・その1
お父さんは、「家電」をお題に作った八つの詩をすべてメモ帳アプリに保存していました。そこに、ゆうととのやり取りも含めて簡単にメモを残しています。次からは別の雰囲気の「お題」にしようということになったので、改めてメモを見返すことにしました。
・1つ目のお題「お掃除ロボット」
AIが作った詩:
“ちいさな体で ゴロゴロ回る
床のゴミを くるくる吸い取る
三分で部屋が ピカピカになる
お掃除ロボットは 私の友達
お掃除が終わったら 充電してね
明日もまた よろしくね”
ゆうとと話したこと:
五行と指示したのに、生成AIは六行の詩を返してきた。やっぱりこの辺りが、まだ不完全というか、うまく使うには課題があると言われるゆえんなのだろう。しかし、ゆうとは気にするそぶりを見せなかった。確かに「詩を鑑賞する」目的ならば、何行の詩が返ってこようとあまり問題はないか(長すぎると読解に苦労するが)。
ゆうとは、まず「ゴロゴロ回る」というところが気になっていた。お掃除ロボットはスーッと動くから、ゴロゴロという擬音語はしっくりこないと。俺も同感だったが、少し突っ込んで「じゃあなぜAIは『ゴロゴロ』という言葉を選んだと思う?」と聞いてみた。するとゆうとは、「一行目と二行目が音が似ている」ことに注目した。『ゴロゴロ』と『くるくる』、『回る』と『吸い取る』がそれぞれ似たような音だと気づいたんだ。
つまり、ゆうとは無意識のうちに「韻を踏む」ということを理解していたのだ。俺は驚いた。ゆうとが国語が好きだというのは知っていたし、たぶん平均的な小学校2年生の子どもの中では語彙力も豊富なほうだと思う。でも、「韻を踏む」というちょっと高度な文章表現を無意識ながらに理解しているのはすごい。ちゃんと――ゆうとが興味を持てるように工夫しながら――教えてあげれば、すごく高度な文章もすぐに理解できるようになりそうだ。でも、あくまで「ゆうとが楽しく勉強できること」が大切だから、親があまり焦ったらだめだな。
だから、この詩を読むときはゆうとの気づきが「韻」であることを教えるにとどめた。そうしたらゆうとは、五行目と六行目も韻を踏んでいるんじゃないかと考えた。確かに、最後の二行はいずれも「よびかけ」になっているから韻を踏んでいるといえるのかもしれない。
最初、生成AIに書いてもらった詩を鑑賞する遊びを考えた時は、どういう風になるのか全く予想がつかなかったが、これだけ学びがあって、ゆうとも楽しめるのならば今後も続けていきたいと思う。幸いにして生成AIに詩を作ってもらうのは簡単だから、ゆうとが飽きるまで続けられそうだ。
・2つ目のお題「冷蔵庫」
AIが作った詩:
“冷蔵庫は白い箱
開けると光がこんにちは
今日は何が入ってる?
わくわく探検隊出発!
内緒の宝物を見つけよう”
ゆうとと話したこと:
「内緒の宝物」が何か、という話を中心にした。ゆうとは、お母さんがいないときこっそりりんごジュースを飲んでいるから、ゆうとにとっての「内緒の宝物」はりんごジュースなのだと教えてくれた。「お母さんには内緒」と言われたけれど、きっとお母さんは気づいているだろう。りんごジュースを飲んだマグカップが流しに置かれていたらそれとわかるって、ゆうとが思い至るのはいつになるのかな。
代わりに、俺はゆうとに「お母さんが冷蔵庫に隠し部屋を持っている」話をした。何でお母さんはあんなに目ざといんだろうと、ときどき俺は不思議に思う。やっぱり小さいころから家事をやってきた経験の差なのか、あるいはもともと感性が鋭い人だから、他の人がスルーしてしまうようなことにもよく気が付くのだろうか。
でも、おかげで思いがけないサプライズをしてくれるのだから、冷蔵庫のどこにお母さんの「隠し部屋」があるのかはあえて探さないでおこう。というか俺の力では、見つけられる気がしない。
大きくなったゆうとだったら、俺と違って目ざといから見つけてしまうかもしれないけれど。それはそれで楽しみではある。お母さんみたいに色々なことに気が付いて、色々な楽しい活用方法を思いつく子に育ってくれたら嬉しい。
・3つ目のお題「電子レンジ」
AIが作った詩:
“電子レンジの光の中
くるくる回る四角い箱
温かいご飯と笑顔が
飛び出す魔法の扉
今日もありがとう、電子レンジ”
ゆうとと話したこと:
「温かいご飯」と炊飯器、「笑顔」と「四角い箱」が並列されているのだとゆうとは考えた。確かに、うちではレンジでご飯を温めることはないから、レンジとご飯が結びつかないのだろう。お弁当を持ち歩くようになって、ご飯をレンチンすることが増えたらまた感想は変わるのかもしれないが。その意味で、今回のゆうとの解釈は今の年齢のゆうとだからこそ出てきたものだと思う。
特に「笑顔が飛び出す」ような「四角い箱」は何かを考えた時に、真っ先にグラタンが出てきたのは微笑ましかった。ゆうとの味覚はお母さん似だ。お母さんと好物が似ているのはかわいい。好き嫌いがないお母さんと同じく、何でも食べられる子に育ってほしい。
久しぶりに夕飯にグラタンを作ったが、お母さんにもゆうとにも大好評だった。あれだけ喜んでくれるなら、もっと頻繁に作ってもいいかもしれない。ただ、ホワイトソースを作るのに時間がかかるから、その分ゆうとと遊べる時間が短くなってしまう。そこはよしあしだ。ゆうとの宿題が多いときとか、ゆうと側の都合で一緒に遊べなさそうなときに作るのがいいかもしれない。宿題をきちんと終わらせたご褒美にもなって、一石二鳥だ。よし、そうしよう。
・4つ目のお題「炊飯器」
AIが作った詩:
“炊飯器とささくれ
炊飯器は魔法使い、
お米をピカピカご飯に変える。
ささくれはいたずら妖精、
指先をチクッと刺す。
でも大丈夫、
炊飯器のご飯を食べれば、
ささくれの痛みも忘れてられる。
魔法使いといたずら妖精、
どちらも私たちの友達”
ゆうととお母さんが話したこと:
「五行の詩を書いてください」とAIには指示しているのに、その倍の長さの詩が出てきてお母さんはびっくりしたみたいだ。最初のお掃除ロボットをお題にしたときも六行の詩が返ってきたし、AIは行数を守るのが苦手なのかもしれない。
さすがに、ゆうとは「ささくれ」の意味がわからなかったらしくてお母さんに聞いたみたいだ。そのうえで、この詩は「韻」じゃなくて「対比」が使われていると学んだ。タイトルからして「炊飯器とささくれ」だし、二つの言葉を対比させているんだということを理解したようだ。
「ささくれ」を知らなかったゆうとは、なんで炊飯器とささくれを対比させるのかわからなかったみたいだ。正直俺もよくわからない。だが、どちらも水に関係するんじゃないかというお母さんのヒントから、「ご飯を炊く過程でささくれができたら痛いけど、ご飯を食べたらおいしくて、痛みを感じなくなった」というストーリーを思いつく。
ささくれができてもすぐにそれを忘れて、ハンドクリームを塗り忘れてしまうお母さんみたいな話で少しおかしくなった。もっとも、俺が誕生日に買ってあげたハンドクリームは忘れずに塗ってほしいけれど。今回、ゆうとは「ささくれ」が何なのか覚えたから、これからお母さんの手にささくれができていることに気づいたら、心配するだろうから。
・5つ目のお題「エアコン」
AIが作った詩:
“エアコンの風
涼しくて気持ちいい
でも、あなただけ
離れていかないね
ずっとそばにいてくれて
ありがとう”
ゆうととお母さんが話したこと:
お母さんとゆうとは、三行目から四行目にかけてのくだりが疑問に思ったらしい。いわく、エアコンは動かないのに「離れていかないね」と言っているのは奇妙だと。でも、ゆうとはお母さんに「仮定」という考え方を教えてもらって、「もし、動かないエアコンが自由に動ける存在なのだとしたら、離れていかないのはふつうのことではない。だからいつも動かずにいて、涼しくしてくれてありがとう」という意味にとらえたようだ。
ゆうとが「仮定」を覚えたのは、想像の幅が広がるからとても楽しみだ。もしかしたらゆうとは、今まで無意識に「仮定」を使っていたことがあるかもしれないが、これからは意識的に使うことができるだろうから。もう少し大きくなったら、数学で「仮定」が出てくる。俺は苦手意識を持っていたけれど、小さいうちから仮定という概念を知っていたら、もう少し抵抗感が少なくなっていたかもしれない。
それはともかくとして、今俺が一人でこの詩を振り返ってみると、三行目から四行目の主語はエアコンじゃなくて、例えば家で飼っているネコとかなのかもしれないという気がした。エアコンの風は涼しくて気持ちいいけど、あったかいネコは離れていかない。いつもそばにいてくれてありがとうみたいな意味かもしれない。今度、お母さんに聞いてみよう。
・6つ目のお題「ラジオ」
AIが作った詩:
“ラジオから流れる歌
トリあえず聞いてみよう
どんな気持ちになれるかな
明日への活力になるかも
新しい世界が広がるかも”
ゆうとと話したこと:
二行目の「トリあえず」はAIの誤字なんじゃないかと俺は思ったが、ゆうとは違った。「トリ(鳥)に会えなかったから、ラジオを聞くことにした」と解釈していた。そう捉えると、後ろの文のつじつまが確かにぴったり合う。鳥の鳴き声を聞きたかったのに、鳥がいないからラジオを代わりに聞くことにした。だから、鳥の歌を聞いたときと同じような感情になれるかはわからない。それで、最後の二行が「~かも」という仮定形で終わっているのだとゆうとは考えていた。
正直、俺にそんな発想は全くなかったので驚いた。でも、言われてみればそうとしか思えなくなる。もし、AIが意図的に書いているなら「やるな、AI」と言いたくなる。しかし何より驚くのは、ゆうとが自力でそういう鑑賞方法を見出したことだ。AIがつくった詩を読むのも6回目になるから、慣れてきたのかもしれない。とはいえゆうとよりずっと多くの詩を見てきたはずの俺には柔軟な発想はわかなかったから、ゆうとには詩を読む素質があるのかもしれない。将来が楽しみだ。
ラジオの話から発展して、面白くない本や曲でも、気分が違うと面白いと感じられることもあるとゆうとには伝えておいた。いつか、ゆうとにもわかってもらえる時が来たら嬉しい。「お父さん、この本、ちょっと悲しい時に読んだら元気になるんだよ!」といった報告がもらえたらいいなと思う。もっとも、ゆうとに悲しい思いなどしてほしくないが、喜怒哀楽があるのが人間だから、いつかそういうときも訪れるだろう。喜びも悲しみも共有して、一緒に成長していきたい。
・7つ目のお題「テレビ」
AIが作った詩:
“テレビの中の色とりどりの世界
魔法の箱から飛び出す夢
小さな画面に広がる大冒険
笑顔も涙も、ドキドキもワクワクも
色鮮やかに、思い出を刻む”
ゆうとと話したこと:
この詩を見て、ゆうとは真っ先に『笑顔の戦士・スマイリージャー』のことを思い出したようだった。確かにテレビの中の色とりどりの世界と言われたら、カラフルな戦隊ものを思い浮かべるのはわかる。そこから発展して、少し前見に行ったスマイリージャーの映画の話になった。
最近の子ども向けの映画は、双方向型になっていて驚かされる。客席の子どもたちの応援がスマイリージャーに届いて敵を倒すという筋書きになっていて、子どもたちは「自分が応援したから、笑顔でいたからスマイリージャーは活躍できたんだ」と確信するだろう。案の定、ゆうともそのように考えているようだった。
でも、つらい時や悲しい時は無理に笑顔を作る必要はないのだと、ゆうとには伝えた。もちろん大きくなったら、空元気を出して頑張らないといけないときもある。それでも家にいて、お父さんやお母さんの前くらいでは自分をさらけ出してもいいのだと、ゆうとには思っていてほしい。ゆうとにとって自分の心のうちをさらけだせる居場所になっていてくれたら嬉しい。
・8つ目のお題「洗濯機」
AIが作った詩:
“洗濯機はぐるぐる回り、
白い泡を空に飛ばす。
窓の外は青空で、
めがねをかければ、
世界がキラキラ輝いて見える。”
ゆうとと話したこと:
「洗濯機」はふたをしなくちゃいけないはずなのに、泡が空に飛んで行ってることにゆうとは疑問を感じていた。ちゃんと「ふたをしなきゃだめ」ということを覚えていてくれていてよかった。それはそれとして、詩の解釈を試みる。我が家にはめがねがないから、四行目と五行目の解釈が難しそうだった。ゆうとが遊んだことのあるフィルムめがねを例に出してみたけれど、結局ゆうとは自力で「めがねについた泡は、窓ガラスについた水滴と同じように光って見えるんじゃないか」というアイデアにたどり着いた。相変わらず、ゆうとの発想力にはいつも驚かされる。
ただ、今回の詩は生成AIならではの、「人間的にはNG」な要素がふたつ含まれていた。
①ふたを開けて洗濯機を使っていること
②泡が人の顔(めがね)に飛んできていること
ふたを開けて洗濯機を使ったら、人間が怪我をする可能性があるし、洗濯機が故障してしまう可能性もある。それに、洗剤が目に入ったら失明の危険がある。前者は前からゆうとにはよく言い聞かせてあるけれど、後者についてもきちんと説明しておかないといけない。
もうすこし上の学年になったら、化学の実験で「何と何を混ぜたらいけない」という話が出てくるはずだ(中学生になったらかな?)。そのときに、ゆうとが「あ、家の洗剤と同じだ!」と気づいてくれたらいいと思う。だから早めに、ゆうとが洗濯のお手伝いができる年ごろになったら教えたい。
正直、どの洗剤とどの洗剤を混ぜたら何が危険なのかは、俺も記憶が怪しい部分がある。ちゃんと勉強し直して、ゆうとに正しい知識を伝えないといけない。生成AIとゆうとから、俺に向けられた宿題だ。
8つの詩を生成AIに作ってもらって『鑑賞』したことで、俺もゆうとも、この遊びに慣れてきた。これからも少しお題を変えて、何度か遊んでみたいと思う。自然と色々な会話が生まれて、ときには日本語の用法(韻とか仮定とか)を学ぶ機会にもなって、俺も勉強になる。また次に早く帰れる日は、ゆうとに聞いてみて「この遊びがしたい」と言ってきたらやってみよう。
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