8、お母さんとお父さんのちょっとした夫婦会議・その2
「そっか。ゆうとは色々なことを学べたんだね」
夕食後。お父さんお手製のグラタンはゆうとにもお母さんにも大好評で、三人でぺろりと平らげてしまいました。お腹がいっぱいになって満足したゆうとは、いつもより少し早くふとんの中です。少しだけ長く、ふたりだけの時間が取れたお父さんとお母さんは、約束通りゆうとが今日、どんな様子だったのかという話をしていました。もちろんお父さんが、お母さんに説明する形です。
一通りの話を聞いたお母さんは、小さく言葉を漏らします。チャットに書かれていた「韻に気づいた」の意味も、お父さんが実際に出力した生成AI作の詩を見せてもらったことでよくわかりましたし、冷蔵庫の話はお母さんも思い出して笑ってしまいました。それに、ゆうとがレンジで温めて笑顔になるもので真っ先にグラタンを挙げたのは、お母さんとの血のつながりを感じて嬉しくなりました。
生成AIに詩を書いてもらい、それを鑑賞するという遊びは、お父さんとお母さんが思っていたよりずっと多くの学びをもたらしてくれそうです。そんなお母さんの考えを読んだかのように、お父さんは相槌をうちました。
「うん。俺もゆうとと普段話さないような話をするきっかけができたし、ゆうとが色々な言葉を覚えていることも分かったし、勉強になったよ。でも、俺はお母さんほど詩に詳しいわけじゃないから。お母さんと一緒に同じ遊びをしたら、ゆうとも別の発見があるんじゃないかと思うんだ。もちろん、『お母さんとやってみたい』と言ったのはゆうとだけど、俺もお母さんと同じ遊びをして、ゆうとが何を見つけるのかは興味があるよ」
「そうだね。話を聞いてみて、わたしもやってみたくなった。でも、生成AIが上手く使えるか、自信がないんだよね」
お母さんが一番気になっていたことを切り出すと、お父さんは快活に笑いました。もちろん、ゆうとを起こしてしまわないように、小さな声で。
「大丈夫。俺がゆうとと遊ぶのに使っているGoogle Geminiは入力バーに命令文を打ち込むだけだから、簡単だよ。グーグル検索をするのとおんなじ感覚で使える。汚い字で申し訳ないけど、一応遊ぶにあたって考えたルールもあるから、いったん読んでみて」
お父さんは、ゆうととAI詩で遊ぶのを決めた時に書いたメモを手渡しました。お母さんが一通り目を通したのを確認してから、タブレット端末を差し出します。画面には、Google Geminiの入力画面が表示されていました。
「ほら、ここに文章を打ちこむだけだよ。いま、試しに入力してみたら」
「わかった。やってみる。お題は……お試しだからゆうとと同じでいいかな」
手渡されたタブレットを持ち、お母さんは『「お掃除ロボット」を含む、小学校4年生が理解できる5行の詩を書いてください』と打ち込みました。ほどなくして、Geminiから回答が返ってきます。
“小さな掃除機
小さな掃除機 お部屋をくるくる
ホコリさんバイバイ ピカピカになる
隅っこもきっちり お掃除上手
ありがとう小さな掃除機 助かるよ
お掃除ロボット ぼくの友達”
「一番上の『小さな掃除機』っていうのはタイトルなのかな? だとしたらちゃんと、五行の詩になっているね。しかもお掃除ロボットが普通の掃除機より小さいってことも理解している。改めて見るとすごいね、これ」
ゆうととお父さんが遊ぶ前に、お父さんが試しで詩を書いてもらったときもお母さんは見ていましたが、自分で打ち込んだ結果が返ってくる経験は初めてです。お父さんはそれを、にこにこと眺めていました。
「そうだよね。タイトルが入ったり、行数がちょっと指示と違ったりとかのブレはあるけれど、ゆうとと遊ぶには十分な詩を書いてくれるんだ。しかも同じ言葉を指定したのに、俺とゆうとで遊んだ時とは全然違う詩になってるし。たぶん、入力した時々で返ってくる内容も違うんだよ」
「だとしたら、生成AIが作った詩は『そのとき、その瞬間にしか見られない作品』っていうことになるね。ちゃんと記録しておかなくちゃ」
「俺もそう思って、ちゃんとメモに残してあるよ」
タブレット端末を返してもらったお父さんは、メモ帳アプリを立ち上げます。そこにはゆうとと一緒に遊んだ詩と、どんな話をしたのかが残されています。
「ゆうとが大きくなって、もっと難しい詩を学校で勉強したり、あるいは本人が詩を書くようになったりしたときに、見返したら面白いかもしれないとも考えてるんだ」
「夢が膨らむね」
横からメモ帳を覗き込んでいたお母さんは声を弾ませます。
「こんな感じで、生成AIを使うのは難しくないと思うんだけど、いけそう?」
「うん。やってみる」
お母さんはすっかり乗り気になりました。もう、明日の夕方ゆうとと遊ぶのが楽しみになっています。お父さんも、お母さんとゆうとがAI詩を見てどんな話をするのか気になります。二人はわくわくしながら、床に就くのでした。
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