私は特別。だから普通になりたい。

 白川梓わたしは特別なのかもしれない。

 ある時ふと思った。

 あんまり勉強する時間が無かったのに、周りよりも出来た。

 中学から始めたバレーは人よりも少ない努力量なのに早く上手くなった。

 それを人に誇示したりはしないけれど、人よりも顔が整っていると思う。

 そういうちょっとしたことではあるけど、いわゆるスペックというものは高いんだと思う。

 だからこそ欲しいものが何もなかった。

 だって現状に何一つ不満が無かったから。                       

 でも、あの時、彼を一目見た瞬間に思ってしまった。

――この人が私の運命の人だ。



「……」


 私は何となくここまで走ってきた。

 なんの理由も無いけれど、ただ何となく。

 あの日、彼が過去を話してくれた場所に……私が自分の気持ちに名前をつけた場所に……

 そしたら愛しの妹がいた。恋い焦がれる彼がいた。


「あ、梓さん」

「お姉ちゃん……」

「……木葉……大丈夫?」

「うん! 大丈夫だ!」

「そっか! じゃあ帰ろう!」


 何があったかは聞けずに家まで来た。



「お姉ちゃん。改めて心配をかけてごめん」

「ううん。何も無くて良かった……けど1つ罰があります!」

「それは……?」

「私とお風呂に入りなさい!」

「……」


 なんか渋られたけど無理矢理連れてきた。

 ていうか嫌な顔されたの普通にショック。

 お互い無言で服を脱ぎ、シャワーを浴びて、トリートメントを着けて濡らさないようにタオルで髪を覆う。


「ねぇ木葉」

「何……?」

「私さ、欲しいものが出来たの。今まで絶対誰にも譲れない! みたいなとこ無かった。でもこれだけは誰にも渡したくないんだ……それが木葉相手だったとしても」

「……そうか」


 木葉だってなんの話かはわかっていると思う。

 だってさっき私を見付けた時、気まずそうな顔をしていたから。


「木葉にはある? 私を泣かせてでも欲しいもの」

「私は……」


 ちょっとズルい言い方なのはわかってる。

 でも私はそれだけ本気。

 もし木葉が同じくらいの気持ちを持ってい無いのなら……


「わからない」

「わからない?」

「ああ。欲しくないと言ったら嘘になる。でもどうしても欲しいかと聞かれると返答に困る」

「お姉ちゃんは……恋をしてるんだよね?」

「……うん」

「それって、最終的にどうなりたいものなの?」


 私はしばらく考えた。

 考えた末に明確な答えはでなかったけど、なんとなく見えてきた。


「たぶん……普通になりたいんだと思う」

「普通?」

「そう、普通。に彼の隣にいてに彼が求めてくれる存在でありたい」

「そっか……」


 周りに特別扱いされてきた私だからこそ、強くそう思う。

 私はただ、当たり前のように彼の隣にいたい!


 そのあと木葉は何も言ってくれずに風呂を出る。

 風呂場に着いた鏡がいつも曇ってるように感じた。

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