私は特別。だから普通になりたい。
ある時ふと思った。
あんまり勉強する時間が無かったのに、周りよりも出来た。
中学から始めたバレーは人よりも少ない努力量なのに早く上手くなった。
それを人に誇示したりはしないけれど、人よりも顔が整っていると思う。
そういうちょっとしたことではあるけど、いわゆるスペックというものは高いんだと思う。
だからこそ欲しいものが何もなかった。
だって現状に何一つ不満が無かったから。
でも、あの時、彼を一目見た瞬間に思ってしまった。
――この人が私の運命の人だ。
*
「……」
私は何となくここまで走ってきた。
なんの理由も無いけれど、ただ何となく。
あの日、彼が過去を話してくれた場所に……私が自分の気持ちに名前をつけた場所に……
そしたら愛しの妹がいた。恋い焦がれる彼がいた。
「あ、梓さん」
「お姉ちゃん……」
「……木葉……大丈夫?」
「うん! もう大丈夫だ!」
「そっか! じゃあ帰ろう!」
何があったかは聞けずに家まで来た。
「お姉ちゃん。改めて心配をかけてごめん」
「ううん。何も無くて良かった……けど1つ罰があります!」
「それは……?」
「私とお風呂に入りなさい!」
「……」
なんか渋られたけど無理矢理連れてきた。
ていうか嫌な顔されたの普通にショック。
お互い無言で服を脱ぎ、シャワーを浴びて、トリートメントを着けて濡らさないようにタオルで髪を覆う。
「ねぇ木葉」
「何……?」
「私さ、欲しいものが出来たの。今まで絶対誰にも譲れない! みたいなとこ無かった。でもこれだけは誰にも渡したくないんだ……それが木葉相手だったとしても」
「……そうか」
木葉だってなんの話かはわかっていると思う。
だってさっき私を見付けた時、気まずそうな顔をしていたから。
「木葉にはある? 私を泣かせてでも欲しいもの」
「私は……」
ちょっとズルい言い方なのはわかってる。
でも私はそれだけ本気。
もし木葉が同じくらいの気持ちを持ってい無いのなら……
「わからない」
「わからない?」
「ああ。欲しくないと言ったら嘘になる。でもどうしても欲しいかと聞かれると返答に困る」
「お姉ちゃんは……恋をしてるんだよね?」
「……うん」
「それって、最終的にどうなりたいものなの?」
私はしばらく考えた。
考えた末に明確な答えはでなかったけど、なんとなく見えてきた。
「たぶん……普通になりたいんだと思う」
「普通?」
「そう、普通。普通に彼の隣にいて普通に彼が求めてくれる存在でありたい」
「そっか……」
周りに特別扱いされてきた私だからこそ、強くそう思う。
私はただ、当たり前のように彼の隣にいたい!
そのあと木葉は何も言ってくれずに風呂を出る。
風呂場に着いた鏡がいつも曇ってるように感じた。
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