私は一番じゃない。だから
ここでなら一番になれると思っていた。
私が負け続けていたのは姉だけ。だから姉のいない世界なら、誰も姉を知らない学校でなら!
――木葉! 凄いじゃない! 入試の成績2位だってよ!
――う、うん! 一年間頑張ってよかった!
嘘だ……一番じゃないなら、それを”頑張った”だなんていわない。
――今夜は寿司でも取ろっか!
――ほんとう? 嬉しい
嘘だ……二番のお祝いなんてうれしくない!
――新入生答辞、青野奏汰。なお、彼は本日欠席のため、代読させていただきます。
大丈夫だ、まだ負けたのは一回。次のテストで1位をとれば、だなんて考えていたら彼のスピーチが始まった。
負けた……もし私がスピーチを頼まれても、ここまで青空のように澄み切った言葉を届けられただろうか……
打ちひしがれたのはこれだけじゃなかった。
次こそはと本気で臨んだ中間テストも、自分で逃げ道を塞いで走り抜けた模試も、他の事を蔑ろにしてまで勝とうとした期末も、全部……全部二位。
――よしよし、木葉は凄いよ。どんなに負けてもめげずに戦い続けているんだから。今だって諦めて何か居ないんでしょ?
私が落ち込んでいるときに姉がくれた言葉。こういうところ含めてかなわないなと感じてしまう。
――もちろん。もう二番なんて見たくない!
――そっか。やっぱり木葉はだれよりも強いね!
私にとって一番の姉から、誰よりもと言われたのは、この上なく嬉しかった。
何だか懐かしいな……姉のお陰で今隣を歩いている奏汰を憎まずにいれている。
奏汰には私の苗字を言っていない。だから私と同じマンションだなんて知らないだろう。
ちょうどアパート前に着くと、姉が出てきた。相手は気付いていないようなので、声かけようと一歩前に出る。
「あ、奏汰君!」
「梓さん!」
「……」
そっか
「あれ? なんで木葉といっしょ?」
「あーそれは……って木葉のこと知ってるんですか!?」
そっか、私にとって一番の姉は、私では無く彼のことを先に見つけるんだ……
そっか、私から学校での一番を奪ったあなたは、姉の一番も奪っていくんだ……
「うん。だって妹だし……」
「え! 確かに苗字聞いてませんでした……『いずれ名前で呼ぶことになる』ってこういうことかよ……」
私は二人が知り合いなのを知っていた。
だから私が白石梓の妹だと奏太が知ったときどんな反応をするかを楽しみにしていたのに、今は何も……言葉が耳を通らない。
「すまない、忘れ物を……してしまった……二人とも先に帰っていてくれ!」
気付いたら走り出していた……
背から私の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
でも……今振り返ってしまったら……
こんな情けない顔なんてみせられない。みせたくない
「ああぁぁぁああ!!!」
行く当ても無く走った。
──一人では何処へもいけないくせに
涙で視界を遮られながら、私の居場所を、私を一番だと、特別だと思ってくれるような場所を探した。
──私が何かの、誰かの一番にだなんて、なれるはずが無いのに……
「ここは……どこだ……」
どんくらい走っただろうか……
とにかく止まったら私自身が壊れてしまう気がして、信号が赤だったら適当に曲がり、行き止まりなら引き返して別の道へ走り続けた。
なんも考えずに走り続けたせいで、もう現在地がわからない。
「そうだな、それが私だ。どこかに居たいだけなのに、どこにも居場所が存在しない」
それならいっそ、一人で良いじゃないか。
「木葉!」
「そう……た」
今夜は生ぬるい風が吹いていた。
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