生き方を変えた。だからもうどうでも良い。
「お前……変わったな」
「は?」
それはこちらのセリフだろ……久し振りに再会した日野次郎は、何だか雰囲気が違った。
あのギラギラしていた眼ではない。なんというか、簡単に言うと少しやつれたか?
寝坊してきたみたいだし、寝不足だったり、寝起きで機嫌が悪いのか?
「お前こそ変わったじゃないか。目が合えば勝負だ! とか今日は勝つ! だの言ってた癖に」
「そうだよ……目だよ……俺はな、みたものしか信じないんだ。だから毎回見るたびにそういうことを言っていた。実際見て、“コイツに勝ちてえ”と思ってたんだ」
「それで? 久し振りに再会した結果そうじゃなくなったと?」
「言わなくてもわかんだろ! お前が……一番!」
「何も知らないくせに……」
俺の声を欠き消すように次郎がダンダン、と大きな音を立てて階段を登っていった。
始業式が終わり、帰りのホームルームも済ませると、劇の練習が始まる。
「奏太、これが台本だ」
「木葉も名前呼び何だな」
「ああ、いずれそうしなければならないと言わなかったか?」
「言ってたけど、それってどういう……」
「木葉ーーー!!! ちょっとこっち来て!」
「ああわかった! 今いく!」
俺に“すまない”とだけ言って去っていく。
「まあ、いっか」
そんなことより早くセリフを覚えなきゃな。
劇の内容は、まあ良くある箱入り娘のお姫様を、とある騎士が連れ出し、なんやかんやあって最終的に結婚。
世界も平和になりハッピーエンド! みたいなやつだ。
ちなみに内容は木葉中心に皆で考えたらしい。
ざーと何度か読んで流れを覚えよう。そんなに長くも無いし。
俺の演じるキャラは、なんというかキザだな。
とにかく姫の事が好きで、何でもやろうとするけど案外不器用。
ダメな所もあるけれど、色んな人から好かれてて、最高に強くてカッコ良い。そんな印象。
「王道だな」
セリフをぶつぶつ言いながらキャラの解像度を挙げていたら、つい口から出てしまった。
「悪かったな、量産型で」
「あーいや、悪いことではないと思うよ? 変にオリジナリティ出そうとしても失敗しそうだし」
「そうか。それは良かった。ところでもう最終下校の時間だ。帰ろう」
周りを見渡すと数人しか残っていなかった。
切れの良いタイミング帰ったのだろうか。
「随分集中していたな、声かけにくかったぞ」
「時間ないしな」
次郎のことは不思議と頭に浮かんでこなかった。
何故かは解らない。あの頃は俺もあんなに勝ちたい、負けたくない! とか思っていたのに、どうでもよくなってしまったのか……
もう考えるのもどうでも良い……めんどくさい……
「どうしたのだ? ずいぶん暗い顔をしているぞ」
「え……ごめん。覚えるだけならまだしも、演技まで完璧にさせるのは難しいかもなあって」
そっか……俺、『暗い顔』をしていたのか。
「そうだな、それなりの期間練習してはいるのだが、あまり上達している気がしない」
何となく駅まで歩いていけど、木葉も電車通学なのか?
「難しいよなあ……俺はまず覚えるところからだし」
「内容は頭に入ったか?」
「うん」
「私が姫って全然似合わないよな」
「そうか? 木葉より似合う人はクラスにいないだろ」
アニメの中に出てきても見劣りしないほどの美しい顔を曇らせる。
「ねえ、ケヴィン……あなたはどうして私にそこまでしてくれるの?」
「ん……?」
え、何? こわ……ケヴィンというのは今回の文化祭でやる劇での主役のこと。
だけどそんなのケヴィンが姫の事好きだから以外になくないか?
「なんだ、覚えていないのか? わりと盛り上がるシーンだったと思うんだが、あまり印象に残らなかったみたいだな」
「いやいや、突然でびっくりしただけだから」
「嘘だ。そんなセリフは無い。せいぜい励むんだな」
「なにそれウザい」
お互い吹き出してから会話を再開。
「でも、どうしてあそこまでするんだろうな」
「それは……」
木葉は急に立ち止まり、下を向いてこういった。
「それは、可愛いからだよ。ケヴィンにとって、誰よりも。一番だからそうするんだよ」
そういえばホームまで同じなんだな、と彼女の表情を窺う前にどうでもいいことを考えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます