やれる能力がある。だから立候補する。
「えっと……君が青野君であってる?」
「そうだけど君は?」
花梨と雑談していたら話しかけられ、その方向を見ると、思わず目をこれでもかと見開いた。
第一印象は”綺麗な人”だった。正直”美しい”と評しても誇張ではない。切れ長の目に、綺麗な鼻立ち。肩より少し長い触りたくなるくらいサラサラな髪は、真ん中で上げられていて大人っぽさを感じる。ふと思った。梓さんとはまた違う系統だな、と。なんで梓さんのことを思いだしたのかはわからんが……
「この子は
「改めて自己紹介すると、俺は青野奏汰。席は花梨の前なの?」
「花梨……二人とも仲が良いんだな。私の席はそこだ」
そういい俺の一つ前の席を指す。
「名前で呼んでいるのは物の流れで、花梨とはさっき会ったばかりだから、仲がいいかと言われると微妙かも。もちろん仲良くなりたいとは思うけどね」
「私もだよ! 青野君、これからよろしくね!」
「なら私も木葉で良い」
「え……まあ本人がそう言うなら、木葉って呼ばせてもらうよ」
「うっ……まあ早いか遅いかの話だし仕方ないか……」
「ん?どうかした?」
なんか顔を背けてぶつぶつ言われたが、何でもないと返されてしまう。
「私は青野のことを尊敬している。君は学校に来ていないのにも関わらず、テスト1位を取っているからな」
「俺って一位だったのか」
「青野君知らなかったの? ちなみに模試も……あっ……」
何かを思い出したのだろうか。花梨は口を押さえ、木葉の方を見る。
「いや良い、私はもうそんなに引きずっていないからな」
「……ごめんね」
「謝るな!」
そう言いながら木葉は花梨のおでこにデコピンをし、“これでおあいこだ”と優しい声で、優しい顔で言う。俺がぽかんとしていると、木葉が説明してくれた。
「すまないな、蚊帳の外にして。簡単な話だ。青野は定期テストと模試の結果返されたときに居なかったから知らないと思うが、この高校では学年での一位から五位まで発表されるんだ」
「うわー実際そんなことあるんだな」
「私も驚いた。定期テストで君が一位をとったんだ。下馬評では私が一位なのでは、と言われていてな……私もその気だった分かなり悔しくて」
──次の模試は必ず私が一位を取る!
そう大々的に宣言してしまったらしい。そこから休み時間も返上で必死に勉強していたが、結果は二位。
「初めてだったよ。あそこまで本気で勉強に打ち込んだのは。そしてそれを打ち砕かれたのは……その時あまりの悔しさに泣いてしまったな」
それを周りの人は“木葉姫の屈辱”と呼んでいるらしい。
「悪かった、だなんて言わないぞ。俺は別にズル休みをしてた訳じゃないしな」
「ああ、そうしてくれ。お前に謝られてしまうと惨めな気持ちになる。能力があるものはそれを十二分に使うべきだ」
だから次回以降もどうか手を抜かないで欲しいと告げられ、朝のSHRが始まる。
先生は今日1日の流れ、諸連絡を済ませる。
ちなみに今は文化祭準備期間らしく、今週の金曜日が校内発表で土曜が一般公開。皆は夏休み期間に準備をしてたみたいで、俺だけ一切やってなかったことに対し、凄い罪悪感を覚えた。
なんか周りに段ボールが多かったのはそういうことか。
「それで残念なお知らせなんだけれど、斎藤君がインフルエンザになってしまったみたいで……」
周囲がざわめく。それより斎藤ってまさかあの斎藤じゃないよな……と考えていたら先生が話を再開する。
「それでどうするの? 斎藤君は主役だし、今から代役立てるのは難しいんじゃ……」
「なあ花梨。このクラスは劇でもやるの?」
「そうだよ! それで皆それぞれ役割あるし、斎藤君の役割は主役で、替えが効かないの!」
「なら簡単じゃん」
え? と心底不思議そうな顔をされたが、何も難しく考えることはない。だっているじゃないか、無職で、準備期間中何もしていなかった役立たずが。
「俺やりますよ。何も準備してないし、迷惑かけてしまったと思うんで」
さっき能力がある人は十二分に使うべきだと言われたばかりだし、文化祭クオリティ程度の劇なら全然出来る。そう思って立候補すると、教室中が静まり返り……
「「「「「誰!?」」」」」
「……」
……ぐすん。
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