彼女の意見は理解した。だから俺は同意しない。
二人で家まで帰ってきて、結局家にいた百華を何故うそをついたのかを問い詰めた。
「でも楽しかったでしょ? 二人きりのデートは」
そう言われた後、梓さんはいつの間にか居なくなっていた。
「で? 何が奏太を悩ませてるの?」
「やっぱり……わかっちゃう?」
「当たり前でしょ。私達仲良し姉弟なんだから」
俺はあったことを全て話す。その時言われたこと、呑み込んだ言葉、感じたこと等を余すことなくゆっくりと。
「なるほどね。梓の"一目惚れは存在する"っていう言い分は理解したけど、それでも自分を曲げることは出来ないのね」
「まあ……そうなるね。余計わからなくなったよ」
あの日感じた胸の高鳴りが何だったのかを。俺はそれを一目惚れじゃないと思った。でも梓さんなら一目惚れだとハッキリ思うだろう。
「とりあえず付き合ってみたら?」
「は?」
「まあそうなるよね。順を追って説明するけどさ、あなた恋したこと無いんでしょ?」
「無いね」
これはハッキリと答えが出てるので、即答。
「なら、"恋ってこういうもの"というイメージが無いでしょ?」
「うん」
「だからさ、恋が何かを知るべきなんだよ。恋してるのは別に自分である必要は無いの。恋してる人が近くに居続けたら、いやでもどういうのが恋かわかってくるんじゃない?」
それは駄目だろ……しかもよりによって梓さんにそれをするなんて……
「百華も知ってるでしょ。梓さんの元カレの話」
「もちろん」
「じゃあ……何でそんなこと言えるんだよ」
「酷いこと言うようだけど、あれは梓の自業自得でしょ」
髪を指でくるくるしながらはなしを続けた。
「だってさ、自覚してたんだよ。自分は好きじゃないって」
「でも! それで梓さんは傷ついたじゃないか!」
「相手の方が辛いに決まってるよ。自分のことが好きでないのを知りながら付き合うんだよ? それならいっそ振られた方がましだよ」
ハッキリと突き放すように言った。親友と自分でいってたのどうして……
「言っとくけどこれは梓に話を聞いたときも言ったからね? 陰口って訳ではないから」
「そっか」
「私は親友だからこそ、駄目なのは駄目って言ってあげたい。だからあれは梓が悪いってハッキリ伝えた」
「ごめん、話の腰を折って。だったらなおさらどうしてさっき付き合えば? なんて言ったの?」
「そりゃだってさ、私の中で奏太は梓のこと好きに成ってるんじゃないかって思ってるから」
何度言ってもそう解釈されるのか……確かに俺は一目惚れが存在することは認めた。でも俺があの日一目惚れしたということは認めていない。
「一目惚れはあるって認めたとき、ちっとも心が晴れなかった。あのとき、初めて梓さんに会ったときに見た彼女の目は、そのあとにみた俺と同じ目だったんだ」
「うん」
「だからさ、俺が恋じゃないって答えを出したとき、彼女もそうなんだろうなって思ってたんだよ」
なのに……彼女は一目惚れしたと言った。あの時と同じ目で、そう言った。
「気付いちゃったんだね。あの娘の気持ち」
「……うん」
「なら、ちゃんと受け止めてあげなきゃ、駄目だよ?」
「今の俺には……重すぎるよ」
あーあと、と百華が切り出す。
「"付き合う"ってそういう意味じゃ無いからね? これからご飯とか遊びに誘われたときに"付き合って"みたら? ってことだから」
「お前さ……」
わざとだよな? 絶対わざとだよな?
「ちょっと試しただけ。あのこのことをちゃんと見てるかを」
やっぱり、百華は梓さんのことを友達として大事にしてるんだな。もしも俺が、付き合うことにしてたらちゃんと怒ってくれていたんだろう。
「そういえば、もう少ししたら学校だね。行くの?」
「流石に行くよ」
「そう。頑張ってね」
「うん」
「……やっぱり、サッカーは……?」
探るように尋ねられた。何かを恐れているように見える。
「やらない。俺のサッカー人生はあの日終わった。サッカー自体は好きだけれど、もう本気でボールを追い掛けられないよ」
「……だよね。そういえば奏太筋肉落ちてきたね」
「確かに」
俺のふくらはぎは現役時代はボコってなっていたのに、今は気持ち盛り上がっている位。それがまるで俺の中途半端さを感じさせているようで、すぐに目を反らした。
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