二人はお似合い。だからくっつくべき。

 最初は出来心。でも二人を……可愛いそうたと愛すべき親友あずさの二人を見ていて、"結構お似合いなのでは"と思い始めた。


 二人とも恋に対して奥手。それなりの過去が双方に有るのだから、それは仕方がないと思う。でも、私が見るにもう既に両思いな気がしている。


「でも奏太はちょっとひねくれてる微妙かも」


 そうなるだけのことがあったのだけれど、私は前の奏太に戻って欲しい。どこか矛盾しているような気もするが、何でも出来る訳じゃないのを悟りながら、自分なら何でも出来ると信じて疑わず、走り回っていたあの時の彼が、姉として大好きだった。


「ん、梓か」


 梓から電話が来たのですぐにでる。


『もも……私、振られちゃったかも』

「何が……あったの?」


 状況を聞いた。奏太がももに母のことを話し、一人で帰ったらしい。


「あいつ……」

『私が……無理に聞いちゃったからかな……』

「そんなことないよ。いつかは知るだろうことだから」

『私、もっかい彼とちゃんと話したい』


 梓は強いな。諦めたりはしないのか。


「梓、2つ質問があります」

『何でしょう?』

「1つ目。奏太のこと、好き?」


 ちょっと間を空けて答えた。


『もちろん! 大好きだよ』

「梓……可愛すぎ」


 不覚にもときめいてしまった……たぶん久しぶりに外に出たときに見る太陽みたいにまぶしい笑顔で言ってたんだろうなあ。


「では二つ目。一目惚れって信じる?」

『信じる。少し前までは信じて無かったけれど』 


 これには元々答えを用意してたみたいな即答。


「何か意外」

『実体験しちゃったからね。初めて奏太くんに会って、ももの彼氏と間違えたの覚えてる?』

「一週間前だし覚えてるよ」

『あの時さ、"ずるい"って思ったんだ。どんな人なのかも知らないのに……顔しか、知らないのに……変だよね』


 それも良く覚えてる。弟と伝えたら凄くホッとしてたっけ。


『ちなみにももは信じてる? 一目惚れ』

「全然」

『そっかあ……理由を聞いても?』

「だって私、奏太より顔整ってる人見たことないし、これから現れるとも思えない」


 1分くらい沈黙が続くと返事が帰ってくる。


『まあ確かにね……現に私、彼に一目惚れしたわけだし』

「でしょ? あ、一応言っておくと、ホントに恋愛感情は無いからね? 何というか、芸術品見てるみたいな感覚」


 あの顔に加えて家事も出来るし性格も良いからそりゃモテる。バレンタインの日、放課後良く女子の集団が来てたのを思い出しながら話を続ける。


「あーあと、奏太はたぶんまだ帰ってないよ。そこの近くにサッカースタジアム有るでしょ? たぶんそこにいる」

『ありがとう!』

「行ってきな。私は家に居るから。二人で帰って来なさいよ」

『うん……ってねえ! バイトって嘘なの!?』

「あ……」


 めんどくさいことになる前に電話を切った。奏太の前で出た電話はただの業務連絡。別に人足りないからヘルプで来てくれとか言われたわけではない。


 だが、あの時敬語だったので"急に仕事入った"ってことにし、二人きりで行かせることに。我ながら即座に思い付いたのは天才か? と思った。


「日野次郎……だっけな」


 母が亡くなる少し前まで、良く病室で聞いていた名前の1つを思い出した。

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