わざとじゃない。だからこれ犯罪じゃない。
八月の序盤、夏も真っ只中の今日この頃。俺は買い出しに来ている。なにをって? そりゃあ勿論食材ですよ。3~4日分の。
そういえば姉から食費込みの給料を余分に貰っているが……
「あいつ、なんのバイトしてたらそんなに余裕出るんだ……?」
家に着いて鍵を静かに開ける。今は11時くらいだからたぶん姉は寝てる。別に夜遅くでも無ければ朝早くでも無いので、静かに開ける必要は無いのだが……なんか悪い気がするのでこうしてる。
「ただいまー……」
家に帰ると挨拶するのは癖みたいなものなので、誰も居ないのは知っているが独り言のように言うと電気が付いていた。
「あれ?起きてたの……」
そう言いながら顔を上げると、見慣れない水色が目に止まる。
「あ……」
「えっと……」
それは、普段は隠れている物である。
それは、見られたら恥ずかしい物である。
それは、基本的に女性が身に付ける物である。
それは……
「……ごめんなさい」
「いえ……」
それは、下着だった。
これは後日談だが、百華しか居ない空間だから気を抜いていて、スカートが捲れていたのではと愚姉が解説してくれた。流石に俺は悪くないはず。俺は出来ることしかやらない。こういうハプニングを避けることは出来ないことだ。
「ごめんね……奏汰君……今のは私の不注意だった……」
「いえ、こちらこそ……」
「でもさ、奏汰」
姿勢を正して百華が言う。
「責任は取らなきゃね? 可愛い弟だけれど、梓ちゃんなら安心して送りだせるよ!」
百華がうんうん、と頷きながら腕を組む。
「ちょっと何言ってるの! 私達出会って10日とかだよ!?」
「そうですね。まずはお互いを知るところから始めましょうか」
慌ててもからかわれるだけなので、敢えて乗る。
「ちょっ……奏汰君まで……」
「ていうか、ドア開ける音とか聞こえなかったけれど……もしかして奏汰狙った?」
「いや、お前が寝てるかと思って……」
何故か静まり返った。そして一泊置き……
「「優しい~!!」」
「奏汰……そこまで私のことを……」
「やっぱり責任取って貰おうかな……」
「気遣いは出来ることなので」
「流石奏太。"これくらいのことして当然だろ?"みたいな?」
「なにそれカッコいい」
梓さんまで……収集がつかなくなってしまったから、強引に話題を変えよう。
「今からご飯作るつもりなんですけれど……せっかくですし梓さんもどうですか?」
「え!? いいの? 私結構食べるよ?」
「大丈夫ですよ。今日買いだしたばかりの食材を、後でまた買いなおしに行くだけですから」
「じゃあお言葉に甘えて……って! そんなに食べないよ!!」
やべえ……頬を膨らませる動作可愛い過ぎる……いつもより少しだけ張り切って調理しよう。
「お待たせしました」
「おお~! おいしそう!」
「てかもうおいしいよ。これ」
「まあ誘っといて不味いもの出したらやばいしな」
はりきってない? とか言われる前に言い訳しておいた。ちなみにメニューはカツ丼。卵で閉じ、玉ねぎを乗せたオーソドックスなやつ。
誰かが号令をしたわけでもないが、皆声を揃えて”いただきます”と言う。
「んん~……美味しい~!!」
「学食より美味しい! 奏汰お弁当作ってえ」
「別にいいよ。学校始まったらどうせ自分のは作るし」
「良いなあ」
「まあまあ。また食べに来れば良いじゃん!」
「うん。そうする」
「それ作ってる人が言うやつだろ」
みんなで笑う。でも、こうやって複数人で食卓を囲むのは楽しいし、料理を”美味しい”と言われるのは嬉しい。なによりご飯食べながら”んん~"とか言う梓さん可愛いし。
「あのね、奏汰君。今日ね……家に妹も親もいないんだ……!」
「ゴホッ……」
ギリギリ吹かなかったが、めっちゃむせた。いきなりなにを……!!
「だからさ」
「えっと……」
「夜ご飯! 食べに行こ!」
「……はい」
姉のニヤ付いた視線は見なかったことにして、俺は早まった自分の頭殴りつけた。
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