私は年下好きじゃない。だからこれは恋じゃない。

「びっくりしたあ……あれ弟くんかあ……」

「かっこよかったなあ」


 いやいやいやいや! そんなわけないでしょ!


 年下だよ!? 私大人っぽい人がタイプなんだけど!? ……でも”ぽい”なら年下でも有りなのでは?


「……今時一目惚れなんて」

「違う! これは恋じゃない!」


 激しい自問自答を辞める。取り合えず身支度をしよう! そして改めてももの部屋に行こう。何事も楽しむことが一番! 緊張してないで、ももの弟に会えるってことを楽しもう!


 二十分後くらいにももの家に訪れた。青野家と言ったほうが良いのかな? だけれども、そもそも、ももは独り暮らしだから青野家って訳では無いか。


「よし、取り合えず入ろう」


 深呼吸してからチャイムを鳴らす。今度はあのイケメンではなく、私の親友が出てきた。


「さっきはごめんね。何か面白そうだったからからかっちゃった」

「思わずももに嫉妬しちゃったよ」


 あれ?今私なんて……


「"あんなにカッコいい彼氏いるなんて"とか思っちゃったの?」


 ももが私の耳元で囁く。


「ち、違う! ただ、礼儀正しくて可愛い子だったから……そんな"弟"が居るの羨ましいな! って思っただけだよ!」


 弟が居て、の部分を特に強調して伝える。


「そーなの! 私の弟は家事は何でも出来て、運動も出来るし勉強も出来るし、優しいんだよ? 何よりカッコいいし。あ~、何で弟なんだろう!」


 目を輝かせ、早口で弟の良さを語りまくられる。


「百華、お客さんをいつまでも立たせるなよ」

「あ、ごめんね。入って入って!」


 やっぱりカッコいいなとか思いながら、ももに手を引かれて部屋の中に。


「あれ、なんか綺麗になった?」

「あらやだ、お上手ずね」

「ももじゃなくて部屋だよ! ……あれでも私が来るだけなのに着替えてるのも髪とかしてるのも珍しいね」


 それになんかいい匂いもする。あ、ももではなく部屋ね? ご飯とか作ってたのかな?


「髪も着替えも弟の奏太にやって貰ったの」

「着替えは手伝って無いぞ」

「奏太君? ……何だが執事みたいだね」


 執事服の奏太君……かなり有りだな。洗われた皿やフライパン見て気になった。


「料理も奏太君が作ったの?」

「そうですよ? 逆に百華が作るとでも?」

「酷いよ奏太……まるで私が駄目人間みたいじゃん」

「……」

「その"こいつ自覚無いんか?"みたいな視線辞めてぇ!」


 何か見てると和むなあ……


「二人とも仲良いね」

「兄弟は仲良しが一番だからね!」

「まあ仲悪かったら同居しないですよ」

「あ、自己紹介まだだったね。私は白石梓。大学一年生で、ももとは高校大学と同じなの」


 高校時代からかなり仲が良い。同じアパートに引っ越して来ると知ったときは凄く嬉しかった。


「そうなんですね、そういえば百華が生徒会長だったって本当ですか?」

「本当だよ。ちなみに私が副会長」


 弟君は信じられないと言った様子だった。ももは外面そとづらは凄くいい。成績もトップ。指定校で超有名な私立大学へ行ったくらいに。この子が実はダメ人間と言っても誰も信じない。そのレベルの優等生である。


「俺も自己紹介してませんでしたね。高校一年、百華の弟の青野奏汰です」


 微笑んで”よろしく”と言う彼の顔を改めてみて、またドキリとしてしまう。かっこいいなあ……いやだから! 私は大人っぽい人が好きなの! だからこれは

恋じゃない!


 私は誰に対してかもわからない弁明を心の中で叫んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る