第12話 マテウス領のその後とゼロの挑戦状
この頃ゼロは首都に辿り着き首相に面会を持てめたが、何処の馬の骨ともわからぬヒューマンが首相に面会など片腹痛いわとけんもほろろに追い返された。
これ以上ここにいると逮捕し処刑するぞとまで言われた。今回のマテウス領の事で大事な話があると言っても聞く耳など持たなかった。ヒューマンが何を言っているのだと言う感じだった。
ここまで言われたら仕方がない。強行突破するかとゼロは抵抗する者達を片っ端から打ちのめして奥に進んで行った。
「あのーお師匠様、ここって首都の行政館ですよね。こんな所でこんな事して無事に済むんですか」
「まぁ無事には済まんだろうな」
「え、ええっ、それってわたし達は死刑ですか」
「お前はもう目的を達成したから心残りはないだろう」
「そ、それはそうですが・・でも」
「まぁいい。黙って付いて来い」
「は、はい」
首相の執務室の前には屈強な獣人の護衛が扉の左右に二人いたがゼロの前では何の役にも立たなかった。
そしてゼロは中に押し入った。
「何者だ。ここは獣人国の首相の部屋と知って乱入したのか。お前達は死にたいのか」
それはゼロの事を何もしらない首相秘書官だった。
首相がゼロの顔を見た途端、執務机から椅子を蹴って立ち上がり、ゼロの前に走り寄って膝をついて師への礼を取ったものだから秘書官が驚いた。
「ゼロ様、今回は一体どのようなご用でしょうか」
「あんたはマテウス領の事は知っているか」
「はい、先日案件として上がって参りましたので軍事担当官に調査を命じました」
「それでその実態はわかったのか」
「いいえ、まだその報告は受けてはおりません」
「これがその実態だ」
そしてゼロは持ち帰った大量の証拠を出した。それを目にした首相も秘書官も驚愕していた。こんな事がと。
「まさかこんな事が行われていたとは」
「だから反乱が起こったとも言えるが、半分以上は自分で行った悪政が原因だろう」
「左様でございますね。直ちに確認したします」
「バルター、軍事担当官のゲルトを呼びなさい」
「はい、只今」
「ところでゼロ様、そちらにおられるご婦人は」
「ああ、彼女はビアンカと言ってな、元クレール伯爵の娘だ。両親はマテウスに殺された。その証人だ」
「なんと」
ここまでの会話を聞いていてビアンカは驚いていた。一体このゼロと言うお師匠様は何者だと。獣人国の最高司令官たる首相がへりくだっている。
そこへ秘書官に連れられて軍事担当官のゲルトがやってきた。
「首相、何か御用でしょうか。やや、何者だ。ヒューマンの癖にこのような所で何をしておる。衛兵、衛兵」
「止めんかゲルド。お前こそ死にたいか」
「は?」
「それはいい。例のマテウス領の件はどうなっておる」
「ここでよろしのですか」
「よい、話せ」
「はい、既に制圧部隊5万を送りましたのでまもなく制圧されるでしょう」
「な、なに、今何と申した。わたしはその様な指示を出した覚えはないぞ」
「首相、所詮はヒューマンのくだらない反乱でございます。制圧が一番でございましょう」
「お前はマテウス領の内情は調べたのか」
「はい、確かな情報を得ましてそう判断いたしました」
「では聞かせて貰おうか、その情報は何処の誰から得た」
「貴様、ヒューマンの癖に何を偉そうに」
「黙れゲルト、死罪にするぞ」
「ええっ」
「正直にお答えするのだ」
そう言われてゲルトは目を白黒させてしまった。実際どんな情報も受けてはいない。巷の噂と自分の判断で決断したに過ぎなかった。
「これからその情報源を調査する。いい加減な物であったらお主覚悟は出来ているであろうな」
「あんた相変わらず生ぬるいな。だから舐められるんだ」
ゼロはゲルトの腕を引き込みそのまま蹴り上げた。ゲルトは天井に激突し落下した時には口から泡を吹いていた。
半分は意識が飛んでいたが、ゼロが腕をへし折ったら意識が戻って余りの痛さに声も出ず、口をわなわなと震わせていた。
「正直に言え。でないと今度は足もへし折るぞ」
その場が一瞬にして氷ついた。首相も秘書官もまたビアンカすらも。
ゲルトは恐怖に囚われながら全てを白状した。全て自分一人の判断だったと。そしてヒューマンなど死んでしまえばいいと思ったと。
この言葉を聞いた時、ゼロの怒りは頂点に達した。
「これが政権の中枢の意識か。俺はお前達にこの国の将来を託したが、これがその結果か。これがお前達の国の意思か」
「いえ、決してその様な事は」
「首相よく聞け。これから俺はマテウス領に行く、その結果次第では俺はお前達の敵になるかも知れん。例えハンナを敵に回そうともな。その時はこの国はないものと思え。ビアンカ行くぞ」
そして二人は隠形の術でその場から消えた。唖然としたのは首相と秘書官だった。
「首相様、あの方は一体何方なのでございますか」
「絶対に怒らせてはいけないお方だ。もし本当に怒らせたらこの国が亡ぶやもしれん」
「そ、そんな」
「直ぐに左大臣を呼びなさい」
「はい」
ゼロとビアンカは急いでマテウス領に戻るつもりだったが速足でもそれなりに時間がかかる。仕方がないかとゼロは取って置きの反重力装置を使う事にした。
これはこの世界に移転していた、地球に存在した有機体コンピューターJPT336895号から譲り受けたものだった。これでならひとっ飛びだ。
ビアンカを抱えて空中に飛び上がったゼロにしがみ付きながらビアンカは、これは飛行魔法ですか、こんなものはもうないと聞いていました。お師匠様は一体何者なんですかと半分恐れと共に聞いていた。
しかしそのスピードを持ってしても遅かった。ゼロ達がマテウス領についた時には至る所に死体が転がり、焼けた崩れた家屋が散乱し、住人は助けを求め、獣人兵達はいとも簡単にヒューマン達を殺していた。
それよりも目を引いたのは中央にこしらえられた処刑台だった。その中央には今回の反乱の首謀者としてクリスタの首が晒されていた。
それを見たビアンカはその場に崩れ落ちてしまった。まぁ無理もない。
しかしこれは聴衆の面前で行われた公開処刑だろう。何故民衆はヒューマンは助けようとしなかった。
自分達を悪政から救ってくれたかっての領主の血を引く娘ではないのか。今のヒューマンはそこまで意気地も勇気も民族の誇りすらもなくしてしまった動物となり果てたのか。
この100年で敗戦国の負け犬となり種族としての矜持も失くし自分さえ良ければ他人の犠牲はどうでもいいと言う事か。それでは生きる資格もないだろう。
しかしおかしな事にここに執事の死体はなかった。不思議な事もあるものだ。あれだけいつも一緒にいたのに。
その時処刑台の周囲に首都から送られた制圧部隊が集まって来た。
「お前達はヒューマンだな。まだ生き残っていたのか。ヒューマンは邪魔だ死ね」
そう言った時ゼロを中心に一気にゼロの気が膨れ上がった。半径1キロに渡って気の嵐が吹き荒れた。その後に残ったものは何もなかった。正に無だ。
しかしゼロの怒りはそれだけでは終わらなかった。その処刑台にだけ結界を張ってゼロはその場から空中に飛び上がった。
今日は幸いに風もない良い天気だ。これなら煙も気持ちよくこの領地全土に拡散するだろう。そしてゼロは念の為にドーム型の結界でこの領地をカバーした。
ゼロは今、中央モラン人民共和国で起こった小スタンピードを止めた時に使ったのと同じ手法で手榴弾をこの地の全土にバラ巻いた。
するとそれは地面で爆発して薄い煙の様な幕で全土を覆いだした。ただしそれは単なる煙ではなかった。一種の媒体だ。
そして次に投げた手榴弾で電磁波パルスを起こし物凄い電磁波爆発を起こした。
本来これは人体には影響がないはずなんだがこの世界では魔力に影響を及ぼす事をゼロは古代遺跡の資料から発見していた。だからこの電磁波手榴弾を作ったのだ。
これによりこの地に生息する全ての生物を殲滅した。獣人もヒューマンも分け隔てなく、善人も悪人もまさに皆殺しだ。
今ここに真の『戦場の死神』が復活した。
これは言わば使ってはいけない超絶兵器、まさに神が恐れる兵器だった。
後に残ったのは処刑台のクリスタの晒し首とビアンカだけだった。
「ではビアンカ、行こうか」
「でもクリスタの首がまだここに」
「これはこの国に対する俺からの挑戦状だ。そして俺達にはまだする事があるだろう」
「そうですね」
どうやらビアンカも薄々とわかって来た事がある様だ。
だたこのマテウス領の惨状の報告を聞いた首相一同に戦慄が走った。一瞬にして町そのものが消滅したのだ。さかここまでとは。
そしてゼロが残したクリスタの晒し首は獣人国への挑戦状に他ならなかった。状況を知れば知るほどに恐怖が襲って来た。
「ブルームよ、どうすればいい」
「はい首相。こうなればハンナ様を頼るしか方法はないかと」
「だろうな。しかしゼロ様はこうも言われたぞ。『例えハンナを敵に回そうとも俺はお前達の敵になるかも知れん』と」
「わかっております。しかし我々にはもう打つ手がございません」
「わかった。では聖地に行こう」
「はい」
こうしてゼロと獣人国は最終局面を迎える事になった。
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